3.従者たる者・・・
フランドールの従者にされてしまったヘイジ。彼はある人物に教えを乞う。
「・・・というわけで先ほど、フラン嬢の従者となり申した」
掃除中の咲夜にヘイジが疲れた声で言う。言われた方の咲夜は掃除の手を休めずに、彼に問いかけた。
蛇足だが、ヘイジの頭はあの後フランドールに戻してもらえた。
「それで・・・なぜ私のところに来たのかしら?」
「フラン嬢が、“従者とは何たるか”を学んでこいとおっしゃったので・・・咲夜殿に助言を乞おうかと」
彼がそう答えると、咲夜は掃除の手を止めてこちらを向いた。
「それは感心ね、学ぼうとすることはとても良いことよ」
「ご教授いただけるのですか?」
ヘイジの問いに咲夜はうなづいた。
「ええ。従者として先輩である以上、私はあなたに教える義務があるわ」
「それはありがたい・・・って、先輩?」
いつの間にか、自分と彼女の間に上下関係が構築されてしまっている。ヘイジは何か言っておこうと思ったが、言葉が思いつかずにやめた。
咲夜が先に立って、ヘイジについて来るよう促す。
「表にでなさい、従者の心得をその身に叩き込んであげるから」
喧嘩でも始めるのだろうかと勘違いされそうなセリフだ。
「御指南、お頼みし申す」
しかし会って間もない相手に突っ込むのも気が引けたので、彼はそれだけ言うと彼女のあとに続いて、紅魔館の外へと向かった。
玄関を出ると、オレンジ色の日光が広い庭を染め上げていた。
「黄昏、か・・・日は沈む、まさに諸行無常・・・・」
ふと、そんな言葉がヘイジの口から出てきた。
「猛き者も、またそれに同じ・・・」
「どうしたの? ぼーっとして」
咲夜に話しかけられ、彼ははっと我に返った。そして取り繕うように答える。
「いえ、何でもございますが・・・やっぱり何でもございません」
「・・・大丈夫かしら?」
ヘイジの言い訳に、咲夜は首を傾げる。今の台詞、彼は詩人か何かだろうか、彼女はそんなことを思った。
「まあいいわ。では、早速“従者とは何たるか”教えてあげる」
庭の中の広い平地になっている場所で、咲夜はヘイジに向かって言う。
「まず“いかなる場合でも主人を守ること”これは最低限の必須条件よ」
「なるほど」
「ではこれから、そのテストをするわ。・・・おいでなさい小悪魔」
「はいはい~」
彼女が呼ぶと、どこからともなく赤い髪の少女が飛んできた。背中には黒い翼が生えていて、頭にも小さな黒い翼がある。人間ではなさそうだとヘイジは思った。
「・・・そう言うヘイジさん。あなたも人間には見えませんけどね~」
「!?」
彼が驚愕すると、小悪魔は悪戯っぽく笑った。
「私、ちょっとなら心を読めるんですよ~? だって一応、悪魔ですから~」
「・・・おみそれ致しました」
ヘイジが頭を下げる。すると小悪魔はもう一度笑い、咲夜は話を続けた。
「テストの内容を説明するわ。日が沈むまで彼女、小悪魔を守りきれば合格、それ以外は例外なく不合格よ」
「しっかり守ってくださいね~」
言われて、彼は西の空を見やった。太陽の位置からして、日没まであと十五分といったところだろうか。
「すみませんが咲夜殿、何から彼女を守ればよろしいので?」
そして彼が質問を投げかけると、
「もちろん・・・私からよ」
咲夜は刃物を投擲して、その問いに答えた。ヘイジは攻撃に備えて身構えたが、すぐにその標的が自分ではないことに気づいた。
「きゃーっ!!」
小悪魔が悲鳴を上げる。咲夜の狙いはヘイジではなく、護衛対象の彼女だ。
「危ないっ!」
地面を蹴って跳び、小悪魔の前に飛び込む。大きな体格に似合わぬ驚くべき身軽さである。
そして彼女の前で仁王立ちになり、咲夜の投げたナイフから小悪魔を庇った。
「・・・助かった~、ありがとうございます」
「いえいえ・・・痛い」
お礼を言われ、彼女の方を向いて返す。が、ヘイジの体には咲夜のナイフが何本も刺さっていた。鎧をも貫くナイフとは、これ如何に。
「意外と脆いボディね、その調子ではあまり長く持たないわよ」
そう言いながら、咲夜は更にナイフを投げてくる。確かにこのまま受け続ければ、何というか、ハリネズミのようにになってしまいそうだ。
「ぬう・・・かくなる上は」
低くうめくとヘイジは、腰に差した刀の柄に手を掛け、引き抜いた。
「!?・・・何なのかしら、そのなまくら刀は」
しかしその刀は錆だらけで、使い物になりそうもない。咲夜は違った意味で驚愕した。
「ヘイジさ~ん、そんな武器じゃ勝てるわけありませんよう~」
小悪魔の方も同じである。だがヘイジはその刀を中段で構えると、言った。
「御二方、自分は本気です」
「あらそう?・・・なら手加減はしないわ」
咲夜がナイフを投げる。先ほどと比べて尋常ではない数だ、どうやって投げたのかヘイジは気になった。
が、今は気にしないで戦いに集中することにした。
「蝕むモノよ・・・・」
刀を構えるとヘイジは、呪文のようなものを唱えて地面にその刀身を突き刺した。
すると、そこから緑色の煙が吹き出してきた。一瞬にして彼の周囲を包み込んでしまう。
「狡いわね、煙幕を盾にするつもりかしら?」
しかし、咲夜のその予想は大きく裏切られた。
彼女が見ている前で、投げたナイフが煙に触れる。すると突然、その刃がぼろぼろに錆びつき、砂のようになって地面へ落ちた。
「なっ・・・!?」
「好機!」
ヘイジが刀を地面から引き抜き、煙の中から飛び出してくる。
驚愕のあまり動きの止まった咲夜に、ヘイジは踏み込んで距離を詰め、間合いに入った。
「もらい受ける!!」
そして構えを取り、振りかぶった刀で斬り下ろす。が、そこで咲夜の姿が消えた。
「!? これは、一体・・・?」
刀の先が空を切る。わけが分からず、彼は呆然とした。
すると背後から声がかかった。
「惜しかったわね、不合格よ」
「え~ん、捕まっちゃいましたよ~」
その声に振り返ると、小悪魔が咲夜に捕まっていた。西の空を見やると、夕陽もまだ沈んではいない。ということは、
「ああ、虚しきこと」
刀を鞘に収める。その瞬間、彼の頭が外れて地面に落ちた。
どうやら、いつの間にか首を狙われていたらしい。
「・・・悲しきかな・・・・」
地面に転がったヘイジの頭は、つぶやいた。
バトルさせてみましたが、いかがでしたでしょうか。
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