49.招かれざる客
ご無沙汰しております。
音沙汰なくなって久しいですが、読んで頂けると嬉しいです。
館を訪ねてきたオリジンと、また出会うヘイジ。何か話があるようだ。
あれから、ちょうど二週間ほど経っただろうか。ヘイジが廊下の掃除をしていると、
「あらヘイジ、今日も精が出るわね」
「おお、パチュリー殿でしたか。ごきげんよう」
「ええごきげんよう」
向こうからパチュリーがやって来た。その手に、ヘイジの見慣れない本がある。図書館にある本を全て把握しているわけではないのだが、何となく、ヘイジにとって気になったと言った所だろうか。
彼は疑問を素直に口に出した。
「おやパチュリー殿。その本はどうしたのですかな?」
「ああ、これね。あなたの友人とかいう・・・えっと、ああそうだオリジンだっけ? あの子がね、本を借りたお礼だと言ってくれたのよ」
「ははあ、なるほど」
そういえばそういうことも言っていたな、とヘイジは思い出した。返却の催促をするようなことにならずに良かった、とも同時に思うところである。
続けてパチュリーが、何だか上機嫌な様子で話し始めた。
「いやー、こんなものをくれるなんてね。この本に載ってる術式とか、見たことないものばっかりだもの。研究のし甲斐があるわ」
「はあ、術式などはよく分かりませぬが・・・そんなに良いものなのですか?」
「ええそうよ! これで『賢者の石』の完成も近づくかもしれないわ・・・じゃ、私は研究に戻るから」
そう言い残して、さっさとその場を去っていく。あんなに生き生きしているパチュリー殿はそうそう見ないな、とヘイジは彼女を見送りながら思った。彼女の印象は、いつも椅子に座って静かに本のページをめくっている、という感じだったので。
さて、早めに仕事を終えて主の所へ戻ろう。と、ヘイジが掃除を再開しようとしたその時、
「うむ、気に入ってくれたようで何よりだ。良かった良かった」
「!・・・っと、オ、オリジン!?」
「やあヘイジ、しばらくぶりだねえ」
突然背後から聞こえた声に振り返ると、そこにはいつものように黒服を着た、オリジンがニコニコ笑顔で立っていた。思いがけない来訪に驚くヘイジだったが、そういえば前にも同じことが何度かあったな、と思い出したので、それ以上問いかけることは無かった。
代わりに彼の聞いたことは、
「ところでオリジン。あの本には、一体何が書かれているのだ?」
「ああ、『闇の結晶化』とか『闇の抽出法』なんかをまとめてあるのさ。これが自慢の研究でね・・・まず」
「は、はあ・・・」
多分説明されても分からないだろうな、と思いつつ適当に返事をすると、オリジンはため息をついた。
「・・・露骨に興味無さそうだな。ところでヘイジ、一つ聞いていいかい?」
「何だろうか?」
「どうして私にだけ敬語じゃないんだ? 私の知っている限りじゃあ、私以外の相手とは敬語で話しているようだが」
「あ、ああそれはだな・・・」
「ああいや、別に不満があるわけじゃないし、言いたくないのならいいから」
口ごもるヘイジに、オリジンが慌てたように付け足す。ヘイジは一旦黙ると、思い切ったような様子で口を開き、言葉を続けた。
「いや、本当はこの口調の方が喋りやすいのですがね。昔、悪友に『女子のような話し方だ』と言われたことがありまして・・・それから、同性や歳が下の相手に対しては先ほどのように話しているのです」
「そうだったのか。私は今の喋り方の方が、君らしくていいと思うけどな」
「はは、そう言ってもらえると嬉しいですな。ところでオリジン」
「ん? 何だね。質問した身だし、大抵のことには答えるよ」
ヘイジの肩を叩いて、笑いながらオリジンは言う。この様子なら大丈夫そうだ、と思ったヘイジは、素直な疑問を彼にぶつけてみた。
「オリジン、貴殿は・・・『月の民』なのですかな?」
「はっはっは、えっとね・・・って、はあ!?」
そのままの流れで笑い飛ばしそうになっていたオリジンだったが、すんでの所で踏みとどまり、ヘイジに鋭い視線を送る。
これは、まずいことを聞いてしまったのかも知れない・・・そう思ったのだが、ここでごまかしたりするのも逆におかしいだろう。そう考えたヘイジは言葉を続けた。
「違うのですかな? ・・・失礼なことを聞いてしまって申し訳ない」
「いや、謝ることはないさ。だって事実だし。こっちこそ、急に大声出したりして悪かったよ」
意外にあっさりとヘイジの言葉を認めると、オリジンは不思議そうに首を傾げる。
「しかし、どこでそんな情報を? 月の民については、こっちじゃあほとんど知られていないはずなんだが・・・もしかして、永淋あたりから聞いたとか?」
「いえ、パチュリー殿の管理する図書館にあったのですが」
「・・・おいおい、情報漏洩してるじゃないか。こんなんで都は大丈夫なのかね」
ヘイジの返答に、あきれ返るオリジン。ヘイジには何が何だか分からないが、取りあえず向こうの事情も複雑なのだろうな、とだけ思った。
とそこで、オリジンは急に表情を改めると、
「まあいいや、知ってるなら説明の手間が省ける。一つ、君にお願いがあって今日は来たんだ」
「自分に、頼み事ですか?」
「ああ、君の持ってる『能力』が要りようでね」
彼は一度言葉を切ってから、続けて言った。
「・・・月の都に行く。その道を開く為に、協力してもらいたいんだ」
奇妙な頼みごとをしてきたオリジン。その真意は・・・?
次回から投稿スピードを取り戻せるように頑張ろうと思います。




