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11.満月の晩の、来訪者

満月の下、紅魔館は異変に見舞われる。そして、もう一人の来客が現れた。

 さて、紅魔館内部のことなどつゆほども知らず、美鈴はいつものように門番をしていた。


「いい月夜だな~」


 大きな金色の満月が、夜空に輝いている。思わず言葉にしてしまうほどの、見事な月だった。

 と、そこへ歩み寄ってくる人影が。


「もしもーし、ちょっとそこの人」


 暗闇の中から、黒い服を着た人物が現れた。髪の色までも真っ黒な、少年の姿をしている。背丈は美鈴より少し高いくらいだろうか。


「ええと・・・何かご用ですか?」


 見かけない人物だ。それに、こんな時間に“人間の”少年が紅魔館へ足を運んでくるなど、普通に考えればあり得ない。

 美鈴は不審に思い、少々警戒した。


「ああ失礼、私はオリジンというのだが・・・この子に見覚えはないだろうか?」


 向こうは、そんなことなど少しも気にしていないようで、彼女に一枚の写真を見せた。

 長袖のセーラー服を着た少女が、そこには写っている。


「いえ、見かけませんね」

「即答か」


 拍子抜けしたのか、オリジンと名乗った少年はがくりと肩を落とす。その顔から失望が見て取れた。











「ああ、すっかり遅くなってしまった」


 ヘイジはやっとの思いで、フランドールの部屋の前までたどり着いた。

 咲夜と別れた後、なぜか何もない廊下で何度も転んだ。いつもなら絶対に無いことなのだが、今日は何か変だった。


「まさか、これがレミリア殿の言っていた・・・」


 彼女に言われた、“良くない運命”。自分に降りかかる災いとは、もしかすると、このことだったのかもしれない。扉に手を掛けながら、ヘイジは思った。

 まあしかし、やっとここまでたどり着くことができたのだ。フランドールも自分のことを待っているかもしれない。


「すみません、遅くなり・・・」


 部屋の奥に声をかけながら、彼は扉を開いた。











紅魔館の門前。



 少年は考え込むと、言った。


「そうか・・・じゃあ悪いが、館の中にいないかどうか、調べてもらえないだろうか?」

「分かりました、ちょっと待っていて下さいね」


 オリジンと名乗る少年の頼みを聞き入れて、美鈴は門を開けると紅魔館の敷地へ入って行く。

 とそこで、彼女は突然振り返った。


「ああそうだ! そこ、動かないで下さいよ。“絶対に”ですよ?」

「あ、ああ・・・分かった」


 強く念を押すように言ってくる。オリジンが頷くと、美鈴は館の方へ消えた。

 彼女の姿が見えなくなってから、彼は塀にもたれかかってため息をつく。今までの疲れがピークに達していたのだろう。

 とそこへ、


「遅くなり・・・おや?」

「うわっ! だ、誰だお前は!?」


 突如、どこからともなく目の前に大柄の骸骨が出てきた。その姿を目の当たりにして、オリジンが腰を抜かす。

 ヘイジは、頭を掻いて答えた。


「ああ、自分はヘイジ。ここ紅魔館で従者を勤めさせて頂いている者」

「え? そ、そうか、従者か・・・悪い妖怪かと思った」


 彼の自己紹介を聞いて、オリジンはほっと胸をなでおろす。その一方で、ヘイジは不思議そうに周囲をきょろきょろ見回していた。


「おや? おかしい・・・確かに、フラン嬢の部屋に入ったはず・・・」

「どうしたんだ骸骨の人、まさか部屋に戻れなくなったとか?」

「ああ、実はその通りで」

「そうか・・・ならやっぱり、彼女はこの近くに・・・」

「うん? 何を言って」


 オリジンの意味深な発言に、ヘイジが問いを発する。とそこへ、


「わーっ!!!」


 館のある方から美鈴が転がってきて、ヘイジ達二人の前で止まった。

 すぐさまヘイジが駆け寄り、助け起こす。彼女は体には、無数の傷や痣ができていた。


「美鈴殿! どうしたのですか!?」

「ヘ、ヘイジさん・・・何か、変です。館に、戻ろうと、したら・・・」


 息も絶え絶えに、彼女はヘイジに告げた。


「石に、つまづいて・・・葉っぱで、足を滑らせて・・・やっと館に、着いたら、今度は廊下で滑って、挙句・・・階段から、落ち」

「美鈴殿!? しっかり! 美鈴殿ー!!」


 途中で美鈴は目を閉じると、その体から力が抜けてしまった。

 ヘイジが美鈴の体を強く揺さぶる。とそこで、オリジンがヘイジに言った。


「・・・よく見てみなよ、眠っているだけじゃないか」

「おや・・・まあ」


 彼の言葉に従ってみると、確かに、彼女は寝息を立てている。

 ヘイジの横で、オリジンはため息をついた。









一方、レミリアの部屋。



「どうなってんのよ、これは・・・」


 体のあちこちに痣と傷をいくつもこしらえて、レミリアは苦しげにうめいた。彼女は今、自室の床で仰向けにひっくり返っている。

 部屋から出たいのに、どうしても出られない。靴のヒールが砕けたことに始まって、靴底が滑ったり、落ちていた紙屑を踏んで転んだり・・・度重なる災難に見舞われた。


「でも、挫けてなるものか・・・レミリア・スカーレットは、決して、膝を折らない!」


 根性で、ズルズルと床を這って行く。とそこへ、


「あ痛っ! ・・・って、花瓶!?」


 空の花瓶が頭上に落ちてきた。彼女を襲った花瓶は、そのまま床に転がる。

 頭を押さえて、レミリアは立ち上がった。


「もう怒ったわ・・・」


 背中に生えた黒い翼を広げる。小さかった羽が、真っ赤なオーラを纏って巨大化した。


「レミリア様を舐めるな! 運命は、いつも私の手中にあるッ!!」


 翼を大きくはためかせ、彼女は飛翔した。

 そして、


「ふぎゃっ!?」


 高く飛びすぎて、天井に頭頂部を強打する羽目に。目の前で火花が散った。

 レミリアは床の上に落下すると、そのまま動かなくなってしまった。






「・・・!?」


 場所は大図書館。

 何やら得体の知れない感覚に襲われ、パチュリーは突然立ち上がった。


「ど、どうしたんです?」

「何か・・・変な気分がする」


 心配そうな小悪魔をよそに、彼女は図書館の入口に立つと、その扉を開けた。そして、その向こう側へと足を踏み入れる。

 と、今出ていったパチュリーが再び同じ扉から戻ってきた。


「パ、パチュリー様?」


 彼女が何をしているのか、小悪魔にはまるで理解できなかった。

 いや、彼女のことだから、何か常人には理解しがたいものを伝えようとしているのだろうか・・・などと思っていると、パチュリーはおもむろに口を開いた。


「・・・空間が捻じ曲がっているようね。外に出られないわ」

「え?」


 小悪魔が聞き返すと、彼女は扉の向こうに片腕を突っ込んだ。

 するとどうしたことか、向こう側からパチュリーの手が出てきた。


「え・・・ええっ!? 一体どうなって」

「ま、出られないのだから、無理に出ようとするのは時間の無駄ね」


 慌てふためく小悪魔とは対照的に、パチュリーは落ち着き払って椅子に座ると、手近にあった本を取って読み始めた。


「パチュリー様! 何でそんなに落ち着いていられるんですかあ~!」


 小悪魔の叫びが、図書館内にこだまする。


「こあ、“図書館では静かに”」


なぜか不運に見舞われる紅魔館の人々。

次回に続きます。

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