42.日常への回帰?
紅魔館へ帰り、日常へと戻るヘイジ。しかし、今日は小さな変化が・・・?
紫のもとからヘイジが紅魔館に戻ると、皆が起き出していて少々慌ただしくなっていた。朝食の準備で忙しそうな咲夜。朝食を待つレミリア、パチュリー、小悪魔、美鈴、そして主であるフランドール。
いつもの光景ではあるが、何だか懐かしくも思える。この中に自分がいられるのも、元を辿れば八雲紫のおかげかも知れない、咲夜の手伝いをしつつヘイジはそう思った。彼女に恨みは無いとは言えないが、同時に彼は密かに感謝もしていた。
朝食が出来上がり、全員が席に着いて食べ始める。そんな中、
「あ、そうそうヘイジ。後で私の部屋に来なさい。すご~く大事な話があるから」
「え、あ・・・はい」
レミリアは唐突に言った。『すご~く』をやけに強調して。
自分に何の用があるのだろうか。とそこで、ヘイジは昨日、フランドールを連れ出してしまったことに思い至った。やはりバレていたのだろうか、咲夜には何も言われなかったので、お咎め無しで済むかと高をくくっていたが・・・甘かったようだ。
隠し事とは、隠しきれるものではないな、などと彼が思う一方、
「お姉さま、もうヘイジに勧誘はしないでよね」
と、トマトサラダを食べながらフランドールが言った。ヘイジと違って、彼女は何も悪びれてはいないようだ。
そういえば前に、従者にならないかと勧誘されたこともあったな、とヘイジは思い出した。
「やりかねないわね、レミィは結構粘着質だから」
と、ティーカップを口に運びつつパチュリーが呟く。その様子を見るに、彼女は多分、昨日のことは知らないのであろう。そうヘイジは思った。
「勧誘? 何かあったんですか?」
「あ、美鈴さんは知りませんでしたっけ~。まあ、色々とありましてね~」
その傍ら、美鈴と小悪魔は二人でおしゃべりしている。赤い髪色同士、彼女らは気が合うのだろうか。
「あの、お嬢様、その・・・貴女の従者は私一人ですよね?」
そしてレミリアの横では咲夜がそわそわしている。
皆それぞれの自由な発言が飛び交う中、レミリアはため息をついて、ヘイジに改めて言った。
「・・・とにかく、食事が終わったらすぐに来ること。以上」
「承知致しました」
怖いが、断るわけにもいかない。ヘイジは改めて了承の返事をした。
そして朝食後。後片付けを咲夜に任せ、ヘイジはレミリアの部屋の前にいた。
入り口の扉に手をかけて、彼は覚悟を決めた。もう何を言われようとも受け止めるしかない、自分の責任なのだから。主は悪くない、全責任は自分にあると言おう。・・・全くその通りなのだし。
意を決して扉を開ける。何だか、いい用事でここを訪れることが無い気がする。
「来たわね、ヘイジ」
「はい、ここに」
いつぞやの時と同じように、レミリアは堂々とした様子で玉座に腰掛けている。部屋に足を踏み入れてから、ヘイジはその場でひざまずいた。
さあ、どんな罰則でも来るなら来い。頭を垂れてそんなことを思っていると、
「え、えっと・・・そんなに、畏まらなくてもいいのだけど? 一応、私たちそれなりの付き合いはあるんだし」
「・・・いえ、しかし立場というものがあるでしょうに」
レミリアが玉座から立ち上がり、明らかに、戸惑った様子でそう言った。しかし、ヘイジの方もこれから罰則を受ける側として、立ったままで彼女の前にはいられない気持ちである。
戸惑いの表情を浮かべつつも、レミリアは玉座に座りなおし、彼に向かって言った。
「・・・まあいいわ、本題に入りましょう。あなたがフランの従者になってから、随分経ったわよね。いや、私たちの感覚で言えばちょっとの間だけど、人間の感覚に換算すれば、と言うべきかしら」
「はあ。まあ・・・そうかも知れませんな」
彼女は何が言いたいのだろう。先ほどの言動からして、自分やフランドールに何かしら罰則を科すような話ではなさそうだが・・・ヘイジは心の中でそう思った。
「まあその間、二人して勝手に館を抜け出したり、色々とあったわけだけど・・・」
「うっ」
とそこで突然、痛いところを突く言葉が飛んできた。
またもや甘かった。昨日のことではないにせよ、やはり何か悪い話があるだろうのか。ヘイジは思わず、自分の左胸を押さえてうめいた。
「でもあなたのおかげでフラン、だいぶ明るくなったような気がするわ。他人との接し方も、拙いようだけど覚えてきたようだし」
「・・・はい?」
「いやだから・・・あなたには感謝しないとな、って思って」
そこから、全く予想外のお話。
ヘイジはしばらくの間、自分が何を言われているのか理解できずにいた。そのままきょとんと突っ立っていたが、レミリアの次の言葉で我に返った。
「それでね、フランに『ヘイジと一緒なら外出を許可』しようと思うの」
「お、おおっ! よ、よろしいのですか!?」
主が聞いたらきっと喜ぶだろう。今までに何度か二人で外出したことはあるものの、いつも無許可だったため、ばれないか毎回ハラハラしたものだ。
ヘイジは飛び上がりそうになる気持ちを抑えるのに、少々苦心した。そんな彼に、レミリアは微笑んで言った。
「じゃ、話はこれだけよ。もう戻ってあげなさい、あなたの主のもとへ」
「は、はいっ! レミリア殿、どうもありがとうございました!」
深々と頭を下げて、ヘイジは軽やかにステップを踏みつつ、部屋を出て行った。
ガチャンと扉の閉まる音の後、レミリアは苦笑すると、
「ヘイジがあんなにはしゃぐなんて・・・よほど嬉しかったのね。何だかんだ言って、自分が一番喜んでるんじゃないかしら」
そんな独り言をつぶやいた。
「フラン嬢ー! ただ今戻りました!」
「わっ! へ、ヘイジどうしたの? 何かあった?」
フランドールの部屋へ、扉を勢いよく開けてヘイジは戻ってきた。
何やらいつもと違う彼の様子に、フランドールは若干引きつつもそのわけを尋ねる。するとヘイジは上機嫌な声で答えた。
「何と、レミリア殿からフラン嬢へ『外出許可』が出たのです!」
「えっ! 本当に!? 嘘じゃないよね?」
「ええ本当ですとも! まあ、自分と一緒であることが条件に含まれてはおりますが」
ヘイジの言葉にフランドールの顔が輝く。諸々の事情があって、この館から出たことなど数えるほどしかなかった彼女にとって、これはどれだけ喜ばしい知らせであっただろうか。
フランドールはきゃっほうと歓声を上げると、
「じゃあ、さっそくどこか行こう! あー嬉しいなあ」
「そうですな、して・・・どこへ向かいましょうか? ルーミア達ご友人の所などは」
「そこも行くけど、でももっと色んな場所に行きたいな! 行き先決めずにお散歩するの」
「おお、それもまた良いですな。どこまでも、お供しましょう」
こうして少々慌ただしい朝の時間となった。
外出の許可に喜ぶフランドールと、その従者のヘイジ。さて、早速どこへ行くのやら。




