6.骨とか本とか、スペルとか
今回は二話構成です。
それではどうぞ。
「ねえねえヘイジ、本を読んで~」
壁にもたれていたヘイジのもとに、フランドールが絵本を持ってやって来た。
「ええ、構いませんが・・・」
「わーい! じゃあ早く読んでよ~!!」
歓声を上げるとフランドールは、ヘイジの膝の上に座ると絵本を広げた。
「では、失礼して・・・こほん」
一呼吸おいて、ヘイジは朗読を始めた。
「えー・・・昔々、あるお城に、それはそれは可愛らしいお姫様がおりました・・・・」
絵本の内容としては、よくある物語だった。お姫様が悪者にさらわれて、勇気ある若者に助け出されるお話。
最後に二人は結ばれるのだが・・・読み終えてからヘイジは一つ気になることがあった。
「(このお姫様を助け出した人物も、女子なんですよねえ・・・)」
ヒロインがヒロインに助け出されるとは、何か新しいジャンルの物語なのだろうか。と言うかその前に、少女と少女が結ばれてもいいものなのだろうか。
ヘイジの抱いた疑問は尽きなかった。
「あっ! この本、今日返さなきゃ!!」
そんなことを考えていると、突然フランドールが驚いたような声を上げた。
「おや、返却期限ですか。どこから借りたのです?」
「パチュリーの図書館からよ。今日気づけて良かった・・・返すのが遅れると、パチュリーはうるさいからな~」
「ほほう、あの方は図書館を・・・」
前に夕食の席で会った、紫の髪色をした少女のことだ。あの時は突然攻撃されたので、本当に驚いた。
「本を返してくるから、ヘイジはここで・・・」
「ああ、自分も同行させてもらえませんか? 改めて彼女に会っておきたいのですが」
部屋を出ようとするフランドールを引き留めて、ヘイジは彼女に頼んだ。
「うん、いいよ。じゃあ一緒に行こうか」
「ではお言葉に甘えて」
ヘイジは腰を上げると、フランドールと一緒に部屋を出た。
二人並んでしばらく歩くと、大きな扉の前にたどり着いた。
「ここがパチュリーの図書館。本がい~っぱいあるんだよ」
フランドールの言葉に、ヘイジは興味を引かれた。彼はフランドールに聞き返す。
「おお、どのような本が置いてあるのでしょう?」
「え~っと・・・とにかく、何でもあるよ!」
誤魔化すように言ってから、彼女は図書館の扉を開ける。ギギギ、ときしむ音がして扉が開いた。
フランドールの後に続いてヘイジも扉の向こうへ入り、彼は扉を閉めた。
「パチュリー、いる~?」
「おおっ・・・! これは、すごい」
名前を呼びながらパチュリーを探し始めるフランドールの後ろで、ヘイジは立ち止まって周囲を見回していた。
大きな本棚が、まるで森林のように立ち並んでいる。どこを見ても本、本、本・・・本だらけだ。ただ、そのせいか部屋全体がちょっと薄暗い。
「これだけの書物、全て読むのに何年かかることやら」
圧倒的なまでの書物の量に、ヘイジは思わずそんなことを口にした。
「人間の寿命では、到底無理でしょうね」
その時不意に、彼の背後で声がした。
「!?」
「あっ、パチュリーそこにいたんだ」
フランドールと共に振り返ると、そこには紫の髪色をした少女が、本を一冊小脇に抱えて立っていた。
「本を返しに来たよ~、返す日は守ったからね!」
「偉いわ、フランはお利口さんね」
駆け寄ってフランドールが絵本を渡すと、渡された方のパチュリーは彼女の頭を優しく撫でて、そう言った。
「それで、あなたはフランの従者の・・・ヘイジだったかしら?」
そして彼女はヘイジの方を見やった。
「咲夜から“見所がある”って聞いているわ。結構腕も立つとか」
「いえいえ、そんなことは・・・」
気がつかないところで、良い評価をされていたようだ。ヘイジは否定しながらも、内心嬉しかった。
「私の“じゅうしゃ”なんだから当たり前だよっ!」
パチュリーの横でフランドールが胸を張って言う。これもまた嬉しい。
「でも、スペルカードは持っていないみたいね」
そこで唐突に、パチュリーがそんなことを口にした。
「はい? それは如何なる物なのでしょう?」
ヘイジが問うと、彼女は彼に近寄って白紙のカードを数枚、差し出した。
「これを受け取りなさい、色々と世話になるはずよ」
「紙の札でしょうか? ・・・って、おおっ!?」
差し出されたカードをヘイジが受け取ると、一瞬で白紙から色が変わって緑色になり、その表面に文字が現れた。
「それがスペルカード。あなたの力を主に“弾幕”として使う為の道具よ」
「“弾幕”・・・ですか」
不思議そうにカードを眺めてつぶやいたヘイジに、
「ねえねえヘイジ! せっかくカードをもらったんだからさ、試してみない!?」
フランドールがはしゃいだ様子でそう言った。その瞬間、パチュリーは顔色を変えた。
「や、やめなさいフラン。ここで弾幕ごっこなんて・・・」
「ヘイジ~! いくよ~!!」
彼女が止めるのも聞かず、フランドールは図書館の天井近くまで一気に飛翔すると、カードを一枚取り出した。
「あわわ・・・って、ヘイジ! あなた従者なんでしょ!? 頼むから彼女を止めて!!」
パチュリーは慌てた様子でヘイジの背中を叩くと、そこでなぜか、げほげほと咳き込んだ。
「ああっ、パチュリー殿! いかがなされた」
「気にしないで・・・ただの喘息よ。それよりフランを」
彼女の身を案じるヘイジを止めて、パチュリーはそう言った。言われたヘイジは、フランドールの方を向くと、彼女へ叫んで呼びかけた。
「フラン嬢! “弾幕ごっこ”とやらは一度、場所を移して・・・」
「え~!? きこえな~い!!」
しかしその声は届かず、フランドールがスペルを宣言する。
「禁忌“レーヴァテイン”」
燃えさかる真っ赤な大剣が、彼女の手に握られた。フランドールはそれを、こちら目がけて振り下ろしてくる。
「ああ・・・このままだと本まで巻き込まれ・・・・げほっ、げほっ」
「パチュリー殿! ・・・ここは自分が」
咳き込むパチュリーの前に、ヘイジは一歩進み出した。そして一枚のカードを取り出す。
ヘイジはフランドールを止められるのか?
次回へ続きます。