36.八雲の邸宅へ
八雲の邸宅を目指すヘイジとフランドール。
道中、怪しい気配が漂う・・・
ヘイジとフランドールは、二人並んで森の中を歩いていた。
生い茂る木々が星の光さえも遮っており、周囲は暗くひっそりと静まりかえっていて、彼らの足音だけが響き渡っていた。
「・・・ねえ、ヘイジ」
「どうされました?」
とそこで、フランドールがヘイジをちょんちょんと軽くつついた。彼女は声をひそめてささやく。
「・・・何か、“いる”よね?」
「・・・・・・そうですな」
歩きながら、彼女の問いに彼は頷く。姿こそ見えないものの、二人の周りには確かに、得体の知れない気配が漂っていた。それも一つや二つではなく、十から二十ぐらいはあるだろうか。
ヘイジも先ほどから薄々は気配を感じていたものの、何もしてくる様子が無いので、そこまで気に留めていなかった。しかしフランドールは不安を感じているらしく、ヘイジの近くに寄ってきた。
「だ、大丈夫かな・・・? 私たちのこと、食べようとか思ってたりして」
「いえ心配ないでしょう。こちらを観察しているだけのようですから」
主の肩に手を置いて、ヘイジは小さな声でそう言った。
周囲をよく注意して見ると、木の上や草むらに隠れて、大小様々な光の点がうごめいている。見慣れない二人に、好奇心を抱いているようだ。ただ物珍しさに見物しているだけらしく、そこに敵対や攻撃の意思は見られない。
「本当? で、でも、もし襲ってきたら・・・」
それでも安心できないのか、フランドールはヘイジにぴったりと身を寄せる。
ヘイジは歩きながら、言った。
「その時は自分がフラン嬢をお守りします。・・・まあ、そのようなことは無いでしょうが」
「え、何で?」
彼は立ち止まると、彼女の方を向いて言った。
「フラン嬢は、自分より強いですから」
「はあっ!? それってひどくない?」
「痛っ! 失礼致しました!!」
むっとした様子で、フランドールはヘイジの腰辺りに肘鉄を見舞う。ズキリと鈍い痛みが走り、彼は軽く飛び上がった。
「ふん、守られなくってもいいですよーだ。どうせ、私強いもんね」
「ああっ、フラン嬢お待ちを! 自分が悪うございました」
そっぽを向いて、ぷんすか怒りながらフランドールは勝手に進んでいく。その後を追って、ヘイジは痛む腰を押さえながら歩き出した。
心なしか、周囲で見ている“何か”たちがクスクス笑っているような気がした。
「・・・妙ですな」
「どうしたの?」
どうにかフランドールに機嫌を直してもらい、また二人並んで歩いていると、ふとヘイジが周りを見渡して呟いた。
不思議そうな表情で聞いてくる主に、彼は答える。
「あれだけあった気配が・・・どこにもありませぬ」
「・・・本当だ。どっか行っちゃったのかな」
「ううむ」
主の言うように、どこかへ行ってしまったのだろう。しかし、一体どうしたというのだろうか。ヘイジは考え込んだ。
単純に、自分たち二人に興味が尽きたのか、それとも、恐ろしいものが近くにいるからなのか・・・
「・・・つまり、八雲邸に近づいているということなのか・・・・・・」
「あっ、地図にあったの、この辺じゃないかな?」
とその時、フランドールが立ち止まり、ヘイジの方を向いてそう言った。
ヘイジが持っていた地図を開いて確認すると、確かにその通りである。ここで間違いない、しかし、
「・・・・・・家、らしきものは・・・」
「・・・どこにも無いね」
周りを見渡しても、目に入るのは木、木、木・・・そればかりだ。今まで通ってきた道と、何も変わるところが無い。まず、人工物らしきものすら見当たらない。
パチュリーの予想が外れたのだろうか、二人の頭にそんなことが浮かんだ。
とその時、
「来たわね」
「「誰っ!?」」
どこからともなく声がした。
ヘイジとフランドールは声の主を捜し、周囲を見渡す。すると、
「ここよ、こ・こ」
今度は二人の背後からはっきりと聞こえた。二人が振り向くとそこにいたのは、
「久しぶりね、ヘイジ」
「・・・貴殿が、八雲紫?」
紫色のドレスを身に纏い、日傘を差した金髪の女性だった。二人から少し離れた所で静かに佇んでいる、ただそれだけで、その姿にはどこか妖しく、危険な雰囲気が漂っている。
彼女の方へ一歩踏み出して問いかけたヘイジに、女性は自分の胸に手を当てると、意味深な笑みを浮かべて答えた。
「ええ、そうよ。あなたたちが捜しているのは、この私」
「えっ!? 何でそのことを・・・」
「答えを焦ってはいけないわよ、吸血鬼のお嬢さん」
フランドールの質問は、片手で遮られた。
とそこで、八雲紫だという女性は右手の人差し指を立てると、自分の横の空間にスッと滑らせた。するとそこの景色に細い切れ目が入り、広がって真っ黒な穴のようになった。
「さ、いらっしゃい。夜明けまではまだ時間があるわ。お二人さん、ゆっくり話しましょ?」
二人に手招きすると、彼女は穴の中へと消えてしまう。
何故だろうか、この空間に空いた黒い穴、初めて見る気がしない。ヘイジが彼女の消えた所をじっと凝視していると、彼の手をフランドールが引っ張ってきた。
「ねえ・・・どうする?」
不安げな表情だ。まあ当然だろう。得体の知れない女性に「いらっしゃい」などと言われて、何の疑問も持たずについて行くような者はよほど純粋か、好色家ぐらいのものである。
しかし、相手は自分の事を知っているらしい。自分はそれを聞きたい、ヘイジはフランドールに向き直ると、彼女に目線の高さを合わせて言った。
「・・・どうやら彼女に招かれているようです、自分は行きます」
「じゃあ私も行く! ヘイジは私より弱いから、もしもの時は私が守ってあげなきゃ」
それに、と彼女は続ける。
「私は一応、あなたの“ごしゅじんさま”なんだから! 面倒見るのは当たり前だよ」
「フラン嬢・・・」
「決まり! じゃあ行こっか!!」
「おおっと」
何と強い意思を持っているのだろうか。ヘイジが驚き、続く言葉を失っていると、フランドールは彼の手を掴んで八雲紫の消えた穴まで走っていった。
「お邪魔しますっ!」
「・・・この先には何が?」
二人が入ると、暗かった視界が一気に開けた。
八雲紫に招かれた二人。彼女の思惑は・・・
現在、
月に二回の更新ができて、御の字といったところ。全盛期のようなスピード更新はできませんが、これからも何とぞよろしくお願いします。




