33.骸骨の人捜し
主と少年との関係に悩むヘイジ。
その一方、咲夜は面白い物を見つけたようだ。
午後の紅魔館にて。
「良かったわ、ヘイジが元気になって」
お昼を少し回った頃、咲夜はヘイジの使っていた部屋を掃除していた。彼が寝ている間は掃除できなかったので、いつもより念入りにしなければならない。
昼食の席で彼が現れた時には驚いたが、もうすっかり回復したようだった。今頃はキッチンで食器を洗っていることだろう。とそこで、咲夜は顔を上げて呟いた。
「でも、気のせいかしら。どこか顔色が良くなかったような・・・」
そう、彼の“何か”が変だった。
「・・・はあ、なぜ自分は・・・」
食器を洗いながら、ヘイジは一人呟いた。
「他人の幸福を妬むなど、何と器の小さき者・・・」
オリジンとフランドールの仲が良いことが、どうしても納得できない。主の笑顔が見られるのなら、それは従者として幸せなことのはず。なのに、素直に喜べない自分がいる。
とその時、
「おおっ・・・と!? ああっ!!」
ぼうっとしていたせいか、手から大皿が滑り落ちてしまった。
陶器製のお皿が、床に落下する。まずい、ヘイジは直感的に感じた。このままでは、確実に割れる。
「ほっ!」
間一髪、ヘイジは足の甲で大皿を受け止め、破損をどうにか免れた。
皿を拾い上げると、彼はため息をついて頭を横に振った。
「・・・このままでは、いけない・・・」
「さて、と。だいぶ綺麗に・・・あら?」
一方こちらは咲夜。掃除も終わりに近づいてきた頃、何やら白い無地の封筒を見つけた。
手に持ってみると、軽い。
「これは何かしら・・・?」
既に開けられていたらしく、のりの剥がれた跡がある。封筒を逆さにすると、三つ折にされた一枚の紙が出てきた。
咲夜が紙を広げると、そこに文章が書いてあった。
「手紙のようね・・・えーと、“ヘイジへ――」
ヘイジに宛てて書かれたものらしい、とても短い文面。少々悪い気持ちはしたものの、好奇心には勝てず、そのまま読み進めていく。
彼女は手紙の最後まで目を通してから、
「“いつどんな時でも、あなたを愛し、想っている者がいるのだと――”なっ、何ですって!? これは・・・恋文じゃないの!」
文面を見る限り、間違いはない。あんな骸骨に恋人がいたなんて。驚きのあまり、しばらく彼女は呆然とその場で立ち尽くしていた。
咲夜はそれから我に返ると、掃除を手早く終わらせ、封筒を持って部屋を飛び出した。
「うーむ・・・どうすれば良いものか」
食器洗いを済ませたヘイジは、廊下を行ったり来たりしていた。主のフランドールはお昼寝中なので、つかの間の休憩時間である。
まあ、その少ない休息も廊下の往復に費やされようとしているのだが。オリジンとどう接すれば良いのか、いくら考えても納得のいく“答え”を得られない。
「あの、ヘイジ?」
とそこへ、呼びかける者が。しかしヘイジは全く気づいていない。
廊下の往復を続ける。
「はあ、困った・・・」
「ヘイジ! 聞いてるかしら!?」
「はっ!? あ、ああ・・・咲夜殿、申し訳ない」
耳元で呼ばれて、彼はやっと気がついた。すぐそばに、咲夜が腰に手を当てて立っている。
とそこで、ヘイジの目は彼女が手に持っているものに向けられた。
「あ・・・咲夜殿、それは」
「え? ああ、掃除してたら見つけたの。部屋に落ちていたわよ」
「すみませぬ。これ、自分への手紙なのです」
差し出された封筒を受け取って、ヘイジは礼を言う。
頭を下げる彼に、咲夜はおずおずと問いかけた。
「そうだったのね・・・で、誰からなの?」
「いや、それが分からないのです」
「わ、“分からない”!? とても親しそうな文章なのに」
ヘイジの言葉に、咲夜は思わず口を滑らせてしまった。
まずい、手紙を勝手に読んだことがばれる。そう思ったが、別にヘイジはその事を気にした様子も無く、すまなさそうに首を横に振った。
「いえ、まったくもって記憶に無いのです。一体どこの誰なのか・・・」
「・・・だったらねえ、捜すのよ」
「は、はい?」
咲夜はヘイジの両肩に手を置き、彼の目を真っ直ぐに見据えてそう言った。
彼がきょとんとしていると、咲夜が肩に置いた手に力を込めてくる。
「あのねえ・・・“いつどんな時でもあなたを愛し、想っている”人なのよ? そんな風に思ってくれている人を、あなたは裏切るのかしら?」
「いえしかし、差出人は名前を知られたくない様子なのですが」
「分かってないわね、あなたは“乙女心”が全然分かってないわ。そんなの“名前を明かすのが恥ずかしいから”に決まってるでしょう?」
苛立った様子で、咲夜は首を左右に振る。そして彼女はヘイジの体をぐるりと反転させると、その背中をドンと強く押した。
「ほら、分かったなら早く行きなさい! 差出人の手がかりを探るのよ!!」
「は、はいい・・・!」
前につんのめってから、ヘイジは逃げるようにその場を離れていった。
彼の後姿を見送って、咲夜は、
「よしよし、頑張りなさいよヘイジ」
満足げに一人頷いた。
咲夜のもとから逃げ出したヘイジは、廊下の途中でふと立ち止まった。
「手がかりとは言っても、どこから手をつければ良いものか・・・」
顎に手を当てて考え込む。手がかりと言えば、今持っている手紙のみ。
これは筆跡鑑定でもしてもらう他に無いだろうか、いやその前に、紅魔館に筆跡鑑定できる人がいただろうか・・・とそこで、彼は一つのことに思い至った。
「・・・そういえばオリジンが、差出人は“紫色の服と日傘の似合う、金髪の美少女”だとか言っていたような」
彼が容姿を教えてくれたのだった、誰か知っている人はいないだろうか。ヘイジは差出人の容姿をヒントに、取り敢えず紅魔館の人々に聞き込みしてみることにした。
差出人の捜索を始めた(やらされた?)ヘイジ。
今だけは、悩みのことを忘れられそうだ。




