06 手当
しばらくの間、俺は九尾のことをジィーッと見つめていた。
その外見だけ見れば混乱している様子も無く、冷静に九尾のことを観察しているように見える。
でも実際は頭の中はグチャグチャになるほど混乱している。
(え、何?九尾?妖怪?何でそんなのが本当に居るの?いやいや、冷静になれ俺。まずはこんな場所に妖怪なんかが居るのか・・・あ)
俺はそこまで考えて電撃が走り頭を上げる。
思いだした。
キノコ狩りに出かけたあの山には『迷い山』と同じくもう一つの呼び名があったことを。
その呼び名とは『妖怪山』・・・その名の通り妖怪が出ると噂されているのだ。
山に迷い込んだ者に襲いかかり、その肉を貪り喰うという恐ろしい噂が。
しかしその噂を誰も信じていなかった、あくまで噂だ。
だって今時、妖怪なんてありえないじゃん。
しかし目の前にはその妖怪がしっかりと存在している。
「・・・くゥん?」
ビクッ!と突然の鳴き声に大げさに反応してしまう。
見れば混乱の原因である九尾がこちらを不思議そうに眺めてるじゃないか。
今まで見れなかった黒い大きなクリクリとした瞳が俺にジッとした視線を送ってくる。
愛らしい姿だが尻から生えた9本の尾があまりにも不気味すぎる。
思わず後ずさってしまい足元にあったティッシュ箱を踏みつぶす。
クシャッという音が聞こえて少しの沈黙が訪れた。
「・・・」
大丈夫、かな?
近づいても何もされないよね、危険はないよね?
あまりにも気持ちが下がり気味な俺、なさけねぇ。
しかし相手は九尾だ、妖怪だぞ。
いくら小さいとは言っても油断したら一瞬でパクリと喰われるかもしれない。
だが連れてきたからにはしっかりと手当てをしてあげなくては。
取り敢えず、タンスから適当に消毒液や包帯を取り出す。
そして恐る恐るだが九尾に近づく。
消毒液片手に妖怪に近づく姿、自分でも笑いたくなるぐらいシュールな光景だ。
九尾は逃げることも襲いかかることもせず、ただずっと俺を見つめている。
俺はそっと九尾の傍にしゃがんで足に手を添えて怪我を診た。
(思ってたよりも、酷いな・・・)
傷は想像以上に深くえぐれていた。
山で診たときよりも血が広がって赤い大きな模様ができていた。
罠に引っ掛かったのか、はたまた誰かに撃たれたのか、どうしてこんな怪我をしたのかは分からない。
しかし今はそんなことを考えるよりも傷の手当てが先だ。
九尾の足を少し強引に引っ張って消毒をする。
傷に染みたのか『きゅっ!』と驚いて少し暴れたがすぐに大人しくなる。
ある程度の消毒をしてすぐに包帯を巻く。
慣れない手つきでかなりぎこちなかったが何とか何重にも巻いた。
(・・・てか、人間用の消毒液で大丈夫なのかな?もうやっちゃったから考えても遅いけど)
「良し、できた」
最後に包帯を簡単には解けないようにしっかりと結ぶ。
これでしばらくは大丈夫だろう。
激しくは動けないだろうが、傷は酷くならない筈だ。
不思議そうに自分の足を眺める九尾が可愛く見えた。
妖怪だからって片っぱしから人間を襲うって訳ではないようだ、寧ろこっちが襲いたいぐらい可愛い。
「これでしばらくは大丈夫ふぁぁぁ・・・眠っ」
突然の眠気につい大きな欠伸をする。
・・・そう言えばもう寝てる時間だった。
山で迷った時の疲れが一気に出てきた。
もう寝てしまいたい気分だが九尾を放置していても大丈夫だろうか?
しかしその心配も無用のようでいつの間にかスゥスゥと音をたててグッスリ寝ていた。
「・・・俺も寝よ」
眠気も限界を超えて目が充血して来そうだ。
重い足を引きずって寝室に入り、倒れるようにベッドにin。
(・・・何だったんだ、今日は)
色々とあり過ぎた。
キノコ狩りから始まり、山で迷い、怪我した九尾を見つけた。
今々考えたらどこがどうなったらこうなるのか疑問に思う。
てかキノコを渡し損ねた、報酬金貰ってないじゃん。
まぁ、良いか。
明日渡せば良いだろうし。
重い瞼が徐々に閉じていき、いつの間にかぐっすりと眠った。




