44.道中の遭遇
永遠亭へと向かう一行。その途中で、ある人物と出会う。
さて、四人は現在竹林の中。オリジンの後に従って歩みつつ、ヘイジは違和感を覚えていた。
何かが決定的におかしい気がするのだが、一体何がおかしいのか分からない。周りをよく見渡してみてもごく普通の竹林である。おかしいのは自分の方だろうか、そう思いつつふと後ろを振り返ると、
「ううむ・・・ん!? 待て、オリジン!」
「ん? 何だ、大声なんか出して」
「フラン嬢とアナザーの姿が見えない! はぐれたのでは!?」
呑気な声で応じたオリジンだったが、ヘイジの言葉を聞くと一瞬にして顔が青ざめた。ばっ、と彼も後ろを振り返る。
「そりゃまずい! この竹林、方向感覚を狂わせる仕掛けが幾重にも施されているんだ」
「何と! では早く二人を捜さないと」
「・・・いや、よく考えたら心配する必要は無いな」
焦るヘイジに対して、オリジンは何やら一人で納得した様子を見せると、そのまま先へ進もうとする。
一体何を考えているのだこの少年は、とヘイジは呆れた、と言うよりもむしろ怒りを覚えた。身内や友人が危ないかもしれないというのに、どうしてこのような態度を取れるのだろうか、彼はオリジンに駆け寄ると、その肩をがしっと掴んだ。
「痛っ! 何だ、そんなに強く掴まなくても・・・」
「フラン嬢やアナザーに危険が迫っているかもしれない。貴殿はそれを放っておくのか!?」
「そ、そんな怖い顔するなって。言葉が足りなくて悪かった、説明するから落ち着いてくれよ」
ひええ、と慄きつつオリジンは言った。まあ言い訳ぐらいは聞いてやろうか、とヘイジは手を離す。解放されたオリジンは一旦呼吸を整えて、話を始めた。
「そこら辺でウサギが遊んでるだろうし、それに出会えれば永遠亭まで案内してくれるさ」
「そのウサギに会えなければ?」
「・・・たくさんいるから、その心配は無さそうだが。仮に会えなかったとしても、この辺りに詳しい子が巡回しているから、“彼女”に拾ってもらえるだろう」
なるほど、とヘイジは納得した。彼の言うことが本当であるなら、確かにあまり心配はいらなさそうである。しかし“彼女”とは一体何者なのか、ヘイジがそう問いかけようとした所に、
「あ、ヘイジにお兄さん。こんなところにいたんだ」
「もう、勝手にはぐれないでよー。心配したんだから」
背後からした声に振り向くと、フランドールと少し怒った様子のアナザーの姿がそこにあった。いやはぐれたのはそちらだろう、とヘイジは言いかけて、彼女ら二人の横に目が止まった。
白い上着、赤いもんぺを身に着けた少女が、二人のそばに立っている。真っ白な髪と、それを留めた大きなリボンが印象的だ。
「おっ、もこたんじゃないか。今日も見回りご苦労様」
「その呼び方はやめろ、背中がかゆくなる」
オリジンがビシッ、と敬礼のポーズを取る。するともこたん、と呼ばれた少女は急に苦虫を噛み潰したような表情になった。彼の呼び名が、よほど嫌だったようである。彼女の態度に、おっとごめんよ、とオリジンが謝る。
まさか本名ではあるまいな、とヘイジが思っていると、少女が彼の方を見て言った。
「オリジン。横のそいつは、見かけない顔だがお前の友人か?」
「ん? ああ、そうそう、彼の名はヘイジ。紅魔館で従者をやってるんだ」
片手でヘイジの方を示してオリジンが言う。彼に紹介されたので、ヘイジは少女に軽く頭を下げた。
「ヘイジと申します。以後、お見知りおきを」
「おう。私は藤原妹紅だ、こちらこそよろしくな」
なるほど、『もこう』だから『もこたん』ということか。ヘイジは何となく納得し、同時にその名では呼ばないようにしよう、と心に留めた。
とそこで、アナザーとフランドールが妹紅の服の裾を引っ張った。
「ねーねー! もこたんも一緒に永遠亭まで行かない?」
「あ、そうだね! もこたんさん、一緒に行こうよ」
『やめろ』と本人がつい先程述べたばかりにも関わらず、そのタブーをいきなり犯した二人が。自分の主がその二人に含まれているのが、ヘイジとしては頭の痛い事態であった。隣でオリジンも呆れている。
ぎりっ、と軋むような音がヘイジには聞こえたような気がした。まずい、これは本気で怒っている。どうにか妹紅に落ち着いてもらおうと、彼が割って入ろうとすると、
「・・・そ、そう、だな。ちょうど用があったし、同行するかな!」
「決まりね! じゃあ行こう」
「ねえ、もこたんさん。永遠亭ってどっち?」
彼女は笑顔で、アナザーとフランドールに言った。顔が引きつっている上、額に血管が浮き出ているので激怒しているのが丸分かりなのだが、二人は気付いていないらしい。
アナザーとフランドールは妹紅の両側にそれぞれくっついて、わいわい騒ぎながら先に行ってしまった。オリジンが溜め息をもらす。
「はあ・・・『あれ』に引き込まれたら、もう抗えないよな。さて私達も行こうか」
「うむ。しかしフラン嬢、自分といる時よりも楽しそうに・・・」
ヘイジが小声でつぶやくと、オリジンはおかしそうに笑った。
「何だ、妬いてるのか? 意外とやきもち焼きなんだな君は」
「むっ!? そ、そのようなことは」
「さあ行こう! 早く来ないと置いていっちゃうぞ」
からかうような彼の口調にヘイジはむっとしながらも、後についていかなければ道も分からないので、大人しく付き従った。
しかしオリジンの言う通り、自分はやきもち焼きなのかもしれないぞ、と彼は密かに思っていたりしていた。
気ままな女子二人組。周りを巻き込んでいく彼女らに、男子二人組はなかなか気が休まらないようだ。




