4.骨でも従者
咲夜からの従者テストに落ちてしまったヘイジ。
しかし彼には落ち込んでいる暇も、休んでいる暇さえも無かった・・・
「ただいま戻りました」
「お帰り~、どうだった?」
フランドールの部屋に、ヘイジは戻ってきた。外れた頭は咲夜に戻してもらったので、今は元通りである。
「まだまだだ、と言われました。・・・はあ、厳しいものですな」
「そっか~・・・でもヘイジならきっと、咲夜にも負けない“じゅうしゃ”になれるよ」
座り込んでため息をつく彼に、フランドールは励ますように言った。
「だって私が“ごしゅじんさま”だもん!」
「左様にございますか・・・では、これからもっと精進致しませんと」
彼女の明るい笑顔と声に励まされ、ヘイジは立ち上がった。
「有難うございます、元気が出ました」
「よかった~、じゃあ夕飯の時間まで遊んで!」
言うなりフランドールが弾幕を放ち、ヘイジの頭に当てて吹き飛ばした。彼の頭が胴体から外れて、床の上を転がっていく。
その先には、きっちりと配置された数本のピンが。ヘイジの頭が一本のピンを倒すと、次々と連鎖するように他のピンも倒れていき、やがて全部が倒れた。
「やったー! ストライク!!」
フランドールが笑顔でガッツポーズする。その横で、ヘイジの胴体が頭を拾いに走っていった。
「あの・・・これは何という遊戯です?」
頭を胴体に戻すと、彼は彼女に問いかけた。
「えっとねー、外の世界で流行っている・・・ボーリング、だっけ?」
それを聞いて、ヘイジは身の毛がよだつ思いがした。と言っても、彼の体に毛は生えていないのだが。
「・・・人の頭で棒を倒す遊戯とは、何と残酷な」
「違うの。本当は重い玉を投げるらしいけど、無いから代わりにヘイジの頭で」
「ちょっ・・・」
ヘイジが何か言う前に、また頭部を飛ばされた。今度は横回転をかけられて。
彼の頭はピンに当たると横に跳ね返り、複雑に配置されたピンを全て倒した。
「またストライク! 私ってボーリングの才能があるかも」
フランドールが喜んで飛び跳ねる。と、そこで彼女は突っ立ったままの、ヘイジの胴体に向かって言った。
「ほら、早く取ってきて! もう一回やるんだから」
「・・・・・」
頭が無いのでしゃべれない胴体は、無言で頭部を拾いに走った。結局ヘイジは、フランドールの“ボーリング”にこの後三十投ほど付き合わされる羽目になった。
「あ~、楽しかった。いい感じにお腹も空いたし、食べる前の良い運動になったよ」
「・・・頭が、戻らない」
フランドールとヘイジの二人は今、二人並んで食堂へ向かっている。この館では、食事はみんなで集まって食べるそうだ。
歩きながらフランドールはにこにこ笑い、ヘイジは頭部が胴体に戻らなくて困っていた。どうやらさっきの“ボーリング”で頭を飛ばされ過ぎたせいで、接合部がおかしくなってしまったらしい。
仕方が無いので、頭部は小脇に抱えておくことにした。
「パチュリーや美鈴にもあなたを紹介しないとね」
フランドールがヘイジの方を向いて言う。
「怖がられなければいいのですが・・・」
「大丈夫、二人ともいい人だから。きっとすぐに仲良くなれるよ」
自信なさげなヘイジを励まして、フランドールは彼の背中を叩いた。変な音がしたが、もう気にしない。
「そうですな、あなた様がそうおっしゃるのでしたら・・・その通りでしょう」
「そうそう、ほら着いたよ」
大きめの扉の前に、二人はたどり着いた。フランドールは扉を開け、
「ちょっと待っててね」
ヘイジにそう言うと先に入って行った。彼が外で待機していると、扉の向こうから彼女の声が聞こえてきた。
「私にも“じゅうしゃ”が出来たの、紹介するね。入ってきて~」
「・・・ふう、行きますかねえ」
小脇に自分の頭部を抱えたまま、片手で扉を開けてヘイジは中へ入った。
そこではレミリアに咲夜、小悪魔、そしてあと二人の少女が、大きなテーブルを囲んで席に座っていた。
「ご紹介に与りました。フラン嬢の従者、ヘイジと申し・・・」
「化け物だわ! “ロイヤルフレア”!!」
突然、席に座っていた紫色の髪の少女が、大きな火球をヘイジに向けて放ってきた。
「退散して頂きます! “破山砲”!!」
続いて、真っ赤な髪に緑色の服を着た少女が波動のようなものを放つ。二つの攻撃がヘイジに襲いかかった。
「・・・・これは、予想外」
避ける暇など無く、攻撃を受けて彼の体は吹き飛び、壁にめり込んだ。手から離れた頭部が、床に落ちてころころ転がる。
「あはは、大歓迎されたね。ヘイジ」
それを拾って、フランドールは言った。
「何だ、妹様の従者さんだったんですね。早く言ってくれればよかったのに」
緑色の服を着た、赤い髪の少女が言う。彼女の名は紅美鈴というらしい。
「まったく驚いたわ。もっとましな格好をしなさいよ」
続いて紫の髪の少女が口を開いた。こちらはパチュリー・ノーレッジ、いわゆる魔女という種族らしい。
「すみません・・・まあ自分がこんな形では、勘違いされても仕方ありますまいな」
テーブルの上に置かれたヘイジの頭がしゃべる。食卓の上に髑髏が置いてある光景は、何とも言えずシュールである。
「元気出してください。私は、ヘイジさんがいい人だって知ってますから~」
声を落とす彼を、向かいの席に座った小悪魔が励ましてくれた。
「そうだよ! ヘイジはと~ってもいい“じゅうしゃ”なんだからっ!!」
続いてフランドールが、テーブルを叩いて立ち上がった。
「フラン、お行儀良くなさい」
「そうですよ妹様、落ち着いて下さい」
しかし、すかさずレミリアと咲夜の二人が彼女をたしなめる。
「は~い・・・」
しゅんとなってフランドールは、大人しく席に着いた。
「さあみんな、夕食にしましょう」
レミリアが号令をかける。それから夕食が始まった。
「美味しかったね~、ヘイジ」
「いえ、自分は食べておりませんので」
夕食も終わり、フランドールは自室でヘイジと話していた。
ちなみにヘイジの頭は相変わらず胴体に戻らないので、床に置いてある。
「え? 食べればよかったのに」
きょとんとした顔で尋ねる彼女に、ヘイジは自分のあばらを叩いて答えた。
「・・・物を食える体ではないのですよ。それに、自分の分はフラン嬢が代わりに召し上がったではありませんか」
「あっ、そっか~・・・すっかり忘れてたよ」
そう言って、フランドールは笑った。
分かってはいたが、本当に子供である。床に置かれたヘイジの頭はため息をついた。
はてさて、もとに戻らなくなったヘイジの頭の運命やいかに。