46.運、命
投稿が遅れたことをまずお詫びいたします。PCが故障していたもので。
アナザーについて話すと言い出したオリジン。
どうやら、彼女の持つ「能力」のことを伝えたいらしいが・・・?
「そういえばフランドール君とヘイジは知らなかったか。アナザーが今、永琳に診てもらっている理由だが・・・別に大怪我をしたとかじゃない。彼女の能力を抑える為に、定期的にここを訪れているんだよ。アナザーが満月の晩には周りから〝運”を奪ってしまうということは、三人とも知っているだろう」
「うん、知ってる。前にうちへ来た時がそうだったね」
「そういえばそうだったな。でも、いつもは普通の女の子なんだよな」
オリジンの言葉にフランドールと妹紅が頷く。ヘイジも口には出さなかったものの、そんなこともあったな、と思い出していた。あの晩は本当に大変だったものだ、部屋に戻れなくなって、そういえばその時にオリジンと出会ったのだったか。そんなことが思い起こされる。
とそこで、オリジンは急に表情を真剣なものにした。
「・・・実を言うと、違うんだ。彼女は満月の晩でなくとも、周りのものから〝運”を奪い取っている。君たちも三人でさえも、その対象には漏れていない」
「えっ、でも私たちは何ともないよ?」
「そうだな、フランドールの言うとおりだ。悪いことが無いとは言えないが、最近別に重大な事件が起こったことも無いぞ」
女子二人は首を傾げているが、オリジンの表情は晴れない。むしろ影が濃くなったようでもある。ヘイジは思い浮かんだことを、彼に問いかけてみた。
「・・・もしや、〝気付かない程度に少しづつ”ということでは?」
「察しがいいなヘイジ、その通り。だが〝運”は確実に減っていく、それが続くとどうなるか・・・」
「ね、ねえちょっと待って。運が減るのって、そんなに大変なことなのかな? まあ、運が無いよりはある方がいいけど」
ヘイジの言葉に、またもオリジンが暗い顔をする。そこへフランドールが疑問を投げかけてきた。妹紅もそうだな、と隣で頷いている。
フランドールの疑問に答えようとするオリジンを見て、何となく、ヘイジは彼の言わんとしていることが分かってきたような気がした。
「フランドール君に妹紅、よく分かっていないようだが・・・アナザーが奪っているのは〝ラッキー”や〝アンラッキー”のような運だけじゃないんだ。言うなれば、〝生きるために必要な運”も周りから吸い取っている」
「生きるために必要な・・・運?」
「生きていくための力の源、というわけですな。それを少しずつ頂戴している、と」
主がまだいまひとつ納得できない様子なので、ヘイジは少々失礼かとは思いつつも、横から例え話を入れてみた。彼の言葉にオリジンが、ため息まじりに頷く。フランドールと妹紅も、なるほどという風な表情を浮かべた。
が、直後に妹紅の顔がこわばった。
「ん!? ってことは私たち・・・アナザーのそばにいると」
「そうだよ、君たちの想像通り。〝運”と〝命”を、どんどん彼女に吸われていくようなものだ。気付かないうちに少しずつ、少しずつね。今は何とも無くても、いつか大きな不幸に見舞われるかも」
「だ、だがオリジン、お前の近くにいれば吸われなかったんじゃ・・・」
「私が吸われないのは〝運”の方だけだよ妹紅。もう一方に関しては私でも防ぎようがない。現に私も、少しずつだが無くなってきているのが分かる」
どうかね、と言ってオリジンはフランドール、妹紅、ヘイジを順番に見渡す。フランドールと妹紅はショックを受けたせいか何も言わず、まだ思考が追い付いていないのかぴくりとも動かない。
その一方でヘイジは、なぜ彼がこのようなことを言い出したのか、その真意を理解しかねていた。これではアナザーに対してあんまりな仕打ちである。黙っていればこれまで通り、彼女はフランドールや妹紅と友人としての交流を続けていられたはずであるのに、彼はなぜわざわざ、それを断とうとするようなことをしたのだろうか。それに、もし交流が途絶えなかったとしても、そのような事実を知ってしまってはこれまで通りの交流は望めないのかも知れないのだ。
「・・・オリジン、貴殿はなぜそのようなことを話す? 黙っていた方が、彼女にとっても」
「アナザーとは・・・半端な気持ちで接して欲しくはないんだよ。これまでにも、彼女と友達になった者は何人もいた。だが皆、彼女のそばにいると何か変だと気付くなり、離れて行ってしまったんだ」
「そんな・・・」
「だからこの程度のことで彼女への情が薄れるのなら、最初から付き合って欲しくない。アナザーが君たちをとても気に入っているようだから、今まで話せないでいたが・・・彼女のことが少しでも怖くなったのなら、もう近づかないでやってくれよ。まだ会ってそこまで長くないんだから」
淡々とオリジンはヘイジの問いかけに答える。その抑揚のない声の裏に、どこか悲しみの色が潜んでいるようにも思えたが、しかしヘイジは何も言葉が出なかった。彼に何を言えばいいのだろう、アナザーを怖がるようなことなど無い、などと今のヘイジにはとても言えなかった。そう言ってしまえば嘘になる。
妹紅とフランドールも大体同じ気持ちなのか、二人とも俯きがちの姿勢になっていた。とそこで、
「・・・ねえ、どうして早く言ってくれなかったの?」
フランドールが顔を上げ、そう言った。オリジンはすまなさそうに答える。
「悪かったとは思ってるよ。ただ・・・」
「それって、とっても幸せなことじゃないかな!?」
「そう、とっても不幸せな・・・えっ!?」
彼女の言葉を聞いて、オリジンはぎょっとしたような表情になった。今、一体何と言ったのか。ヘイジと妹紅も一瞬理解に戸惑った。きらきらした笑顔で、フランドールは続ける。
「私たちがそばにいれば、お姉さんは〝ラッキー”をもらって幸せになれるんでしょ? 一緒にいるだけで誰かを幸せにできるって、すごく嬉しいことじゃないかな。でしょ? ヘイジ、妹紅さん」
「い、言われてみれば・・・一理あるかも、知れませんな」
「ああ、確かに。他人を幸福にするって、意外と難しいからな・・・」
「お、おいちょっと待てよ御三方!」
彼女の言葉に頷く二人に、オリジンが慌てた様子で言った。
「何か忘れてないか? さっき、命が縮まるって言ったよな? 君たちは死ぬのが怖くないのか?」
「別に? だって吸血鬼って、お日様に当たったりしなければ死なないんだよ?」
「考えてみれば、私も蓬莱の薬の効能で、別に死ぬことなんて怖くなかったな」
「・・・自分も妖怪の身ゆえ、容易に死ぬようなことはないかと」
三人の答えにオリジンは、しばらく黙り込む。そして長いため息と共に、呆れたようにこう言った。
「何てこった・・・そういえば、三人とも簡単に死ぬような種族じゃなかったか。だが、〝運”が無くなれば、生きている間ずっと、不幸につきまとわれるかも知れないんだぞ? それでも」
とそこで、彼は言葉を切った。それから三人の顔を見渡すと、
「いや、愚問だったか。もう何も言うまい。では妹紅、フランドール君、ヘイジ、これからもよろしくな」
「あれー? みんな揃って何の話をしてたのかなー? 私がいない間に」
そこへ元気な声と共に、アナザーが四人のいる部屋に入ってきた。検査が終わったらしい。どこか不満げな表情をする彼女に、オリジンは笑って言った。
「ああ、アナザーか。いやね、三人に君ともっと仲良くしてくれ、っていう話をしていたんだ。勿論、みんな了承してくれたよ」
「うん! お姉さんには、幸せになって欲しいからねっ!」
そう言ってフランドールは、アナザーにぎゅっと抱き着いた。え、あれ? と少々困惑の表情を浮かべる彼女に、
「ああ、友人には自分の幸福を分けるもんだ」
今度は妹紅がその肩に手を置く。あれれれ? どういうことかと首を傾げるアナザーに、ヘイジは椅子から立ち上がると、彼女に立礼して言った。
「アナザー・・・自分も、貴殿の友人として頂けるだろうか」
「え!? い、いいけど?」
「・・・ヘイジ、固すぎ。お姉さん困ってるじゃない」
呆れ顔でフランドールが言う。妹紅も、同感だと言いたげな視線を送っている。二人からのダメ出しに、ヘイジは一体何を間違えたのだろうか、と反省していた。
その様子を、オリジンは一歩引いた所から柔らかな表情で眺めていた。
自分の「運」が減っても、それで誰かが幸せになるのなら自分の「幸福」が減ることはない。
フランドールは、そういう信念を持っていたのかもしれない。




