28.病気?
生きているなら、体調を崩すことだってある。
そんな感じのお話です。
「(あ、頭が・・・)」
激しい頭痛に、ヘイジは目を覚ました。凄まじい痛みに、意識が朦朧とする。
今までに味わったことがないほどの痛み。まるで頭に針が何本も刺さっているかのようだ。
「くっ・・・まさかこれは、何かの病?」
直感的にそう思った。今までに病気を患った記憶は無いが、そんな彼でも今の自分が健康でないことくらいは分かる。ヘイジはすぐに部屋から出ようとした。
「フ、フラン嬢に感染すわけには・・・」
当の本人はまだベッドで寝息を立てている。もしも伝染性の病気だったとして、主にまで感染してしまったら大変だ。彼は部屋の扉まで急ぐが、頭痛のせいで足元がぐらつく。
「足が・・・っ! ううっ、し、視界ま、で・・・」
今度は景色が歪んで見え始めた。もはや自分が真っ直ぐに歩けているのか、それすらも分からない。それでも一歩、一歩、ヘイジは扉まで近づいていった。そして、
「あ、あと・・・すこ、し」
部屋の出口まであと一メートル、それぐらいのところで、ガシャンと大きな音がした。
ヘイジが力尽きて、床に崩れ落ちた音だった。
「ん~? 何か、大きな音がしたような・・・」
不審な音を耳にして、フランドールは目覚めた。金属製のタライでも落ちたのかと思うほどの大音響。
それでも彼女はマイペースだった。のんきに目などこすって、ゆっくりと起き上がる。
「何の音だろう・・・って、あれ?」
ベッドから降りて部屋の中を見渡すと、あるものが目に入った。
「あれ~? ヘイジったら、こんなところで寝ちゃって」
扉の近くでヘイジがうつ伏せになって寝ている、ように彼女には見えた。フランドールは少しあきれたような笑みを浮かべると、彼の元へ駆け寄っていく。
「ほらヘイジ、朝だよ起きて。まったくお寝坊さんなんだから~」
体を揺するが、しかし返事は無い。少しの反応すらしない。
「あれ? いつもならすぐ起きるのに・・・あっ! 寝たふりしてるのかも」
そう考えたフランドールは少々むきになって、ヘイジの体を強く揺すった。
「ほら起きろー! 朝だぞーっ!! ああもうっ!」
またしても反応なし。彼女の頭に血が上った。
今度は体を引っぱたいて、強引に叩き起こそうと試みる。
「起きてってば! 起きてよ!! ・・・ねえヘイジ?」
とそこで、フランドールは異変に気づいた。ここまでして何も反応が無いのは、さすがにおかしい。と言うより、もはや異常だ。
赤かった彼女の顔から血の気が失せる。
「ね、ねえ嘘だよね? 寝たふりしてるんだよね? お、お芝居が上手なんだから・・・あはは、は・・・」
笑いかけるが、その笑い声がかすれた。同時に、目の奥がとても熱くなった。
「ご・・・ごめんねヘイジ。何が悪かったのか分からないけど、私にイヤなことされたから、怒ってるんでしょ?」
いくら語りかけても、彼はピクリとも動かない。フランドールは半ば独り言のように続けた。
「あっ、そうか! 前にかくれんぼで置いてかれちゃったから、それが原因? いやいや・・・それとも、しょっちゅうバラバラにされたから? ごめん、ごめんね、ごめんなさい、謝るから・・・」
彼女の目の端から、熱いものが溢れ出す。
「・・・だからお願い!! お願いだから起きてよヘイジ!!!」
「おおうっ!!?」
奇妙な叫び声を上げて、ヘイジは目覚めた。いつの間にか、彼の体はベッドに寝かされていた。
「きゃああ! 起きたッ!?」
目の前に、見知らぬ銀髪の女性がいる。咲夜ではない。突然飛び起きた彼に驚いたのか、その女性は座っていた椅子から転げ落ちた。
「・・・おおっと、これは失礼。あの、失敬ですがどちら様でしょうか?」
問いかけた彼に、相手は起き上がりつつ答える。
「あ、ああ。私は八意永琳、医者よ」
「お医者様? ・・・ぐううっ!!?」
とその時、ヘイジの頭に激痛が走った。永琳と名乗った女性はすぐさま駆け寄ると、彼の体をベッドに横たえる。
「急に動いたりしたら駄目よ。患者なんだから」
「患、者・・・? ああ、そういえば」
彼女に言われて、ヘイジは思い出した。そういえば朝から酷い頭痛がしていたのだ。
「あの、永琳殿?」
「何かしら」
ふと、ヘイジは気になったことを一つ、永琳に聞いてみた。
「ここは、どこなのでしょうか?」
「え? 紅魔館に決まってるじゃない。患者が大きすぎると聞いたから、こちらから出向いたのよ」
「ああ、そうでしたか。お手数をかけさせてしまったようで・・・」
わびようとしたヘイジを、永琳は片手で制した。
「ストップ、患者がそんなこと言わないの。医者は患者の為にあるのよ?」
「あ・・・はい。分かりました」
「分かればよろしい。それで、あなたの診断結果だけど・・・」
永琳が何やら書類を取り出し、ヘイジに見せてきた。寝たまま彼は首だけ動かして、それを覗き込む。
そこには、
「ストレス性・・・あの、これは一体?」
長ったらしい病名が書かれていた。永琳が説明を加える。
「簡潔に言うと、過度のストレスによって頭痛が引き起こされる病気。あなたの場合、どうやら働きすぎが原因のようね」
「そ、そんなこと、あろうはずが・・・ぐうっ!」
ヘイジは思わず起き上がってから、再び襲ってきた痛みに頭を押さえた。永琳は彼をベッドに戻して、ため息をついて言った。
「はあ・・・あなたのようなケースはね、気づかないうちに疲労が蓄積して、いつの間にか体がボロボロになってるの。とにかく、日頃のストレスが溜まって頭痛になっているのだから、よく休めば治るわよ」
「は・・・はい」
「あと、これは薬よ。ここに置いておくから、頭痛が酷すぎる時には頭に貼りなさい。少しは楽になるはずだから」
湿布薬のようなものを枕元に置くと、永琳は医者が決まって言う台詞を口にした。
「じゃあ、お大事に」
「どうもありがとうございました」
「ああ! あと最後に」
部屋を出ようとしたところで、彼女は突然声をあげると、ヘイジの方を振り向いた。
「頭痛が治まるまで、絶対安静よ。下手に動いたりしたら・・・その先はあえて言わないわ」
「は、はい・・・」
怖い話でも聞かせるかのような、おどろおどろしい口調でそう言った。そして、ヘイジの返事を聞いてからドアの向こうへと消える。
とりあえず、ヘイジは永琳に言われたとおり寝ることにした。
皆様、健康にはどうかお気をつけて。




