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45.永遠亭

女子二人とは別行動になったものの、永遠亭に到着したヘイジとオリジン。何だか、少し変わった場所のようだ。

「ほら見えた。あれだよ、あれ」

「ほほう、中々に立派なものですな」


 ふと、立ち止まってオリジンが指差した方向に、いかにも田舎の診療所、といった佇まいの建物があった。その周りで何人も忙しそうに動き回っている者がある。ヘイジにはよく見えなかったが、どうやらここで働いているようだ。

 立派だ、というヘイジの感想に、オリジンは目を丸くした。


「立派、かね? 何と言うか『寂れた診療所』って感じだと思うが」

「むむ? 自分には立派な病院に見えるのだが」

「・・・こりゃ、ジェネレーションギャップかもなあ」


 うーん、とうなってオリジンが歩き出す。“ジェネレーションギャップ”が一体何なのかヘイジは気になったが、今は一旦保留にして彼の後を追いかける。

 永遠亭へと近づくにつれて、周りで動き回っている者たちがの姿がよく見えるようになってきた。似たような格好をした少女たちが、せかせかと走り回っている。ただ、普通の少女ではない。頭にもこもことした、白い兎の耳が付いているのだ。彼女達、恐らくは妖怪兎だなとヘイジは考察した。

 それはそうとフランドールやアナザーはどこだろうか、と彼が周囲を見回していると、


「やだーっ! 注射はやだーっ!!」


 突然、耳をつんざくほどの甲高い叫び声が響き渡った。ヘイジの周りで少女が数人、卒倒する。兎の耳が大きいせいで、今の絶叫が何倍にも増幅されてしまったらしい。

 その声に反応したオリジンが、耳をふさぎつつ呆れたような表情を浮かべる。


「まったく・・・これで何回目だ?」

「い、今の声はアナザーでは? 一体何があったのか・・・」

「大したことじゃないさ。さ、行こう。しかし困ったもんだ」


 小走りにオリジンが、永遠亭の建物へと急ぐ。ヘイジも彼を追って少し早めに歩き出した。




 さて、永遠亭の中へ入ったヘイジだったが、途中でオリジンを見失ってしまった。おまけにもう一つ、嬉しくない特典が。


「ま、迷ってしまった・・・ここは一体、どこなのでしょうか?」


 何しろこの診療所、外見からは想像できないほど広く、入り組んでいるのだ。似たような廊下や部屋がいくつもあって、まるで迷路のようである。

 近くの部屋をそっと覗いてみるが、無人である。ヘイジは溜め息をもらした。これはどうしたものか、誰かに聞こうにも、近くには人っ子一人いない。彼が途方に暮れているとその時、どこかで物が壊れる音が聞こえた。


「む、今の音は?」

「うわああ、やめてー! やだよーっ!!」


 直後に響き渡った叫び声。一瞬アナザーかと思ったが、ヘイジはすぐに気がついた。今のはフランドールの声だ。

 続けて、またもや物が壊れる音がした。何人かの騒ぎ声も聞こえてくる。何が起こっているのか分からないが、主に何かあったようだ。


「フラン嬢、今行きますぞ!」


 ヘイジは先程の音源を目指して駆け出した。聞こえ方からして、そう遠くはなさそうである。

 彼が急ぐ間にも、破壊音と騒ぎ声が止まない。これは、主がかなりまずい状況にあるのではないか、ヘイジは不安感をつのらせた。いくつものドアや襖を開け、和室や洋室を抜けていく。音源が段々と近づいてきた。

 聞こえる音が大きくなってきた所で、近くにあった大きめのドアを開けると、


「ヘイジ! お願い助けて!!」

「フラン嬢! どうされたのです!?」


 フランドールが勢いよく飛び出してきて、ヘイジの胸に飛び込んできた。そっと丁寧に抱きとめた彼に、彼女は目を潤ませながら説明を始める。


「みんな酷いの! お兄さんもお姉さんも妹紅さんも、お医者さんも・・・」

「何と。一体、皆様に何をされたのですか?」

「お医者さんがね、私に『さ、あなたにも注射するよ!』って言い出したの。イヤだって言ったら、みんなで私を取り囲んできて・・・それで、怖くなって・・・」


 途中で彼女は言葉に詰まり、そのまま押し黙ってしまった。よしよしと主をなだめつつ、ヘイジは彼女が出てきた部屋をそっと覗き込んでみる。

 自らが目にした光景にヘイジは言葉を失った。部屋の中は台風でも通ったのかと思うほどの荒れようである。窓は割れ、机や椅子は床に倒れ、粉々になったガラス器具の破片がそこら中に散乱している。そして、五人の人物が床の上でのびていた。オリジンとアナザー、先程出会った妹紅という少女、医師らしき女性・・・確か八意永琳だったか、とヘイジは思い出した。それと兎の耳が付いた少女が一人。

 ヘイジがぽかんとしていると、おもむろに永琳が起き上がった。




「少しからかったつもりが・・・まさか、こんなことになるなんて」

「ご、ごめんなさい・・・」


 兎の耳が付いた少女に包帯を巻きつつ、医師の永琳は言った。フランドールが謝ると、彼女は首を横に振る。


「いえ、私も面白がってやり過ぎたわ。謝るのは、こちらの方よ」

「悪かったよフランドール君。私たちまで悪ノリしてしまって・・・妹紅に止められた時、すぐにやめていれば良かったなあ」

「だから言ったのに・・・ええと、フランドール? 怖い目に遭わせてごめんな」


 永琳に続いて、オリジンと妹紅がフランドールに言葉をかける。なぜかこの二人は軽傷で、体にはかすり傷ぐらいしか見受けられない。

 三人の話を聞いた所によると、アナザーの注射が終わった後に永琳が、冗談でフランドールにも注射するぞと言い出したらしい。本気にして怖がる様子が面白かったので、周りの皆も一緒になってからかっていた所、恐怖が極限にまで達したフランドールが暴れだしたということだった。


「ところで、アナザーは?」

「あ、そういえばお姉さんがいないね。どこ行ったのかな?」


 とそこで、ヘイジはふと誰にということもなく聞いてみた。たった今気がついたが、彼女の姿が見当たらない。フランドールも不思議そうに周りを見渡す。

 すると永琳がおもむろに言った。


「彼女は、ちょっと精密検査が必要で・・・」

「えっ!? 私、お姉さんに大怪我させちゃった・・・?」

「いや、それとは関係無いんだ。ただアナザーには、色々とあってね」


 青ざめるフランドールに、横からオリジンがなだめるようにそう言った。それから彼は、何やら考え込むようにうなると、もう一度口を開く。


「いい機会だ。フランドール君とヘイジにも、友人としてアナザーのことを知っておいてもらおうかな」

「え? おいちょっと待て! そんな話、初耳なんだが」


 とそこで横槍を入れるかのように、妹紅が話に入ってきた。するとオリジンは困ったような表情になる。


「・・・ごめん、妹紅には何だかんだで言いそびれていたよ。じゃあ三人とも、よく聞いてくれ」


 四人のそばにいた永琳が、ちょっと邪魔のようね、とつぶやいて、手当ての終わった兎耳の少女と部屋を出ていく。ヘイジ、フランドール、妹紅の三人は手近な椅子に座って、オリジンが話すのを待った。


アナザーの話を始めるオリジン。ヘイジやフランドールを友人だと見込んでのことらしいが、彼は何を語るのだろうか。

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