14.異変解決・・・?
やっと目的地へ辿り着いたヘイジとオリジン。
長い夜も、もうじき終わる。
それからまたしばらく、二人は通路を右に曲がり左に曲がり、時には階段を上り下りしつつ、ついに、ある部屋の前までたどり着いていた。
オリジンがそこで立ち止まる。
「ここだ、ここで間違いない」
「これは・・・何かの皮肉ですかな?」
そこはヘイジの主人、フランドールの部屋だった。
自分が最初に向かっていた場所に、今ようやくたどり着いたとは、ヘイジは何だか笑えてきた。
「ヘイジ、ここまで案内ありがとうな」
とそこで、オリジンはヘイジの方を向くと、そう言ってきた。
言われて、ヘイジは首と両手を横に振る。
「な、何を今更。貴殿がいなければ、自分もここまで来られなかっただろうに」
「ああ、確かにそうだな」
彼にくるりと背を向けると、オリジンは扉の方に向き直った。
ひどくあっさりした少年だな・・・ヘイジは彼の態度からそう感じ取った。
「さてと、私の目的を果たすとしよう」
オリジンは扉の取っ手を掴んで、
「うぉおい! アナザー!!」
音を立てて勢いよく開け放つと、ドスの効いた声で呼びかけた。
いや、呼びかけたと言うよりも、叫んだと言うべきか。傍らにいたヘイジも少し身が縮んだ。
「うわあ! 誰!?」
「あ、オリジンだ。やっほー」
「何が“やっほー”だ、お前ぇ!!」
部屋の中にはフランドールと、長袖のセーラー服を着た少女が一人。
彼女が“アナザー”らしく、オリジンはその少女に詰め寄っていくと、その襟首を捕まえた。
「言ったよな、私は言ったよなあ!? “月の出ている晩は勝手に出歩くな”って、何度も言ったよなあ~?」
「ええ~? だって、お月様が出てる夜って何だかワクワクするじゃない。外に出たくなっちゃうもん」
今にも相手を絞め殺してしまいそうな詰め寄り方だ。横で見ているフランドールなどは、怯えてすくみ上がっている。
しかしアナザーの方はと言うと、平然としており、その顔には笑みまで浮かべて、むしろどこか楽しそうである。
「ぐぬぬぬ、自分の“能力”のこと分かってるだろう? それに毎回、私が迎えに行かなきゃ、一人で帰っても来られないじゃないか!」
「私はオリジンが“迎えに来る”と分かってるから、出かけるの。来ないなら、わざわざ自分から外に出たりなんてしないわ」
「お前って奴は、まったくもう・・・!」
オリジンは顔を真っ赤にして、もう怒り心頭、といった様子。
とその時、
「オリジン、そこまで!」
ヘイジがオリジンを背後から取り押さえた。しかし、必死で抜け出そうとしてくる。
「何するんだヘイジ! 放せっ!!」
「出来ない! 貴殿は、小さな令嬢に醜い喧嘩を見せる気なのか!?」
「はっ!?」
そこで彼は、傍らで怯えているフランドールに初めて気がついた。
罪悪感からか、その体から力が抜けていく。オリジンを放すと、ヘイジは言った。
「・・・喧嘩なら、他所でするがよろしい」
彼の言葉に、オリジンはため息をついてから頷いた。
「分かったよヘイジ・・・アナザー、さっさと帰るぞ」
「はいはい~・・・じゃあねフランちゃん、また遊ぼうねー」
オリジンがくいっと手招きをする。アナザーは彼に駆け寄ると、ふっとフランドールの方を振り返り、笑顔で手を振った。
「う、うん! またねお姉さん」
彼女も手を振り返す。
オリジンはアナザーが傍らにいることを確認すると、目を閉じた。
「・・・“転移魔法”」
そして何か呪文のようなものを唱えると、二人とも一瞬にして、その場からいなくなってしまった。
「行っちゃった・・・」
「・・・行ってしまいましたな」
彼らを見送って、ヘイジとフランドールは呟く。
とそこで、ヘイジは自分の主に向き直った。
「フラン嬢・・・このヘイジ、ただ今戻ってまいりました」
「え?」
一瞬、戸惑うような表情を見せたフランドール。しかしすぐに笑顔になると、
「もう、遅いよ~! 待ちくたびれちゃんだからねっ!」
彼の胴辺りに抱きついてきた。身長の関係上、ヘイジが立ったままだとそうならざるを得ない。
「いえ本当に、遅くなって申し訳ない。・・・しかしフラン嬢」
「ん~?」
彼はそこで、部屋の片隅を顎で示した。そこには、
「あんな醜態を晒すなんて・・・私、メイド長失格だわ・・・・・・」
「・・・彼女は、一体どうされたのですか?」
隅っこの方で、膝を抱えてうずくまっている咲夜の姿が。そこだけ、何やらブラックなオーラを放っている。
ヘイジの問いにフランドールは、一言だけ言った。
「えーと・・・聞かないであげて」
「・・・承知しました」
異変パートでしたが、いかがでしたでしょうか。
ではまた次回。