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30.慰骨見舞い その2

前回、お見舞いに来ていなかった人が来ます。それではどうぞ。


 朝、いや窓のない室内なので昼かも夕方かも分からないのだが、ヘイジはベッドの上で目を覚ました。


「・・・うむ、だいぶ楽になった気がしますな」


 まだ鈍い痛みが残ってはいるものの、何だかすっきりした気分だ。

 パチュリーと小悪魔の魔法のおかげか、はたまたレミリアのくれたテディベアのおかげか、頭痛は寝る前よりも随分とやわらいでいる。ヘイジは心の中で、昨日の見舞いに感謝した。

 とそこで、ドアがコンコンとノックされた。寝たまま彼は応じる。


「はい、どうぞ?」

「し、失礼しま~す・・・」

「おや美鈴殿」


 そして姿をあらわしたのは、美鈴だった。彼女は部屋に入ってくるなり、


「ごめんなさいヘイジさん! 昨日お見舞いに来られなくて!」


 突然ヘイジに頭を下げ、謝罪してきた。ほぼ直角に礼をしたので、彼女の被っていた帽子が床に落っこちる。そのまま頭を上げようとしない彼女に、ヘイジは慌てて言った。


「いえいえ! まったく、気にしておりませんから。美鈴殿にも事情があったのでしょう」

「な、なら良かったです。それでその、お詫びと言ってはなんですが・・・」


 床に落ちた帽子を拾い上げ、被りなおすと美鈴は続けた。


「気功術を施させてくれませんか?」

「・・・“気功術”?」

「ええ。“気”の流れを操作して、体の調子を整える術のことです。もちろん、頭痛にだって効くと思いますよ」

「おお、それならぜひともお願いします」

「分かりました」


 美鈴は頷くと、ヘイジの頭の上で両手をかざした。そして静かに目を閉じる。


「それでは、始めます。はあああっ・・・!」


 手のひらから“気”を送っているのだろうか、それとも操作しているのか・・・ヘイジには分からないが、そんなことよりも美鈴の気迫がすごい。目を閉じてはいるものの、その凄まじい集中力はヘイジの体にも伝わってくる。

 やがて、彼女は両手を下ろすと目を開けた。その額には少し汗が浮かんでいる。


「・・・ど、どうですか?」


 彼女の問いに、ヘイジは自分の額に手を当てて答えた。


「ええ、幾分か気分が良くなりました。それに何だか・・・ポカポカと体が温まった気がしますな」

「それは良かったです。・・・あ、そうだ」


 とそこで、何か思い出したようなそぶりを見せると、美鈴は懐から封筒を取り出してヘイジに差し出した。


「“ある人”からです。ヘイジさんによろしく伝えてくれって、言ってましたよ」

「“ある人”・・・? 一体、どなたなのでしょうか」

「あー・・・すみません。それは言っちゃ駄目だって、差出人さんが」


 美鈴がすまなさそうに言う。ヘイジは首を傾げつつも、彼女から封筒を受け取った。封筒を渡すと、美鈴はヘイジに一礼した。


「それでは門番の仕事があるので・・・失礼しますね」

「どうもありがとうございました」


 部屋を出て行く彼女に手を振る。ドアがバタンと閉まった後、ヘイジはあることに気がついた。


「・・・ううむ、もう一日経っていたとは」


 美鈴がさっき“昨日”と言っていたことから考えて、気づかぬうちに一日が過ぎていたようだ。やはりずっと寝たきりでは、時間の感覚が狂ってしまう。

 ヘイジはそこで、先ほど渡された封筒を改めて眺めてみた。うすい桃色をしていて、表に“ヘイジへ”と書かれている。一度裏返してみたが、そこにも差出人の名前は無かった。


「可愛らしいですな、しかし一体誰が?」


 不思議に思いながらも、封を切って中身を確認する。すると出てきたのは一通の手紙。少々丸みをおびた、子供っぽい字で文章が書かれてある。

 彼は小さく声に出して、その手紙を読み始めた。


「ええと・・・“ヘイジへ。――いつも私と遊んでくれて、ありがとう。今まで私の遊んでほしい時に遊んでくれる人なんていなかったから、とっても嬉しかったよ。それと、ごめんなさい。私のわがままにいつも付き合って、疲れてたんだね。でもたぶんそう言っても、あなたは『そんなこと、あろうはずがございません』って言いそうだから、手紙で言うね。いつもありがとう、ごめんなさい。あと、そんなに早くなくてもいいから、あせらずに元気になってね。――あなたのごしゅじん、フランドール・スカーレットより”・・・何と、これは」


 読み終えた後、ヘイジは思わず嘆息していた。


「・・・本当に、早く治さねば」


 彼は手紙を封筒に戻し、枕元に置くと、もう一度寝なおすことにした。












 カリカリ、コツコツと音が鳴り響く。


「全く、何で私がこんなことを・・・だが」


 真っ暗な部屋で、オリジンは独り言をつぶやいた。はたから見れば危ない人か、もしくは何だか痛い人にしか見られないだろうが、彼一人なのでそんなこともない。


「引き受けてしまった以上は、やらねば。しかし、“ヘイジの見舞いに行け”とは・・・あの人、彼の知り合いか何かだろうか?」


 ぶつぶつとつぶやきながら、床にチョークで幾何学的な模様を描いていく。ほどなくして、大きな魔方陣が出来上がった。

 オリジンはチョークを投げ捨てるとその真ん中に歩いていき、すっと腰を下ろす。


「・・・さて、手早く終わらせてしまおう」


 彼が座り込んだその直後、魔方陣が真っ黒な光を放った。部屋の暗さが塗りつぶされてしまうほどの、黒い輝き。

 しばらくして光が消え、部屋が再び暗闇に覆われる。そこには輝きを失った魔法陣があるばかりで、オリジンの姿はどこにも無かった。


次回、オリジンが“見舞い”に来ます。さて、どんなお見舞いになることやら。





最近勉強が大変なので、更新スピードがさらに落ちてしまうかもしれませんが、これからもどうかよろしくお願いします。


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