プロローグ1
素人の作品です。
ほとんど作者の妄想からできた文章なので暇つぶしにでもなれば幸いです。
『もうすぐ出るぞ。勇吾。』
「ああ。」
高く、しかし重さのある声に少年は簡潔に答えた。
前の世界を出発したからまだ5分ほどしか経っていない。しかし、考え事をしていた少年にはもっと長く、または短く感じられていたのかもしれない。
『誰の事を考えていた?奴かそれとも奴らの事か?』
「両方だ。奴はあの世界に既に一年以上滞在している。これまでの事を考えれば異例なほどにな。奴らに関して言えばあの世界はホームに近い。何せ、最初に奴らの存在が確認された場所だからな。これまでの事を考えれば無関係と思わない方がおかしい。」
『確かに・・・・・敵か味方か、どういう関係であるにしろ接点があると考えるのが自然だな。偶然で片づけるにしてはあまりにも状況ができすぎている。』
「偶然・・・それで片づけられることなど稀だ。俺たちに関して言えば皆無に等しい。」
少年、勇吾は今までの事を頭の中で振り返ってみた。偶然のような出来事はたくさんあった。だが、その全てが誰かが意図的に仕組んだものばかりだった。それもかなり性質が悪く、中には人間のする事とは思えないほど残虐なものもあった。思い出すだけでも反吐がでそうだ。
「・・・・。」
今は忘れることにした。不愉快な記憶を頭の隅にしまい、勇吾は座っている相棒に視線を向けた。
―――黒い龍
一言でいうならばこれに尽きる。
より詳しく言うならば西洋の龍と行った方がいい。
その全長は100m近くありそうだ。そしてその巨体を飛ばす翼、鳥のような羽毛の生えたものではなく、蝙蝠のような両翼を広げた姿は正確な全体の大きさがわからなくなるほど圧巻だった。だが、この龍の象徴すべきはその巨体ではなく色だろう。黒いと言ってもただ黒い訳ではない。その色は黒曜石にも黒真珠のようにも見える美しい黒、闇色だった。その鱗の一つ一つが美しい光沢を持ち、加工すれば高価な装飾品にもできそうだった。
彼は勇吾と対等な契約を結んだ龍だった。
といっても、支配関係にあると言う訳ではなく、本人達にとっては相棒と呼べる仲だった。最も、彼らに自覚があるかどうか知らないが、2人を知る者たちからすれば相棒というよりは「兄弟」という表現が適当なのだが、それはここでは語らないことにする。
言い忘れたが、勇吾を背中に乗せた彼が飛んでいるのは空ではなかった。もっと言えば人はおろか生物の住む世界ではなかった。360度見渡しても何もない、幻想的な光に満ちた空間だった。そしてその前方には白光を放つ円形の穴があった。
『出口だ。場所は日本・東京でいいんだな?』
黒龍の彼は両翼を大きく羽ばたかせ、目的地の確認をした。
「ああ、拠点を作るのにも情報集めるにも都会の方が都合がいいからな。もちろん、一般人に見つからないようにしてから出ろよ。」
『わかっている。』
黒龍は息を吸い、魔力を込めて吐き出した。
すると、薄い靄のような光が黒龍の全身を覆った。
『では行くぞ!』
再び両翼を大きく羽ばたかせ、白光の中へと飛び込んだ。
勇吾のフルネームと黒龍の名前は次回以降明らかになります。