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29.慰骨見舞い

体調を崩し、倒れてしまったヘイジ。彼を案じた者たちが、見舞いに訪れる。


 永琳が去ってから、どれくらい時間が経った頃だろうか。ヘイジの見える場所に時計が無いので、正確には分からないが、大体三十分ほど後、トントンと部屋の扉がノックされた。


「はーい?」


 ベッドに寝たまま、彼はノックに応じる。永淋に言われていたこともあるし、それに起き上がると、頭痛がひどくなりそうだったので。

 ガチャリと音を立てて、ドアが開かれる。それから姿を見せたのは、


「ヘイジ、大丈夫かしら? お見舞いに来たわよ」

「おや、パチュリー殿ではありませんか」

「私もいますよ~」

「おお小悪魔殿まで」


 パチュリーと小悪魔だった。二人とも部屋に入ると、パチュリーはベッドのそばにあった椅子に腰掛け、小悪魔はその傍らに立った。

 見舞い客の二人にヘイジは、寝たままで首だけを向ける。


「お二人ともわざわざ・・・本当にありがとうございます」

「何言ってるのよ、私たち同じ紅魔館の住人でしょ?」

「そうですよ~、ヘイジさんったら水臭い」

「いや、これは失敬」


 二人の言葉に、ヘイジは頭をかいた。パチュリーも小悪魔も、自分を“仲間”として心配してくれている、そのことが、彼にとってはたまらなく嬉しかった。

 とそこでパチュリーが、


「じゃあこあ、すぐにでも始めましょうか」

「了解~」


 小悪魔と顔を見合わせ、何やら分厚い本を取り出した。


「あの、これから何が始まるのですか?」

「ちょっとした回復魔術をかけるだけよ。頭痛に効くやつをね」


 少々不安そうに問いかけるヘイジに、パチュリーはそう答えると、本を開き、目を閉じて呪文らしきものの詠唱を始めた。

 その傍らで、小悪魔も別の呪文を唱え始める。


「・・・この者の頭に巣食いし苦痛を、除き給え」

「・・・痛いの痛いの、飛んでいけ~!」


 そして、呪文が終わった。二人とも同時に、ふうとため息をつく。


「で、どうかしら? 楽になった?」

「まあ、私のはおまじないみたいなものですけどね~」

「ええ何だか・・・先ほどまでよりも、頭が軽くなったような気がします」


 自分の頭をさすって、ヘイジが答える。彼の言葉にパチュリーと小悪魔は顔を見合わせ、互いに笑いあった。


「それは良かったわ、じゃあ私たちはこれで。しっかり寝なさいよ」

「お大事に~」


 椅子から立ち上がり、部屋を出て行く二人にヘイジは手を振った。


「お二人のお見舞い、心から感謝いたします」


 ドアが閉まる。とそこで、彼を急に眠気が襲った。頭痛が和らいだことで、その安心感からだろうか。ヘイジは両手を胸の前で組むと、そのまま深い眠りに落ちていってしまった。














 何やら、バタバタと騒がしい音が聞こえる。それに自分の名前を呼ばれているような・・・夢と現の間をヘイジはさまよっていた。

 よく耳をすますと、聞こえてきたのはレミリアと咲夜の声。


「フ、フランに何て言えばいいの!? まさか、ヘイジが死んだなんて・・・!!」

「お嬢様、落ち着いて下さい。まだ死んだと決めるのは早すぎますわ」

「で、でも! この様子じゃどう見ても・・・」


 今、彼は思わず耳を疑う言葉を聞いた。死んだ?自分が?


「あ、あのう・・・自分はまだ存命にございます」

「キャーッ!! 生き返った!?」

「いえ、寝ていただけです」


 彼が右手を挙げ、生きていることを知らせると、レミリアは叫び声を上げて腰を抜かした。が、ヘイジが無事だと分かって、安堵の表情になる。


「な、何だ・・・驚いて損したわ。紛らわしい寝方をしないで欲しいものね」

「お嬢様に同意します」

「いや、これは失礼。要らぬ心配をかけてしまったようですな」


 これからは、胸の前で両手を組んで寝ないようにしよう、とヘイジは心の中で誓った。


「ところで、お二人はどうしてここに?」

「そんなの決まってるじゃない。お見舞いに来てやったのよ」


 ヘイジの問いにレミリアは答えると、何やら持参してきた紙袋の中をがさごそやり始めた。

 そして彼女が取り出したのは、


「はい、これ。一晩だけあなたに貸してあげるわ」


 赤い色をした大きなテディベア。レミリアはそのぬいぐるみを、ヘイジの隣に寝かせた。


「あの、これは・・・?」

「この子と一緒に寝ると、よく眠れるのよ。たくさん寝て、早く治しなさい」


 その様子を見て、咲夜はレミリアの隣で顔色を変えた。


「あ、あれはお嬢様のお気に入り・・・私やパチュリー様には触ることさえ許可しない宝物・・・」

「咲夜! 余計なこと言わない!!」

「し、失礼しました。お嬢様」

「あのう・・・レミリア殿。これは、あなたの宝物なのでしょう? そんなものを」


 受け取るわけにはいかない、ヘイジがそう言う前にレミリアが口を開いた。


「いいのよ! いいの。あなたがぶっ倒れてから、フランは塞ぎ込んでばかりだし・・・だから、とっとと元気になりなさい! 咲夜、戻るわよ」

「かしこまりました」


 ヘイジにくるりと背を向けて、レミリアは足早に部屋を出ていく。ドアが開いて、彼女の姿はその向こうに消えた。


「ヘイジ」

「おや、何でしょうか咲夜殿」


 とそこで、おもむろに咲夜が話しかけてきた。彼女はまだ部屋から出ていない。


「医者から聞いたわ。あなた、日頃のストレスで倒れたらしいわね?」

「ええ、そのよう・・・ですな」

「それは、妹様に対する何かしらの不満?」

「!?」


 彼女の質問に、ヘイジは思わず飛び起きていた。


「滅相もない!! そのようなこと、あろうはずが・・・ぐっ」

「わ、分かったわ。変な事聞いてごめんなさい」


 頭痛に頭を押さえるヘイジに、咲夜は謝罪する。そして一呼吸ほど間をおいてから、今度は静かな口調で話を続けた。


「実はね・・・妹様、あなたが倒れたのは自分がストレスをかけ過ぎたせいだと思い込んでいるのよ」

「そ、そんな・・・!」

「だから、お嬢様もおっしゃったけれど早く元気になって。あなたの元気な姿を見ることが、妹様にとって一番の安心だと思うの。それじゃあ」


 ヘイジが別れの言葉を言う前に、咲夜は姿を消してしまった。いつの間にか、開いていた入り口のドアも閉じている。

 彼はごろんと寝返りをうった。すると目の前に、赤いクマの顔がこんにちは。


「フラン嬢が心配しておられる・・・それに他の皆様も・・・この頭痛、早く治さねば」


 テディベアの頭にぽんと手を置くと、ヘイジはもう一眠りすることにした。まあ、それ以外にすることもできることも無かったのだが。



四人の見舞い客に励まされたヘイジ。早く元気になれるといいな!

主が心配しているぞ。


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