18.小旅行(※内緒だよ?
外の世界が知りたいフランドール。その好奇心は、従者をも巻き込む。
「ヘイジ! 早く早く!!」
「フ、フラン嬢・・・少々、お待ちを」
真っ暗な地下道の中、フランドールがヘイジを急かす。そこはトンネルのようで、狭く、そして湿っぽかった。
ここは紅魔館の、現在は使われていない地下用水路である。体の小さなフランドールは問題ないのだが、大柄なヘイジの方は、しゃがんで歩かなければ頭が天井にぶつかってしまう。その上、気をつけないと今度は肩が壁にぶつかる。
なぜ二人が今、こんな場所に居るのか・・・話はしばらく前に遡る。
「お外に出たいな~・・・」
ヘイジのあばらを枕代わりに、寝転がってフランドールはつぶやいた。
彼の下半身は、未だに返されていない。
「外・・・でございますか」
ヘイジが口を開くと、彼女はごろんと寝返りをうって、彼に顔を向けた。
その目はとても憂鬱そうである。
「そう。お姉様が“館の外に出ちゃ駄目”って言うから、出られないの・・・」
「はあ・・・」
こう言ってしまっては失礼だが、ヘイジにもその措置は納得できる。フランドールの力は、あまりにも強すぎるのだ。
下手に外を出歩いたりしたら、誤って誰かを傷つけかねない。しかし本人に悪気は無いのだから、複雑な問題である。
まあとにかく、そんなフランドールに対するレミリアの措置には、彼も完全には同意できないまでも、間違っているとは言えないものがあった。
「あ~っ、でも出たいよお~!」
ヘイジのあばらの上で、フランドールがじたばた暴れ出した。彼女に叩かれて、彼の骨が鉄琴のような音色を奏でる。
「フ、フラン嬢! 落ち着いて!!」
しかし彼女の力は強く、骨にヒビが入りそうだ。ヘイジは慌ててフランドールをなだめようと試みる。
「あ、そうだ。いいこと考えたっ」
とそこで、彼女は暴れるのをぴたっと止めた。それからおもむろに立ち上がると、部屋の隅に置かれたおもちゃ箱へ駆け寄って、ふたを開ける。
その中からヘイジの下半身を引っ張り出すと、彼の目の前に投げて寄越した。
ガラン、と音を立てて骸骨が転がる。
「あの・・・フラン嬢、これは?」
不思議そうな顔をするヘイジに、
「お外に出るの! ヘイジは付き添いだよっ!!」
眩しい笑顔でフランドールはそう言った。
「外へ出るんだからさ、足がないと不便でしょ」
「はあ・・・(?)」
彼女の言葉はよく分からなかったが、とりあえず彼は、下半身の骨を上半身と連結し、元に戻した。
それから後、二人は紅魔館を出て館の裏側に回った。一応、フランドールも敷地内なら外へ出ても良いのだとか。
ちなみに現在は日の照りつける真っ昼間だが、彼女は日傘を差しているので問題ない。(更に補足すると、日焼け止めクリームもしっかり塗ってある)
「ほらここ、この下には水道が続いてるんだよ。今は使われてないみたいだけど」
そのフランドールが、草むらに埋もれた金属製の蓋を指差して言う。いわゆるマンホールというものか。
「なるほど・・・ここを通って行けば、どこかに出られるということですな」
「そーゆーこと。ねえ早く行こうよ!」
ヘイジの手を引っ張ってフランドールが急かす。しかし彼は、乗り気でない。
「いえしかし・・・お姉様から外出は禁じられていると」
「お願いヘイジ! ちょっと、本当にちょっとだけだから!! ね?」
そんな彼に、フランドールはすがりついて懇願してきた。ヘイジの顔を見上げるその目は、かすかに潤んでいる。
こうまでされては、彼に断るなどという選択肢は無いも同然だった。
「・・・少しだけ、ですぞ。すぐに帰りますからな」
「やったー!」
フランドールが歓喜の声を上げる。
それからヘイジは、マンホールの蓋を開けると自分から先に中へ入った。続いてフランドールが日傘を閉じて入っていき、蓋を閉じた。
そして現在。真っ暗な地下水路を二人は歩いている。
しかし不思議なほどに一本道続きである。一度も枝分かれしていない。
水を引く為だけに使われていたのだろうか・・・などとヘイジが思っていると、
「あっ、見てよ! 光が見える!!」
彼の前を歩いていたフランドールが、こちらを振り返って前方を指差した。
彼女の示す先には、天井から白い光線が差し込んでいる。
「おや、出口ですかな?」
何となくヘイジは安心した。ここまで来て行き止まりなどという結末は、彼としてもあまり面白いものではない。
「ほらヘイジ! 早く行こうよ!!」
フランドールが嬉しそうにはしゃいで、光に向かって走り出す。
「フラン嬢、そう慌てずとも出口は逃げますまい」
そんな彼女とは対照的に、ヘイジはそのままのペースで歩く。まあ走ろうにも、水路が狭くてそんなことはできないのだが。
「そ、それにしても・・・狭いっ!」
まあそんなこんなで、何度も壁にぶつかりながらもヘイジは、日が差している場所までたどり着くことができた。
壁に梯子が取り付けてあって、上に空いた出口から太陽光が差し込んでいる。
そこからちょっと離れた所で、フランドールが待機していた。日焼け止めを塗っているとはいえ、やはり日光には当たりたくないらしい。
「フラン嬢、傘を」
ヘイジが彼女から日傘を受け取り、先に梯子を登っていく。地上に出ると彼は、フランドールの日傘を開いて、出口に影をつくった。
「さあフラン嬢、こちらへ」
「わあ、ヘイジって頭いいね」
出口から手を差し伸べるヘイジにフランドールは笑いかけると、梯子を使わずにその翼で飛翔し、彼の手を取った。
それから彼女は地上に降り立つと、周囲をぐるりと見渡した。
「わあ・・・お外って、こんなに綺麗な所なんだあ・・・・!」
そして感嘆の声を上げる。
今二人の居る場所は、森の中にある湖の畔。小さくはないが、そこまで大きくもない、といった規模の湖だ。
水は澄んでいて、その水面が太陽の光を反射してキラキラと輝いている。
「これは・・・出向いた甲斐があったというものですな」
ヘイジも目の前の景色に感動を隠せない。
しばらくの間二人は、目の前の光景にすっかり見とれてしまっていた。
PV20000,ユニーク2700を突破しました。こんな話でも読んで頂いている読者の皆様に、深く感謝の言葉を申し上げます。
さて次回、帰りたくないフランドールは・・・
続きます。