24.お嬢様と骸骨 その2
長い間休んでいましたが、復活しました。
読者の方々が前回までの話を覚えているのか存じませんが、前回の続きからです。
それではどうぞ。
「あー楽しかった。全勝よ」
「うーむ、全敗・・・ですな」
夜も更けた頃の、レミリアの部屋。二人でテーブルを囲んで、レミリアは満足げに微笑んでいた。その一方で、ヘイジは少々落ち込んでいる。
あれから他にも色々なゲームで勝負したのだが、結局ヘイジは一度もレミリアに勝つことはできなかったのだ。ポーカーをすればロイヤルストレートフラッシュを決められ、ブラックジャックをすれば二枚のカードでブラックジャックを出される。
「いやはや、本当にレミリア殿はお強い。一度は勝てるだろうなどと考えていた自分が、恥ずかしゅうございます」
「ふふ、それほどでも・・・あるわ。もっと讃えたっていいのよ?」
「はは・・・」
誇らしげな態度のレミリアに、ヘイジは愛想笑いを返す。何というか、彼女は人の上に立つことが好きなようだ、そう彼は考察した。ちょっと付き合いにくいタイプだ。
などと考えていると、
「ねえ今、失礼なことを考えなかったかしら?」
「いえそんな、滅相もない」
突然レミリアがこちらを睨んできた。ヘイジは慌てて、首を横に振る。さすがは小さいながらも館の主、勘が鋭い。
「あらそう。・・・ところで、一つ提案があるのだけど」
「何でしょう?」
ヘイジが聞く体勢にはいる。次の瞬間、レミリアの口から驚くべき言葉が発せられた。
「フランの従者をやめて――私の下につく気はないかしら?」
「――はっ!? 何だか、とってもイヤな予感がする!」
同じ頃のフランドールの部屋。ベッドに潜ってうとうとしていた彼女は、突然に飛び起きた。なぜだか胸の奥がざわつく。
「まさか、ヘイジに何か・・・いや、そんなまさか。あ~でも、もしかしたらもしかするかもしれないし・・・! こうしちゃいられない!!」
ベッドから飛び降りて、出入り口の扉に向かう。扉の取っ手に手を掛け、ガチャガチャと押したり引いたりして開けようと試みるが、
「開かないや・・・そういえば、私“きんしん”してるんだっけ」
扉は全くビクともしない。フランドールはへなへなとその場に膝をついた。
例え能力を使ったとしても、この扉は壊せるようなものではない。前に一度やってみたことはあるが、何か細工が施してあるようで、彼女の能力は通じなかった。
「どうしよう、心配だなあ・・・あれ?」
ふと上を見上げた彼女の目に、部屋の換気のための通風口が飛び込んできた。
しばしの間があってから、ヘイジは口を開いた。
「――レミリア殿。失礼ですが、ご冗談はほどほどに」
「私は本気よ? あなたの立場は・・・まあ咲夜の下になるだろうけど、悪いようには扱わないわ。それに」
「・・・それに?」
聞き返してきたヘイジに、レミリアはにやりと笑って続ける。
「毎日壊れるまであの子の遊びに付き合うのは、正直大変でしょう?私の下につけば、もうそんなことはないわ」
「いえしかし、自分などがレミリア殿の従者など・・・」
「私はあなたの、従者としての能力を買っているのよ?どんな扱いを受けようとも主人を喜ばせようとする、その“忠誠心”を、ね」
どんどんレミリアはたたみかけてくる。ヘイジは一旦口を閉じた。
彼が迷っていると判断したのか、レミリアは彼の方へ身を乗り出すと、更に続けた。
「ここまで忠誠心に溢れた者は、私は今までに一人しか見たことが無いわ。相応の報酬だってあげる。だから私の下に――」
「話は聞かせてもらったわ!!!」
「「!?」」
とその時、二人の頭上で大声が響いた。レミリアにもヘイジにも聞き覚えのある声。二人が上を見上げた次の瞬間、ガシャンと音がして通風口の蓋が落ちてきた。
そして開いた通風口の奥から、無数のコウモリが羽をバサバサ羽ばたかせて、二人のもとへ飛んできた。コウモリたちが寄り集まって、人の姿を形成していく。
「お姉様、ヘイジは私の“じゅうしゃ”なの! 変な勧誘しないでよね!!」
コウモリから人間の姿になると、ヘイジの横に立ってフランドールは声高に宣言した。
「フラン! 部屋にいなさいって言ったでしょう!?・・・それに、私は彼に聞いているのよ。あなたには関係ないわ」
「大ありよ! 私のことは私のこと、ヘイジのことだって私のことだもん!!」
「あーそう? じゃあ言ってあげるけどね・・・」
すっと椅子から立ち上がると、レミリアは言った。
「いい!? フラン、ヘイジは私とゲームをやっている間、とても楽しそうだったわよ。ねえ、そうでしょう!?」
「え、は・・・はい。まあ・・・」
急に話を振られて、ヘイジは返事に窮しながらも頷く。
彼の返事にレミリアはニッと笑った。
「ほら見なさい。彼は私の下にいた方がきっと幸せなのよ」
「そんなわけないもん! 私と遊んでいる時の方が、ずっと楽しいはずよ! そうだよね!?」
「どうだか。毎回壊れるまで遊ばれて、心身共に参ってるんじゃないかしら。ヘイジ、正直に言っていいのよ?」
レミリアとフランドールが、揃ってヘイジの方を向く。
「ね、ねえ・・・どうなの?」
「・・・・・・自分は」
フランドールからの問いかけに、ヘイジは暫くの間をおいてから口を開いた。
「自分はフラン嬢の従者でございます。天地が覆ろうとも、こればかりは覆るようなことがございましょうか」
「・・・・・・なるほどね」
ヘイジの答えを聞いて、レミリアは彼を見据えた。
「それが、あなたの答えなのね? 本当に?」
「ええ」
ヘイジも、彼女を真っ直ぐに見つめ返して返事をする。次の瞬間、レミリアはため息をついて、同時に肩をすくめた。
「はあ・・・試そうとした私が愚かだったわ。あなたの忠誠心を侮ってた」
「レミリア殿・・・」
「戻りなさい、あなたの主の下へ。私が許可するわ」
「・・・・・・」
ヘイジはフランドールと顔を見合わせた。それからレミリアに向き直ると、彼女に一礼する。
「レミリア殿、短い間でしたがお世話になりました。さてフラン嬢、帰りましょうか」
「うん。・・・ねえお姉様」
彼がフランドールの手を取って、部屋を出ていく。とそこで、フランドールは振り返ってレミリアの方を向いた。
「・・・その、ありがとうね」
そして、照れくさそうにそう言うと背を向けて、ヘイジと一緒に部屋を出ていった。二人が出ていき、扉がガチャンと音を立てて閉まる。
一人になって、レミリアは呟いた。
「いいものね・・・ああいうのも」
紅魔館の夜は、更けていく。
久しぶりの更新でしたが、いかがでしたでしょうか。
それではまた次回。




