2.お遊戯
フランドールのおもちゃにされて、彼女の弾幕を浴びたヘイジ。はてさてどうなる。
大量の弾幕がヘイジに直撃し、部屋中に煙が立ち込めた。
「あちゃ~・・・やりすぎちゃったかな?」
フランドールが頭をかいて言う。しかしその直後に、彼女は表情を暗くした。
「・・・せっかくお友達になれたのに、また壊れちゃった」
悲しそうに言って、涙ぐむ。
部屋にこもった煙が徐々に薄れていった。その奥から声がする。
「痛た・・・こちらではこういう遊戯を嗜むのですか」
煙の中で二つの目が光り、ヘイジが姿を現した。弾幕を受けたせいか、鎧の所々が崩れている。
「ヘイジ! 良かった~、また遊べるね」
先ほどまでとはうって変わって、フランドールは笑顔になると更に弾幕を放ってきた。ヘイジは今度は驚かず、
「これはまた随分と、玉の多い遊戯ですな」
そう言うと彼は、飛んできた弾の一つを蹴り飛ばした。ヘイジに蹴り飛ばされた弾は、他の弾をはじきながら飛んでいく。
「え!?」
フランドールが気づくと、その弾は彼女の目の前まで来ていた。避けきれず、結果として顔面で受ける羽目に。
弾が顔に直撃し、フランドールは泣き声を上げた。
「いった~い!!」
「ああっ! これは失礼、とんだ粗相を・・・」
謝罪してからヘイジが駆け寄る。するとフランドールは、近づいてきた彼の右脛を蹴飛ばした。
「うぐおおっ!!?」
彼女の不意打ちにヘイジは転倒すると、脛を抱えて悶絶した。骨だけの体とはいえ、痛覚などの感覚はあるようだ。
「うぐぐ、べ・・・弁慶の、泣き所・・・を・・・・・」
「ひどいよヘイジ! 痛かったんだからね!!」
涙目でフランドールが言う。正直に言うと、ヘイジも泣きたい気分だった。彼女の蹴りで、脛の部分が大きく変形してしまったのだ。もちろん、痛い。
「す・・・すみません、本当に・・・すみません・・・・」
しかし小さな女の子の手前、泣くことは彼のプライドが許さず、ヘイジはフランドールにひたすら謝ることしかできなかった。
「・・・・じゃあ、私のいうことを聞いてくれる?」
「え!?」
唐突に、フランドールが尋ねてきた。ヘイジが返答に詰まると、彼女の目から涙があふれ出し、床にこぼれ落ちた。
「あーっ! 分かりました、何でも言うこと聞きますから泣かないで!!」
「えっ? 本当に!?」
彼の答えにフランドールが顔をぱっと輝かせる。ヘイジは自分が今言ったことを撤回したくなった。
「じゃあねー、どうしよっかな~?」
「・・・もう煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」
笑顔で考え込む彼女に、ヘイジは涙をこらえてそう言った。しばらく考えてから、フランドールは口を開いた。
「そうだ! ヘイジには私の“じゅうしゃ”になってもらおっと」
「・・・“従者”?」
反復するように聞き返したヘイジに、彼女は笑顔でうなづいた。
「そうだよ、だってお姉様には咲夜がいるもん。妹の私にだって“じゅうしゃ”がいてもいいはずだよ!」
「(今の自分に拒否権はあるのだろうか?)・・・まあ、構いますまい」
「やったあ! じゃあこれからは、私がヘイジの“ごしゅじんさま”だからね!!」
心ならずも了承した彼に、フランドールは強く抱きついた。抱きつかれた箇所が、ミシミシとおかしな音を立て始める。
「す、すみません・・・何か、首の辺りに変な技が決まっている気が」
「えー、何のことかな?」
しかし彼女は全く気づいている様子がない。さらに強く抱きついてくる。
「ですから、あの・・・ぐああっ! 折れる!!」
「何が折れるの?」
ヘイジが叫んだ瞬間、彼の首の骨が綺麗に折れ、頭部が金属音を立てて床に落ちた。
「あれ、ヘイジの頭がなくなってる」
フランドールは一旦彼から離れると、落ちた頭に近づいていった。
「へえ~・・・頭が外れるのね」
「・・・すみません、体に戻していただけます?」
床に転がったヘイジの頭を、物珍しそうにフランドールが指でつつく。すると頭がくるりとこちらを向いて、口をカクカクいわせた。
「あはは、可愛い~。しばらくこのままにしておこっと」
「何も可愛くありませんから! お願いですから戻して!!」
笑顔で言う彼女に、ヘイジの頭は悲痛な叫びで訴えた。
二人のその後ろで、頭部を失った骸骨が首から下だけでふらふらと歩いている。その進行方向は部屋の入口。とそこへ、
「あの骸骨、そろそろ粉々になった頃かしら・・・フラン、入るわよ」
レミリアがやって来て、入口の扉を開けた。そこで、彼女の表情は凍り付いた。
「・・・・・・」
目の前にはあのヘイジとかいう骸骨が、首を無くした状態で立っていたのだ。それが徐々に、ふらふらとこちらへ歩いてくる。
彼女は悲鳴を上げそうになった、が、
「あ、お姉様。聞いて聞いて~」
フランドールがこちらに気づき、走り寄ってきた。レミリアはそこで冷静さを取り戻し、
「あら、何かしらフラン。いいことでもあった?」
ブレずに対応する。
「うん、とってもいいことがあったの~・・・って、邪魔」
フランドールは嬉しそうに言ってから、ふらふら歩いているヘイジの胴体を突き飛ばした。頭のない骸骨が床に崩れ落ちる。
レミリアは心の奥で彼女に感謝した。
「それで、どんないいことがあったの?」
「そうそう、私にも“じゅうしゃ”が出来たの。紹介するね」
尋ねるレミリアにフランドールは、小脇に抱えていた丸い物を両手で差し出した。
「ヘイジよ。ほら、お姉様にご挨拶して」
ボールか何かだと思っていたそれは、ヘイジの頭の部分だった。その口がカクカクと動く。
「あの・・・体に戻してください」
レミリアは、気を失った。
初っ端からお嬢様をカリスマブレイクさせすぎたでしょうか・・・反省はありますが、後悔はありません。