38.妖怪少女の語り話
ヘイジの過去について語る八雲紫。
しかし、当の本人には覚えが無いようだが・・・?
ヘイジを見据えて、八雲紫は言った。
「ヘイジ、覚えていないようだけど・・・あなたは元々、幻想郷にいたわけではないの」
「はあ・・・」
「・・・反応薄いわね。普通、『ええっ!?』とか言わない?」
「申し訳ない、実感が湧かなくて・・・」
八雲紫の言葉に、彼はすまなさそうに返答した。彼女には悪いが、突然そんなことを言われても、ああそうですか、と簡単に納得することなどできない。いや突然でなくとも、返答に困るのは確かなのだが。
そんなヘイジとは反対に、
「ええっ!? じゃあヘイジって・・・さっきも何か言ってたけど、“外の世界”から来たってことですか!?」
「ま、まあ・・・簡潔に言えばそうなるわ。ちょっと落ち着いて」
「あっ・・・は、はいすいません」
フランドールが興奮した様子で八雲紫の方に身を乗り出してくる。しかしなだめられて、すぐに元の場所に座りなおした。
彼女がひとまず落ち着いたところで、八雲紫はため息をついた。
「・・・まあ、続きを話すわ。もしかしたら、途中で何か思い出すかも」
「お願い致します」
「お、お願いします」
仕切りなおすように、彼女は言う。
ヘイジとフランドールは頭を下げると、再び彼女の言葉に耳を傾けた。
「もう何年前になるかしら・・・ある日のことだったわ、私は“結界の外側”から強い妖力を感じ取ったの。すぐに飛んで行ったら、あ~らビックリ」
おどけたような仕草の後、八雲紫は表情を改めると、
「“ヘイジ”って名前の人骨の妖怪が、人間と一緒に生活してるじゃないの。本当に驚いたわ」
ヘイジの方を向いてそう言った。
言われて彼も少々驚きはしたものの・・・やはり実感は湧かなかった。八雲紫は話を続ける。
「“妖怪は人間の敵”というのが常識だった時代のことよ? 絶対にあり得ない、おかしい。・・・そう思って私は観察を始めたの」
何だかすごい話だ、ヘイジは他人事のようにそう思った・・・とそこで、彼はあることに気づいた。
「はあ・・・えっ? “観察を始めた”とはまさか」
「ふふふ、ごめんなさいね。あなたの私生活、長らく陰から見させてもらったわ」
「・・・・・・」
彼の問いかけに、八雲紫は謝罪して答える。まあ、顔が思いきり笑っていたが。
ヘイジは何だか複雑な気分になった。
「・・・その頃のヘイジって、どんな感じだったんですか?」
と、今度はフランドールが問いかけた。すると八雲紫は少しばかり考え込んでから、言った。
「そうね、今よりもだいぶ、“若かった”かしら。結構思い込みが激しくて、無鉄砲なところがあったわねえ」
「へえ~・・・想像できないなあ」
ちらりとフランドールはヘイジの顔を見やった。今の穏やかな性格の彼とは、まるで正反対だ。
八雲紫の話は続く。
「でね、更に驚いたことに・・・彼の仕事は、“妖怪退治”だったの」
「ええっ! 本当に!?」
フランドールが立ち上がって、大声をあげる。度肝を抜かれたため、敬語を忘れてしまっていた。
見た目はともかく、虫一匹殺さないような性格のヘイジが、相手の命を奪うようなことを仕事にしていたなんて・・・
驚く彼女を見て八雲紫は小さく笑った。
「ふふ、私もそう思ったわ。妖怪でありながら人間と共に生き、人間の為に妖怪を狩っていたんだもの。もはや妖怪であることの存在意義は完全に失われているはず・・・なのにどうして生き長らえているのか、とね」
「人間ではなく・・・妖怪でもないモノ・・・・・・」
「そう、当時のあなたは、まさにそれだったのよ」
彼女の話を聞いて、ヘイジは小さくつぶやいた。存在意義を失ってもなお、生き続ける・・・一体何の為に、その頃の自分は生きていたのだろうか。気になった。
「まあとにかく、あなたは生きていたし、これからも生き続けられるはずだった・・・しかし、時代の流れとは非情なものね」
「確か・・・外の世界では、妖怪の存在が否定され、その多くが消えてしまったんですよね。本で、読んだことがあります」
あら博識ね、とフランドールの言葉に目を細めると、八雲紫は話を続けた。
「その通り。彼も例外ではなかったわ。で、私としては、そういう妖怪をそのままにはしておけなかったのよね。だから幻想郷に来てもらおうと思ったんだけど・・・」
「・・・だけど、どうなったんですか?」
フランドールが聞くと、八雲紫は、
「ふふ、実はその時・・・“断固拒否されちゃった”のよね」
可笑しそうに笑って、そう言った。
「ええっ、“断固拒否”ですか!? ヘイジが?」
ヘイジが他人の申し出を“断固拒否”するなんて。これも今の彼なら絶対しそうにないことだ。
身を乗り出して問いかけるフランドールに、八雲紫は笑って答える。
「そう、『絶対に嫌だ』とね。その理由が・・・」
「「理由が・・・?」」
と、フランドールと共に今度はヘイジも少し身を乗り出した。彼にとっても、その時の自分が断った理由は気になるところである。死にゆく身でありながら、なぜそのまま止まりたいと思ったのか、と。
なかなか自分の過去について、実感が掴めないヘイジ。
このまま、何も思い出せないのだろうか。




