37.八雲の邸宅
八雲紫に誘われたヘイジとフランドール。
そのスキマの先には、何があるのか。
八雲紫の空けた奇妙な穴に飛び込むと、突然、ヘイジとフランドールの視界が一気に開けた。
「こ、ここは・・・」
「どこ?」
二人のいる場所は、先ほどまでいた森の中とはすっかり様変わりしていた。
目の前には、西洋風な紅魔館とは正反対の、いかにも日本風なお屋敷が建っている。紅魔館よりも少しだけ小さいが、負けず劣らずの大きさだ。
しかし更に奇妙なことに、この場所は、
「うわっ! 何これ、目玉!?」
フランドールが足元を見て、後ろに飛び退く。よく周りを見渡してみると、今二人が立っている所、それに頭上の空までもが、不気味な目玉模様で覆い尽くされていた。
「何だか、ジロジロ見られてるみたい・・・イヤだなあ」
「・・・・・・」
気味の悪い光景にフランドールは鳥肌が立ってきた。彼女が二の腕の辺りをさする一方、ヘイジはじっと身じろぎもせず、その場に立ち尽くしていた。
主のように恐怖を感じたから、ではない。彼は不思議な感覚に囚われていた。
「この場所、この屋敷・・・自分は、知っている・・・・・・?」
「あらお二人さん、どうしたの? 早くお上がりなさい」
とその時、屋敷から八雲紫がひょっこり出てきた。彼女は自分が出てきた門を示し、ヘイジとフランドールに中へ入るよう促す。
二人は顔を見合わせると、やや緊張気味に、
「・・・お邪魔致します」
「お、お邪魔しま~す・・・」
「どうぞどうぞ~」
八雲紫の後に続いて、彼女の屋敷へと足を踏み入れた。
ヘイジとフランドールは門をくぐった、と思ったときには、
「あ、あれっ!?」
「ここは・・・」
いつの間にか畳の敷かれた居間、らしき和室にいた。明かりは行灯が一つ置いてあるだけで、部屋の中は暗い。窓がないのは、外を見ても目玉模様の景色しか映らないからだろうか。
驚いた二人がきょろきょろ周りを見渡していると、
「ようこそ、私のお家へ。狭い家でごめんなさいね」
目の前に八雲紫がちょこんと正座していた。ヘイジは、この不思議な女性を観察してみた。
彼女、大人の女性かと思いきや、よく見るとそこまで大きくない。身長はフランドールよりも少しだけ大きいぐらいで、それに顔立ちも、どこかあどけなさが残る少女のものだ。
「・・・・・・」
「あら、何かしら? そんなに見つめられたら・・・照れるじゃないの」
「あ、いや・・・これは失礼」
「まあ座って下さいな。お客様を立たせたままにはできないわ」
手にした扇子を開いて、八雲紫が顔を隠す。ヘイジは彼女に謝ってから、言われるままに腰を下ろした。フランドールも彼に倣って、その場に正座する。
とそこでヘイジは、
「ああそうだ、つまらないものですが・・・どうぞ」
「何かしら? ・・・あらあら、美味しそうなお菓子ね。ありがとう」
持って来た土産物を渡した。
好物だったのか、八雲紫の目が輝く。気に入ってくれてよかった、とヘイジは思った。
「いえいえ、お気に召したようで何よりでございます」
謙遜する彼に、八雲紫は、
「ところでヘイジ・・・ここへ来たということは、オリジン君に渡しておいた手紙、読んだのね?」
急に真剣な表情になってそう言った。そういえば、とヘイジは思い出した。彼女に聞きたいことがあるのだった。
「ええ、あの手紙は貴殿が」
「残念。あれ書いたのは私じゃないわ」
ヘイジの問いに、八雲紫は即答する。とそこでフランドールが、
「えっ、じゃあ八雲紫さんは・・・」
「ふふふ、ヘイジの恋人じゃないわよ。期待はずれだったかしら?」
彼女の問いにも、最後まで言い終わらないうちに答えが返ってきた。この少女、何もかもお見通しなのだろうか、二人は同時にそんなことを思った。
前に座っている少女は、ただただ意味深な笑みをたたえているだけである。
「・・・さて、質問が以上なら、今度は私から話してもよろしいかしら?」
唐突に、八雲紫が真剣な面持ちでそう言った。急な質問にヘイジは虚を突かれた。
「え、ええ・・・そもそも、自分はそれを聞くため、ここまで来たのです」
「・・・わ、私も! ヘイジのこと、もっと知りたいです!」
少々うろたえつつも、しっかりと返答する。彼の横で、フランドールも彼女の問いに答えた。たどたどしいが、きちんと敬語を使って話している。
二人の答えを聞いて、八雲紫は小さく頷いた。そして、ヘイジの目を(目の辺り、と言うべきか)真っ直ぐに見据える。それから静かに口を開いた。
「あの手紙はね・・・あなたのお母さんからのものよ、ヘイジ」
一瞬、ヘイジは今、自分が何を言われたのか理解できなかった。
「・・・ええと、その、それは・・・」
頭がついていかない。
整理してみると、あの手紙をオリジンに渡したのが、ここにいる八雲紫で、そもそもその手紙を書いたのが、自分の母親だったというわけか。
まさか自分に母親がいたとは。彼はそのことに内心、驚きを隠せなかった。自分に親がいることなど、考えたことも無かったので。
「えっ! ヘイジに・・・お母さんが!?」
考え込んでいた彼の横で、フランドールが盛大に仰天した。本当に驚いたらしく、背中の羽がバタバタと、左右で互い違いに動いている。
「ええそうよ。“外の世界”にね」
「ええっ!? 外の世界って・・・一体どうして・・・?」
驚くフランドールを見て八雲紫は、またも意味深に笑う。
彼女とヘイジを交互に見てから、フランドールは目が回りそうになった。もう、何が何だかさっぱり分からない。まあ、それはもう一人にとっても同じことで、
「・・・・・・八雲、紫殿。恐れ入りますがそのことについて、詳しくお話を伺いたい」
ヘイジは顔を上げると、彼女に向き直ってからそう言った。
すると、八雲紫はニコッと笑った。先ほどまでの、どこか胡散臭い笑みではない。温かみのある、優しい微笑みだった。
「いいわよ。あなたも、忘れたままでは辛いでしょうし」
「・・・“忘れた?”一体どういう」
「それを今から話すの」
問おうとしたヘイジを片手で制して、八雲紫は一呼吸ほど間を置いてから、話を始めた。
二ヶ月近くも投稿が遅れてすみません。執筆速度の向上には努めますが、これからもこのようなことが幾度か続くかもしれません。
さて次回、八雲紫の口から語られるのは・・・




