19.家に帰るまでが遠足だったりする
外出の条件は「すぐに帰ること」
・・・でも、あんまり楽しいと帰りたくないよねっ!!
「さて、帰りますぞフラン嬢」
「え~、もう帰るの?」
ヘイジがフランドールの手を引くと、彼女は名残惜しそうにそう言って、その場から動くことを渋った。
がしかし、彼も引き下がらない。
「なりません。早く帰りませんと、お姉様や咲夜殿に叱られますよ」
と言い聞かせるように言う。するとフランドールは、う~・・・と小さくうなった。
「それはやだな~・・・お姉様も咲夜も、話が長いし」
「でしょう? ですからもう帰り・・・あっ!!」
と、ヘイジが最後まで言い終わらないうちに、フランドールは彼の手を振りきって、駆け出していた。
「ほらほら~、捕まえられたら帰ってあげるよっ」
走りながらこちらを振り向いて、挑発するように手を叩きながら彼女が言う。
「もうっ! お戯れも大概にして下さい!!」
これにはさすがのヘイジも少々声を荒げて、フランドールの後を追いかけた。
さて、その数分後。
「フ、フラン嬢・・・?いずこへ?」
ヘイジは主の姿を求めて彷徨い歩いていた。フランドールが森の中へ逃げ込んでしまったので、捜索中なのだ。
彼女は日傘を差しているので、見つけるのは難しくないだろうと思ったのだが・・・
「フラン嬢―! いらっしゃるのでしたら、お返事をー!!」
そう考えた結果が、この始末である。
主の名前を叫びながらその姿を捜すが、どこにも見当たらない。途方に暮れて、彼はその場に座り込み、ため息をついた。
「はあ、困った・・・・」
「そーなのかー」
「ええ・・・本当に困ってしまって・・・・!?」
不意にかけられた声に背後を振り返ると、そこには黒い服を着た金髪の小さな女の子が、腕を十字に広げて立っていた。
続けて、彼女が口を開く。
「私はルーミア。・・・ねえ、あなたは食べてもいい人類?」
そしていきなり、幼い見た目に似合わぬ物騒なことを聞いてきた。ヘイジは少し引き気味になって返答する。
「否、自分は食えぬモノだ」
「ああやっぱり? まあ、お肉がちっとも無いものね」
やっぱり、などと言った割には、目に見えてがっかりしている。何だろうか、もしも先ほど“自分は食べられる人類だ”などと答えていたら、食するつもりだったのだろうか。
といったことをヘイジが考えていると、
「じゃあ、食べられないのなら名前だけでも聞かせて?」
今度はルーミアがそんなことを言ってきた。確かに、食する相手に名前は聞かないだろうが・・・理由が何かおかしい気がする。
しかし別に減る物でもないので、
「自分はヘイジ。紅魔館にて、フランドール・スカーレット嬢の従者を務めさせて頂いている者」
「ほええ、“悪魔の妹”と名高い、あのフランドール・スカーレットの?」
ヘイジもルーミアに自己紹介すると、彼女は驚いたように目を丸くした。
「・・・で、その従者さんが何でこんな所に?」
「少しばかり遠出をしてきたのだが、主を見失ってしまって。貴殿に心当たりは?」
ヘイジが聞くと、彼女はうーん、と腕組みして、
「知らないわね。その辺にいるならすぐに分かるだろうし・・・あ、そうだ」
そこでぽんと手を打つと、ルーミアは自分の額に人差し指を当てて、目を閉じた。しばらくしてから、再び目を開ける。
「友人を呼んだわ。あの二人なら、何か知ってるかも」
「ありがたい。感謝する」
頭を下げる彼に、ルーミアは笑って手を横に振った。
「いいのよ、お礼なんて。・・・早いところ連れ帰ってもらわないと、ここら一帯が荒野になりそうだし」
「・・・完全に否定できないのが、悔しいものだな」
ヘイジは片手で頭を抱えた。無邪気さ故に手加減を知らないことが、フランドールの怖いところである。
とその時、
「おおっと!」
「きゃっ!」
ドォォンと大きな音がして、地面がびりびり震えた。
「い、一体何が・・・」
音のした方角をヘイジが見やると、そこには黒く長い煙が立ち上っていた。確か、最初に訪れた湖のあった場所だ。
そこから、何やら甲高い叫び声のようなものも聞こえてくる。誰の仕業か、彼には一瞬で理解することができた。
「フラン嬢―!お静まり下さい!!」
「あ、待って」
ダッ、とヘイジが駆け出す。ルーミアは黒い球体へその姿を変えると、ふよふよと飛んで彼の後を追った。
「きゃーっ! 怖いよう!!」
一方、こちらは湖。緑の髪色をした女の子が湖上を飛び回り、泣きながら弾幕の中をかいくぐっている。
「くそっ・・・あいつ、何なのさ!?」
そしてここにはもう一人。青い髪の女の子が、氷塊を飛ばして弾幕を迎撃しつつ、撃ってくる相手を睨みつけた。
彼女の視線の先には、
「あははは! 楽しいねえ!! もっと遊ぼうよ!」
日傘を差したフランドールが、湖上の真ん中で嬉しそうにくるくる回っている。その間にも、弾幕は止むことがない。
いや、むしろ激しさを増していく。
「やばいわ・・・こうなったら奥の手!」
フランドールの放つ弾幕に押され気味になり、青い髪の子はカードを一枚取り出した。
「喰らえ! “アイシクルフォール”!!」
そしてスペルを叫ぶと、彼女の周囲から先の尖った氷柱がいくつも現れ、フランドールを目がけて飛んでいった。
イージー?馬鹿な、もはやルナティックのレベルである。
「わーっ!!」
悲鳴を上げるフランドールに、氷柱が次々に直撃する。氷柱の冷気と気温の温度差で生じた白い霧が、周囲を包み込む。
青い髪の女の子が得意げに、腰に手を当てた。
「ふふん。やっぱりあたいってば、さいきょーね!!」
「あっ! 危ないっ! 前見て、前!!」
とそこで、緑髪の女の子が警告を発した。白い霧の中から、小さな人影が姿を現す。
その目は鮮血のような赤色に輝いていた。
「・・・は?」
青髪の女の子の表情が、一瞬にして凍り付いた。
フランドールの顔が不気味に歪む。
「いいねいいねえ・・・面白いよおおお!!」
そう叫んで、フランドールは燃えさかる大剣を手にする。そして青髪の女の子に、猛スピードで突進してきた。
「きゃああ! 溶かされる~!!」
彼女は両手で頭を抱えて、その場にしゃがみ込んでしまった。恐怖で、それ以上体が動いてくれない。
そこへレーヴァテインを携えたフランドールが、突っ込んでくる。彼女が大剣を振りかぶった、その時、
「えいやあーっ!!」
「あ痛っ!!」
フランドールの真横から、真っ黒な球体がぶつかってきた。彼女はバランスを崩し、そのまま吹き飛ばされる。
その体を、何者かが受け止めた。
「・・・捕まえましたぞ、フラン嬢」
「あっ、ヘイジ」
フランドールが顔を上げると、そこには従者の姿があった。
フランドールを捕まえたヘイジ。
さて次回、彼は湖で暴れた主人をたしなめるが・・・さあどうなる?
続きます。