27.思いがけぬ夜
とある夜のこと。紅魔館ではあるイベントが・・・
「イェーイ!! ノッてるかお前らー!!?」
夜の紅魔館。小さなホールから、大音響が聞こえてくる。
「キャー! お嬢様素敵です!」
「お姉様格好いいー! 本当の悪魔みたい!」
レミリアがハイテンションで、エレキギターをかき鳴らしていた。服装もチェーン付きの黒いコートにサングラスを掛けて、ばっちり決めている。
ギュイイイインとギターが鳴り響き、咲夜とフランドールが歓声を上げる。しかしその一方で、
「いたた、痛うございます・・・」
ヘイジは自分の体を抱えて、ホールの隅で小さくうずくまっていた。
レミリアの弾くギターの音が彼の骨を振動させる。そのせいでヘイジは、体中をビリビリと痺れるような痛みに苛まれていた。
咲夜とフランドールはレミリアのライブに夢中で、彼の様子にはまるで気づいていない。
「ちょっとヘイジ、大丈夫かしら?」
そこへパチュリーが心配そうな顔でやって来た。その耳には耳栓。彼女もまた、このライブをあまり快く思っていないようだ。
「パ、パチュリー殿・・・お気遣い、感謝します」
「“感謝します”じゃなくて、苦しいのならさっさと抜けなさいって。どうせあいつら、気づかないわよ」
「いえ、この程度・・・」
「イエアアア!! エェクストゥリイイイイィィィィム!!!!」
「うぐおおおお・・・・・っ!」
レミリアのテンションが上がり、ギターの音量と曲のテンポが急激に上昇した。ヘイジの全身を、激痛が走る。
「・・・ほら見たことか。死ぬ前に抜け出すことね」
「そ、そうですな・・・うおお」
パチュリーの忠告に従い、ズルズルと這うようにして、ヘイジはホールの出口へと向かっていった。それから、ちょうど彼が出ていったところで、
「ちょっとパチェ! ノリが悪いわよ!!」
レミリアが突然パチュリーを指差してきた。彼女は面倒くさそうにため息をつくと、
「いえーい」
棒読みで歓声を上げた。
「はあ、はあ・・・正直、危うい所でした」
ホールから出るとヘイジは、壁に寄りかかって呟いた。レミリアには悪いが、パチュリーの忠告に従って正解だった。あのままあそこにいたら、地獄の苦しみが今も続いていただろう、そう考えると背筋が寒くなる。
「まあしかし、酷い曲だなこれは。頭が変になりそうだ」
「いえ、それはさすがに言い過ぎでは・・・って、うおおっ!?」
「やあ、久しぶりと言うべきかな?」
いつの間にか、ヘイジの傍らに黒い服を着た少年が立っていた。彼はひょいと左手を上げて挨拶してくる。
そういえばこの前、紅魔館でちょっとした騒ぎがあった時、出会った少年だ。ヘイジは思い出した。名前は確か、オリジンと言っていたか。
「ねーちょっと、私もいるんだけど~?」
「おわっ! 二人目!?」
と、今度は肩をちょんちょんと小突かれた。振り向いたところには長袖セーラー服の少女。ヘイジの反応に、彼女はむっとしたような表情になった。
「何よ、お化けでも見たみたいに。失礼しちゃうわ」
「こ、これは失礼。・・・アナザー?」
「わあ! 私の名前、覚えてたんだ!!」
つい先ほどまでとはうって変わって、アナザーは顔を輝かせた。嬉しそうな表情で、ヘイジの手をぎゅっと握ってくる。
しかし伝わってきたのは、人のぬくもりではなく、ぞっとするほどの冷たい感触。ヘイジは自分の息が詰まるのを感じた。そんな彼を、アナザーが不思議そうに見つめる。
「・・・あれ、どしたの?」
「あ、その・・・な、何でも」
「ああそう」
アナザーが握っていた手を離す。とそこで、ヘイジはふと気になったことを、二人に聞いてみた。
「ところで、二人ともどうしてここに?」
「ああ、そのことなんだが」
「ねえねえ! フランちゃんどこ? 部屋にいなかったんだけど」
オリジンの言葉をアナザーが遮る。彼女を押しのけて、オリジンは話を続けた。
「突然だが・・・“八雲紫”について心当たりは?」
「・・・は?」
「知らないのか?」
彼の問いに、ヘイジは思わず間の抜けた声を発していた。
彼はオリジンに聞き返す。
「うーむ、それについては何も・・・その前に、“八雲紫”というのは」
「ああそうか、分からないならいいんだ。邪魔してすまない」
ヘイジの話を最後まで聞かず、オリジンはアナザーの手を引っ張った。
「おい帰るぞ、今日は遊びに来たんじゃない」
「えー待ってよ」
「待たない! 早く帰るんだ・・・“転移魔法”!」
抗議するアナザーを押さえて、オリジンは呪文を唱えるとその場から消え去ってしまった。
「あっ、ちょっと・・・・・・はあ、一体何をしに・・・」
ヘイジの心には、疑問だけが残った。
更新ペースが月一ぐらいになってきて、もっと早めたいなと思う今日この頃です。
さて、謎の言動を見せるオリジン。彼の真意は・・・?