20.小さな者達(と、骸骨
主人をたしなめるのも、真に主人を思うからこそ。
時には厳しく当たることも、必要である。
「ほらフラン嬢、皆様に謝るのです」
湖の畔で、ヘイジがフランドールの背中を押してそう言った。二人の目の前には、ルーミアに加えて青い髪、緑髪の女の子が並んで立っている。
「わ、私はただ遊んでいただ」
言い訳するように言うフランドールの頭を、ヘイジは片手でがっちりと掴んだ。そして彼女の顔を、こちらに向ける。
「フラン嬢! 自分との遊びとはわけが違うのですぞ!!」
口をくわっと開いて、彼はもの凄い剣幕でそう言った。フランドールが気圧されて、肩をびくっと震わせる。近くにいたルーミア達も、また同様の反応をした。
さらにヘイジは、今度はうって変わって穏やかな口調で続ける。
「遊びとはお互いに楽しむモノでございます。どちらかが傷つくようなことがあれば、それはただの暴力・・・暴力はいけないことだと、あなたもよくご存じでしょう?」
「う、うん・・・」
フランドールがうつむいて、小さな声で返事をする。彼女の肩に、ヘイジはそっと手を置いた。
「先ほどあなたは、その“暴力”で危うく他人を傷つけてしまうところでございました。ですから、彼女達にはきちんと誤りませんと・・・フラン嬢なら、できますでしょう?」
彼にそう言われ、フランドールはルーミア達三人の方を向いた。そして、
「ごめんなさいっ! 怖い目に遭わせちゃって・・・本当にごめんなさい!!」
そう言って頭を下げた。感情が高ぶっているせいなのか、肩が震えている。
ルーミアは青髪、緑髪の子二人を振り返ると、彼女らに問いかけた。
「・・・って言ってるけど、あなた達はどうする?」
聞かれた二人は、お互いに顔を見合わせる。
「私は・・・悪いと思ってるなら、もういいかな」
そして、緑髪の女の子はそう言った。一方青髪の子はと言うと、
「・・・・・・」
何か言いたそうだが、口をもぐもぐさせるばかりで言葉を発さない。
と、しばらくして決心がついたのか、彼女はフランドールにつかつかと歩み寄った。
「・・・おまえ、めちゃくちゃつよかった」
「え?」
顔を上げるフランドールに、青髪の女の子は続けて言った。
「だから・・・あたいのライバルとして認めてやる。イヤだとは言わせないから」
そして右手を差し出してきた。フランドールがその手を握って、お互いに握手する。三回、互いに握った手を上下に振ると、青髪の子はぱっと手を離した。
それから、緑髪の女の子の方へ戻っていく。
「さて・・・これにて解決、って感じ?あ、そうだ」
そこでルーミアが、何か思い出したようにぽんと手を叩いた。彼女はフランドールの方を向くと、
「そっちには自己紹介してなかったわね。私はルーミアよ、よろしく」
「あ、私はフランドール・スカーレットだよ。フランって呼んでね」
お互いに名前を名乗る。するとそれに乗じるかのように、
「あたいはチルノ。フラン、ちゃんと覚えとけよ!」
「私は大妖精っていうの。気軽に大ちゃんって呼んでいいよ」
青髪の子と緑髪の子が、次々にフランドールへ自己紹介をしてきた。彼女は少し戸惑うような素振りを見せたものの、
「うん! よろしくね、チルノに大ちゃん!!」
すぐ笑顔になって彼女らに応じた。
そんな四人の様子を眺めながらヘイジは、
「フラン嬢にお友達が・・・規則を破ってまで館を抜け出したのも、間違いではなかったようですな」
少し離れた所で、そのようなことを考えていた。しかし同時に彼は、自分は全く蚊帳の外に居るのだと自覚していた。
いつの間にかフランドール、チルノ、大妖精、ルーミアは四人でわいわい遊んでいる。
「あ~、楽しかった」
帰り道の地下水路。フランドールはご機嫌な様子で、にこにこ笑っていた。
ちなみに、彼女を説得して帰路に着くまで、ヘイジは並々ならぬ苦労を強いられたのだが、ここでは割愛しておく。
「みんな、“また来てね”って言ってくれたよ!それに、プレゼントまでもらっちゃった!」
そんな彼女の両手には、大妖精のくれた綺麗な石、チルノのくれた溶けない不思議な氷、そしてルーミアのくれた・・・闇の塊があった。
「良かったですな、フラン嬢」
「うん! 明日もみんなとあいたいな」
「ははは・・・」
ヘイジは誤魔化すように笑った。規則を破って出てきてしまったのに、この調子だとフランドールは明日も外へ出て行きそうだ。もちろんその時には、従者である彼もそれに付き合うこととなるだろう。
彼女にとって精神衛生上はとても良いことなのだが、ヘイジとしてはどうしても、“規則を破っている”という事実が頭から離れない。
彼は深く、思考した。
「・・・しかし、従者とは主人のことを真に考えることができなくては・・・フラン嬢の為になるのなら、規則を破ることも・・・・」
「ヘイジ、なにぶつぶつ言ってるの?もう着いたよ」
彼女の声にはっと気がつくと、いつの間にか紅魔館の裏へ続くマンホールの真下に来ていた。
「ああ、すみませぬ。考え事をしておりまして・・・フラン嬢、少々お待ちを」
フランドールを下に待たせておいて、ヘイジは壁に取り付けられた梯子を登っていった。
そして、マンホールの蓋をそっと押し上げる。
「・・・・・・よし、誰もいませんな」
周囲を確認し、彼は蓋を開けて外へ出た。それから、まだ地下にいる主人に向かって呼びかける。
「大丈夫です、誰もいませぬ」
「はいは~い!」
元気な返事と共にフランドールが、マンホールの中から飛び出してくる。飛べるのは便利なことだと、ヘイジはつくづく思った。
が、今はそんなことを考えている暇などない。
「フラン嬢、急いでお部屋に戻りますぞ。・・・今回のことがばれたら、それこそ一大事」
「そ、そうだよね! もう二度とお外へ出られなくなっちゃうかも」
二人で顔を見合わせてうなづき会うと、彼らは走り出した。しかしその途中、
「おおっと!?」
突然、ヘイジが転倒してしまった。
「ヘイジ、大丈夫!?」
「ええ、何のこれしき・・・」
フランドールが駆け寄ってくる。転んだ原因を確かめようと彼が足下を見ると・・・
彼の足には銀色のナイフが刺さっていた。
「ヘイジ、どういうことかしら?あなたがついていながら・・・」
「わっ! 咲夜!?」
そこへどこからともなく、メイド服を着た女性が姿を現した。フランドールが驚愕の声を上げる。
「さ、咲夜殿・・・これは、あの」
口を開くヘイジに、
「言い訳無用。申し開きならお嬢様の前でしなさい」
有無を言わさぬ態度で、咲夜はそう言い放った。
結局、ヘイジはフランドールをその場に残したまま、咲夜に連行されていってしまった。
初めての小さな旅行は、失敗。しかし、決して無駄ではなかったはずだ。
さて次回、ヘイジはレミリアからお叱りを受けるが・・・




