12.閉鎖された紅の館
何やら、おかしな雰囲気の漂う紅魔館・・・
フランドールの部屋にて。
「うーん・・・ババはどっちかな」
「ドキドキ」
アナザーとフランドールは、二人でババ抜きをしていた。現在、二人の手札はアナザーが一枚、フランドールが二枚、そして今はアナザーが“引く”番だ。
数秒ほど考えてから、彼女は、右のカードをパッと引いた。そして、
「やったー!! あがりィー!」
「うわー負けちゃったー!」
歓声と敗北の叫びとが、同時に響き渡った。
その頃、紅魔館門前。
「・・・なあ、骸骨の人」
「自分にはヘイジという名前が」
「ごめん。・・・なあヘイジ、頼みがあるんだが」
「自分に何か?」
オリジンが重々しく口を開いた。ヘイジは彼に応じる。
ちなみに余談だが、美鈴はちゃんと休めるよう、ヘイジが塀にもたれさせておいた。
「館まで、私を連れて行ってくれないか?」
「ああ、それならお安い御用だが・・・なぜ?」
「いや・・・話すと長くなりそうなんだが・・・うーん」
ヘイジの問いに対して、オリジンは何やら、言い難そうに口ごもる。少し間をおくと、彼は話し始めた。
「私の、身内がね・・・どういうわけか、この館に入り込んでしまったみたいなんだ。“アナザー”って名前なんだが、彼女には厄介な“能力”があって・・・」
「はあ、“能力”・・・それが、何か?」
「それがね、普段は何とも無いんだが・・・満月の晩になると、周囲の者から“幸運”を吸い取ってしまうんだ。君や、そこの門番の人が目的地へ行き着けないのも、きっとそのせいだろう」
彼の説明を、ヘイジは時々頷きつつ聞く。とそこで、彼は一つの疑問を持った。
「ふむ・・・しかし自分の場合、部屋の扉を開けるとここへ来てしまったのだが。これはもう、“幸運”や“不運”とはもはや別の問題かと」
「ああ、それはね・・・彼女は“満月の”光に含まれる物質を浴びると、周囲の空間を歪ませてしまうんだ。それで周りの“幸運”が引き寄せられる」
「それとこれと、何の関係が?」
途中で質問してきたヘイジを、オリジンは片手で制した。
「最後まで聞いてくれ。厄介なことに、この“空間”の中では何が起こるか分からないんだ。ドアや廊下の先が別の場所に繋がっていた・・・なんてこと、ザラにある」
「な、なるほど・・・何と恐ろしい能力」
「ああ、まあ私には効かないんだけどな。そのせいで、私しか連れ戻せる人がいない・・・まったくもう、毎回苦労かけさせやがって・・・」
いつの間にか、オリジンがぶつぶつ愚痴をこぼし始めている。ヘイジは彼をなだめるようにしつつ、
「まあまあ・・・とにかく、貴殿を紅魔館に通そう。その“アナザー”を連れ帰ってもらわねば、部屋に戻ることもできない」
「ああ、ありがとう。出来るだけ早めに済ますから」
二人は門をくぐると、館へと向かって歩き始めた。
フランドールの部屋。
「フランちゃん、次は何して遊ぶ?」
ババ抜きを終えて、アナザーがフランドールに問いかける。
聞かれた方の彼女は、少し考え込んでから言った。
「うーん・・・よし決めた! 弾幕ごっこやろうよ!! 今度は負けないからね」
「いいわね。じゃあ私も全力で」
アナザーも了承し、二人は弾幕を撃つのに最適な距離をとる。そして、二人ともカードを一枚ずつ見せ合い、今にも弾幕ごっこが始まろうとしていた。
とその時、部屋の隅で何かがキラッ、と光った。
「っ!?」
「な、何? どうしたのお姉さ・・・」
同時にアナザーの右手が動く。次の瞬間、
「はああああっ!!!」
彼女は部屋の隅に向かって、無数の弾幕を撃ち込んだ。
大量の光弾が、見えない“何か”に当たってキラキラと銀色の輝きを放つ。数十秒間撃ち続けた後、アナザーは攻撃を止めた。そして、あきれたようにため息をつく。
「はあ・・・弾幕ごっこにおいて、“不意打ち”って反則じゃないの?」
「こ、これって・・・!」
床に散らばったものを見て、フランドールは目を見開いた。
落ちているのは、銀色に光る無数のナイフ。これを武器にしている者を、彼女は一人知っている。
「・・・確かに、そうですわね」
そこへどこからともなく、メイド服を着た銀髪の女性が姿を現した。フランドールはその姿を目にして、またもや驚く。
「さ、咲夜!」
「あれ? フランちゃんの知り合い?」
「うん、うちのメイドなの」
「へえ~・・・あれ? と言うことは・・・」
フランドールの答えを聞いて、アナザーは何やら考え込む。そして、ポンと手を打つと、咲夜に歩み寄っていった。
「“友達のメイドさん”だったら、イコール友達ね! こんばんは咲夜さん、私は・・・」
「口を慎みなさい、侵入者が」
「ふえっ!?」
アナザーの喉元に、銀色をした冷たい物体が突きつけられる。思わず彼女は両手を上げて、ホールド・アップの姿勢をとっていた。
「他人様の家へ勝手に上がり込んで・・・命が惜しくないのですか?」
「ね、ねえ咲夜・・・」
「妹様、あなたもあなたです。侵入者と戯れるなど、教育上よろしくありませんわ」
発言を咲夜に遮られ、フランドールは一旦口をつぐむ。
しかしもう一度、思い切って彼女は言った。
「ねえ咲夜! ・・・何で、“バターナイフ”なんか向けてるの?」
「「え!?」」
彼女の言葉に、咲夜とアナザーは同時に声を上げた。二人の視線が、咲夜の手元に向けられる。
よくよく見て見れば、確かに、ナイフはナイフでもバターナイフだ。数秒ほどの沈黙の後、アナザーが小さく吹き出した。
「・・・ふふっ、咲夜さんってギャグのセンスあるのね」
「だ、黙りなさい! ・・・あ、あら?」
咲夜はバターナイフを投げ捨て、メイド服のポケットを探る。しかし、
「(ナイフが無い、一本も・・・はっ!? まさか、さっき全部投げてしまったのかしら?)」
動揺を隠し切れない彼女に、フランドールは言った。
「咲夜・・・? ナイフなら床に・・・・・・」
「あ、あり得ない! “完全で瀟洒なメイド”である私が、こんなこと・・・っ!?」
アナザーから距離を取ろうとしたのか、咲夜が後ろに飛び退く。
しかし着地の瞬間、彼女は足を滑らせた。ズルッ、と間の抜けたスリップの音がして、そのまま仰向けに転倒してしまう。
「だ、大丈夫・・・? 咲夜さん」
アナザーに身を案じられ、咲夜は転んだ痛みよりも、むしろ羞恥心で涙が出そうになった。
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ちょっとドジな咲夜さんって、どうでしょう?
続きます。