5.骨のあるホネ
フランドールに振り回されっぱなしのヘイジ。
彼は今日も、彼女に遊ばれるのか?
「・・・おや?」
目覚めるとヘイジは、床に横たわっていた。どうやらあの後、気がつかない内に眠ってしまっていたらしい。
「あれ、頭が」
いつの間にか、取れていた頭が元に戻っている。
そこでふと横を見ると、自分の頭がもう一つ、昨日と同じ場所に置いてあった。
「頭が・・・生えた」
新しい頭が出来たらしい。何というか、頭が戻ったのはいいのだが複雑な気分である。
彼は体を起こした。
「よっこら、せ」
そして起きあがると、自分の体に毛布が掛けられてあるのに気づいた。フランドールが掛けてくれたのだろうか。
「おっはよー! ヘイジ!!」
とそこへフランドール本人が駆け寄ってきて、彼の首筋に抱きついた。
「ヘイジったらお寝坊さんなんだから~、私より先に起きなきゃダメでしょ~?」
笑顔で言いながら、ヘイジの頭蓋をげんこつでぐりぐりしてくる。
「も、も、申しわけございませぬ」
しかしやはり人間離れした、もの凄い力である。頭蓋骨が変な音を立て始めた。
「お仕置きしちゃうぞ~、うりうり~」
「や、や、や、やめ」
フランドールがぐりぐりの力を強めてくる。ヘイジが最後まで言い終わらない内に、バギッと凄まじい音がした。
「あっ」
「ぐわああああっ!!!」
二人が声を合わせて言う。
ヘイジの頭蓋骨を、フランドールの腕が貫通していた。
「・・・という次第なのでございます」
「あなたも大変ね」
朝食の後、一緒に食器を洗いながら、ヘイジと咲夜は話し込んでいた。
意外と彼は器用なもので、咲夜ほどではないものの、なかなか手際がいい。そんなヘイジの頭には、大きな穴が空いていた。
「でもまあ、不便はありませんし、頭の風通しが良くなりましたよ。はは」
「・・・普通、頭に風は通らないわよ」
笑い声で言う彼に、咲夜は少々あきれた。
「おっと、そうでしたか。・・・さて、フラン嬢がお待ちだ、急がなくては」
ヘイジはそう言うと、仕事のペースを早めた。
「あら、今日は何をするのかしら?」
咲夜が聞くと、ヘイジは何やら怯えたような様子で答えた。
「い、いえ・・・何をするのかは分かりませんが・・・・確実に首は飛ばされますね」
「・・・頑張りなさい」
フランドールが相手なら仕方ないのかもしれないが、遊ぶ度に首を飛ばされるとはヘイジの仕事もハードである。聞いた咲夜は、ちょっとした哀れみを覚えた。
などと話している間に、全ての食器を洗い終えてしまった。
「二人でやると、やっぱり早く終わるわね。ありがとう」
咲夜が手を拭きながら礼を言うと、ヘイジは会釈を返した。
「いえいえ・・・では咲夜殿、自分は失礼致します」
「ええ、頑張って・・・」
咲夜は言いかけて、次の瞬間に言葉を失った。
頭を下げたヘイジの頭蓋骨の穴から、黒い虫が這い出してきたのである。固そうな黒い体に六本の足、そして長い導線のような触角を持っている。
「キッチンに潜む悪魔め! ここで滅びなさい!!」
「え?」
突然咲夜はナイフを構えると、ヘイジの頭を目がけ斬りかかってきた。
「ちょ、咲夜殿・・・って、ぬわあああああっ!!!」
絶叫が響く。結局彼の頭には、穴が更に増えることとなった。
ヘイジがフランドールの部屋に戻ってくると、何やら硬質の音が聞こえてきた。
「ただいま戻りました」
「あっ、お帰りヘイジ」
フランドールが何か丸い物でリフティングをしている。先ほど聞こえた音の正体は、どうやらこれのようだ。
「おやフラン嬢、ボーリングでございますか?」
ヘイジが尋ねると、フランドールは一旦リフティングをやめて首を横に振った。
「違うよ、これは“サッカー”の練習」
「して、その球は・・・」
彼は言いかけてから、はっとした。まさかとは思うが、あり得ない話ではない。
そういえば、朝起きてからこの部屋に置いてきてしまった物があった。
「え、これ?ヘイジの頭」
彼女はその球体をくるりと回して、こちらへ向けた。予想的中である。
その丸い物には目のような空洞が二つと、口がついていた。自分で言うのもなんだが、けっこう怖い。
「や、やはり・・・」
「けっこう頑丈なんだよね~・・・なかなか壊れないや」
言いながらフランドールは、手に持った頭骨を拳で叩く。彼女の様子を見るに、結構本気になって叩いているようだ。
しかし先ほどの言葉通り、なかなか頑丈なようで表面には傷一つ付かない。
「あ~! 何で壊れないかな~? ・・・何だか悔しい」
ついにフランドールは、ヘイジの頭骨を放り投げてしまった。
頭骨は金属音を立てて床に落ちると、そのまま転がっていって、やがて壁にぶつかって止まった。
「おお、かつての我が頭よ・・・」
その様子を見て、ヘイジは小さくそうつぶやいた。まるで玩具のように扱われる自分の頭“だったもの”に、なぜか哀れみの情がわいてきたのである。
後でどこかに埋めてあげようかと思った矢先、
「あっ、そっか。いちばん簡単な方法を忘れてた~」
フランドールが何やら意味深な言葉を口にした。そして彼女は右手を開く。
「ギュッとして・・・」
開かれたその手の平に、おかしなものが形を成し始めた。例えるなら“目”だろうか。
そこで、なぜかヘイジは嫌な予感がした。
「あ、あの、フラン嬢・・・」
「ドッカーン!!!」
突如フランドールは叫ぶと、右手を強く握りしめた。先ほどの“目”が砕ける、小さな音がした。
「ぬわあああああああっ!!!?!?!!!?」
そしてなぜか、ヘイジの体が爆発して周囲に四散した。最後に頭だけが残り、床に落下する。
それを見てフランドールは首を傾げた。
「あれれ~? “本体じゃない方”を壊そうと思ったのに・・・間違えちゃった」
可愛らしい仕草でそう言うが、間違われたヘイジとしてはたまったものではない。
「もう、フラン嬢・・・」
頭だけの状態でヘイジは悲しげにつぶやくと、彼の頭が宙に浮かんだ。
そこへ、部屋中に四散した体のパーツが徐々に集まっていく。
「あはは、ホネが飛んでる」
その様子を見て、フランドールは面白がって笑う。
骨の継ぎ目が合わさっていき、やがて元通りの体が復元された。
「ふう・・・フラン嬢、これからは気をつけて下さ」
「どっかーん!」
ヘイジが最後まで言う前に、フランドールはもう一度右手を握りしめた。
彼の体はもう一度、盛大に爆散した
毎回オチがワンパターンですかね・・・
ご指摘やご感想などあれば、よろしくお願いします。