43.早朝の外出
外出の許可をもらって、早速出かけるフランドールとヘイジ。しかし、いきなり問題が発生する。
「では、二人ともお気をつけて行ってらっしゃいませ」
「行って参ります美鈴殿」
「いってきまーす!」
フランドールの元気な声が、青空の下で響く。
門番の美鈴に見送られ、ヘイジとフランドールは正門から、紅魔館を出発した。二人ともここから外へ出るのは前の大晦日以来である。何だか新鮮な気分であった。
しかし門を出てからすぐに、二人の足は止まってしまった。よく考えてみれば、ヘイジもフランドールも外へ出た経験があまり無いので、どこに何があるのかよく分からないのだ。二人ともしばし、考え込む。
「・・・さて、どこへ足を向けたものか」
「うーん・・・とりあえず、ずっと真っ直ぐ歩いてみようよ。そのうち、どこかに着くはず」
「そう、ですな。そうしましょう」
ヘイジは一応、無縁塚と人里の場所ぐらいは知っているが、今は敢えてフランドールと行くような所だとは思えない。彼女の提案に従って、まずは直進してみることにした。
朝日がさんさんと降り注いでまぶしい。フランドールは日傘を差してはいるものの、主が日光に当たらないか心配なヘイジは、太陽のある側に立って歩いていた。
「ねえヘイジ、ちょっと気になったんだけど・・・ヘイジと八雲紫さんって、結局どんな関係なの?」
そんな中、おもむろにフランドールが聞いてきた。
恋人かと思っていたけど違ったし、だったら一体何なんだろう。親しそうに見えたけど、あれから一日経った今もヘイジからは何も話してくれないし――という素朴な疑問を彼に投げかけたのであるが、ヘイジは答えに詰まってしまった。
「え、ええと・・・何と申し上げればよろしいのやら」
「えっ!? もしかして、その・・・声に出しては言いにくい関係?」
フランドールが、日傘を放り出してしまいそうな程のリアクションを見せる。彼女は男女のそういう関係について、パチュリーの図書館の本で読んだことがあった。
何と言うか、ドロドロとしていて気持ちが悪いのだが、なぜか引き込まれる魅力があったことを覚えている。ヘイジと八雲紫がそういう関係なら、フランドールとしては、不謹慎ではあるが彼に詳しく話を聞きたい所であった。
そして、彼女に何か誤解されていることを、ヘイジは薄々感づいていた。
「いえいえ! そうではないのですが、色々と複雑な事情がありまして」
弁解を試みるが、良い言い回しなど、すぐには思い浮かばない。まさか正直に、『百年来の怨みがある相手』などと答えるわけにもいくまい。彼は悩んだ。
そんなヘイジの様子からフランドールは、これは本当に二人は『そういう関係』なんじゃないか、と想像を膨らませていた。
まずい、このままでは螺旋階段をどんどん下っていくように、状況は悪化するばかりである。ヘイジが思ったその時、助け舟が現れた。
「おや、フランドール君に・・・ヘイジじゃないか」
「あっ、フランちゃん久しぶりー。二人もお散歩?」
「お兄さんにお姉さん! こんな所で会うなんて、奇遇だね」
黒いコートの少年と、セーラー服姿の少女。オリジンにアナザー、とヘイジが言う前に、フランドールは二人の前に飛び出していた。よほど嬉しかったらしい。
まあヘイジが知る限り、この二人は紅魔館の住人以外で初めて出来たフランドールの友人である。彼女がはしゃぐのも理解できた。あと、八雲紫との関係についての話題が逸れたので、ヘイジとしてはかなり助かっていたりする。
「して、二人はどうしてここに?」
「もちろんお散歩・・・」
「いや、ちょっと永遠亭まで用事があってね」
ヘイジの問いに、アナザーの言葉を遮ってオリジンが答える。永遠亭、その名詞にヘイジは聞き覚えがあった。
確か自分が体調を崩した時に、わざわざこちらまで出向いて診察してくれた女医がいたのだ。その女医がやっているという診療所が、そんな名前だった気がする。ヘイジが思い返している間に、フランドールは(恐らく)年上の二人と話し込んでいた。
「永遠亭? あ、聞いたことある。竹林の中にあるっていう・・・宇宙人たちの研究所だっけ?」
「フランドール君、間違ってはいないが・・・一応あそこは診療所だからな?」
「フランちゃんよく知ってるわね。あとねー、ウサギがたくさんいるよ」
「ウサギ!? へー、見てみたいな」
アナザーの言葉に、フランドールが目を輝かせる。すると横で見ていたオリジンが、すかさず言った。
「良かったら、一緒に来るかい? 君なら、姫様やウサギたちと仲良くなれるかも」
「え!? いいの? もちろん行くよ!」
「ほら骸骨さんも一緒に来る? 来るよねー?」
オリジンの提案を喜んで受け入れるフランドール。そんな彼女を見ながら、何だか複雑な気持ちをヘイジが抱いていると、すっとアナザーが寄ってきて彼の腕を引っ張った。
聞いておきながら答えを求めていないではないか。ヘイジはそう思ったが、主に付き添わなくてはならないし、それに向こうから誘われたのがちょっと嬉しかったので、同じく提案に乗ることにした。
「あ、ええ。自分は従者にございますゆえ、フラン嬢に付き添わねば。あと、アナザー。自分の名は“ヘイジ”であるから」
「じゃあみんな行こっか! やっぱり人が多い方が楽しいわよね」
「だよね! みんなでお散歩なんて、私初めて」
ヘイジの台詞を軽く流して、アナザーが歩き始める。すると彼女に同意してフランドールも、その後を追って先に行ってしまった。
呆然と立ち尽くすヘイジの傍ら、オリジンは女子組二人を見やると呆れたように言った。
「アナザー、人の話は最後まで聞こうな。ヘイジも困って・・・もう聞いちゃいないか。じゃあヘイジ、私たちも行くとしよう」
「・・・ああ」
「男二人で散歩とは、華が無いことだがね」
軽い冗談を飛ばして、オリジンも歩き出した。ヘイジも並んで歩き出す。
すると、なぜか先に行ったはずのフランドール、アナザーが戻ってきた。そしてアナザーの言うことには、
「ねー、オリジン。永遠亭ってどこだっけ? 行ったことはあるけど忘れちゃった」
「・・・分からないのに行こうとしてたのか。みんな、こっちだ」
呆れつつも、先行して道案内を買って出るオリジン。彼に続いて、あとの三人も永遠亭へと向かって歩き出した。
オリジン、アナザーと一緒に永遠亭へ。一体どんな所なのか、二人の期待は高まる。




