22.骸骨のいない、虚しさ
今回は、主に妹様にスポットを当てます。(※今回はヘイジ出ません)
それではどうぞ。
「あ~・・・退屈だなあ・・・・」
一方、自室での謹慎を言い渡されたフランドールは、部屋で一人憂鬱そうに、ため息をついた。
部屋に閉じこめられるのならまだしも、遊び相手のヘイジまでいなくなってしまったので、彼女は退屈と同時に寂しさを感じていた。
「妹様、失礼致します」
とそこで、部屋の扉がノックされた。そして聞こえてくるのは咲夜の声だ。
「あ、咲夜。いいよ! 入って入って!!」
「失礼、お邪魔します」
ちょうど人恋しかったところである。
フランドールが彼女を歓迎すると、一瞬の後に、目の前に咲夜が姿を現した。
「咲夜あ~、一人じゃ退屈だよう・・・って、あれ?」
あなたが救い、とばかりに抱きつこうとして、彼女はそこで止まった。咲夜の表情が、何だか暗い。
「ええ、そうですね。一人では、寂しいですよね・・・・」
「ど、どうしちゃったの咲夜!?」
悲しげに言葉を紡ぐ彼女に、フランドールは戸惑いつつ尋ねる。
「実はですね・・・」
尋ねられて、重々しげに咲夜は口を開いた。
「お嬢様が“しばらく休暇をあげる”と仰って・・・私の代わりに、ヘイジに従者を務めさせているんですよ」
「ヘイジに?どうしてだろ、あんなに怖がってたのに」
首を傾げるフランドールの側で、咲夜は顔を覆った。
「どうして・・・私はもう、お嬢様に必要とされていないのでしょうか・・・・?」
「お、落ち着いて咲夜。きっと何か訳があるんだよ。えっと例えば・・・ヘイジ嫌いを無くすため、とか」
予想が完璧にストライクである。さすがは姉妹、姉のことなどお見通しだ。
彼女に言われて、咲夜は顔を覆った手を除いた。
「・・・そう、でしょうか?」
「うん、きっとそうだよ。だからヘイジ嫌いが無くなったその時には、お姉様をいっぱいホメてあげよ?」
フランドールが笑いかけると、咲夜の顔に生気が戻った。そして彼女も、笑顔を返す。
「そうですね・・・ありがとうございます、妹様。お嬢様の従者として、こんな風にいじけてばかりもいられません」
「どういたしまして。元気になってもらえて、よかった」
すっかり元気が戻ったらしく、咲夜は軽やかな足取りでフランドールの部屋を出ていった。
彼女が出ていって、部屋の扉が閉まる。
フランドールは咲夜の姿を最後まで見送ってから、そこではたと気がついた。
「え~ん、また一人ぼっちだよ~!!」
そして泣きながら、床に転がってじたばたと暴れ出した。
「誰か~! 誰か遊んでよお~!!」
「妹様~、おやつですよ~」
とそこへ、美鈴がケーキを持って部屋に入ってきた。彼女に気づいたフランドールは、ばっと床から飛び起きる。
それから彼女は、美鈴に駆け寄ってきた。
「め・い・りーん!」
「おわっ!?」
笑顔で抱きつこうとしてきたフランドールを、美鈴はくるりと回って避ける。抱きつき損ねて、勢い余った彼女は床に転倒してしまった。
「な、何でよけちゃうの・・・?」
起き上がりつつ、フランドールはそう言った。床に打ちつけてしまったのか、鼻を押さえて目を潤ませている。
そんな彼女に美鈴は、恐れ多いという風な様子で答えた。
「い、いや・・・妹様に抱きつかれたりしたら、いくら私でも体中の骨が折れちゃいますよ」
まあ当然のことである。ヘイジなどは大丈夫だが、人間や並みの妖怪では、フランドールに抱きつかれようものなら骨が粉々になるだろう。
しかし今の彼女には、そんなことを考えていられるような余裕はなかった。とにかく一人っきりでは寂しくて、退屈だったのだから。
「うわあ~ん! 美鈴がいじめる~!!」
突然彼女は泣き出すと、
「美鈴のいじわる!こうしてやるっ!!」
ケーキの一ピースを手にとって、それを美鈴に投げつけた。ベシャ、と過たず、彼女の顔に命中する。
「ぶはっ、な・・・何するんですか!?」
「あはは、顔が真っ白~♪」
フランドールは美鈴の顔を指差して、さもおかしそうに笑った。
顔に付いたクリームをぬぐって、美鈴が口を開く。
「妹様、食べ物で遊んでは・・・ふぐっ!?」
「わ~い、また命中だ~♪」
話の途中で、フランドールがケーキをもう一ピース投げてきた。そしてまたもや、顔面にベシャ、と音を立てて命中する。
仏の顔も三度まで・・・保たなかった。
「妹様・・・あなたって人は・・・・!!」
「あれ、怒った?怒っちゃった?」
我慢の限界に達した美鈴が、ずかずかとフランドールに詰め寄る。激怒しているのは目に見えて分かるのだが、顔がクリームまみれなのでどこか滑稽である。
そのせいもあるのか、フランドールはちっとも反省した様子もなく、
「それっ、三つ目!」
逆に面白がって、さらにもう一つ投げつけた。スポンジとクリームの塊が、美鈴目がけて飛んでいく。
しかし彼女も、同じ手は三度も喰らわない。
「ふん」
頭を右に少しずらし、ケーキのピースを回避する。そして、
「妹様! お覚悟っ!!」
地面を蹴って一気にフランドールへ近づく。がそこで、彼女は動きを止めた。
何故か。美鈴はその時背後から、体が動かなくなるような、とてつもなく大きな威圧感を感じたのだ。
一方のフランドールも彼女の後ろに視線を釘付けにしたまま、その場に凍り付いている。
ありったけの勇気を振り絞り、美鈴は背後を振り返った。そこには、
「・・・・・・・あなた達・・・・」
顔をクリームまみれにした、紅魔館のメイド長、十六夜咲夜の姿があった。
目を閉じて、肩をぷるぷると震わせている。
「あ、さ・・・咲夜さん? だ、大丈夫ですか?」
「ご、ごめんね咲夜。まさか当たっちゃうなんて・・・」
美鈴とフランドールが口々に言う。咲夜は目を見開き、それから燃えるような視線で二人を睨むと、
「二人とも厳重注意ッ!!!」
直後、ナイフの刺さった二つの帽子が、床の上に落ちた。
まあ、当然と言えば当然の事か。食べ物で遊んじゃいけません。
さて次回、おぜう様が骸骨と仲良くなるかもよ?
それでは。




