57 天然玖美と変態おっちゃん
俺のその言葉に松坂のおっちゃんは・・・全くと言っていいほど驚かなかった。
それどころか、待ってました!!と言わんばかりに目を輝かせながら俺に顔を近づける。
「そいつァ本当か秀輝ィ!!本当に玖美ちゃんが働いてくれるってんのかァ!?」
「お、おっちゃん少し落ち着け・・・!!顔近ぇよっ!!」
顔面に飛んでくるおっちゃんのツバを嫌々我慢しながらも、俺は何とかおっちゃんを落ち着かせようとおっちゃんの肩を強引に掴んで距離を離す。
どうしてこの人はこんなにもテンションが上がってんだ?
俺のときは悪い意味の二つ返事で答えたのに、どうして玖美のときは良い意味の二つ返事で答えるのか。どことなく依怙贔屓を感じられる。
まあ、そんなことはともかく。
「とにかく、おっちゃん。玖美はここで働いても良いよな?」
「勿論でェ。俺がお前ェに頼んだってのに、どうして断らなきゃなんねェんだ?さあ、玖美ちゃん。実はというとお前ェさん専用の服をもう用意してんでェ。どうだ、着てみたかねェか?」
「うんうん!!着てみたい!!それって秀輝がこの前着てたやつでしょ?私も着てみたいよっ!!」
「良し来たっ!!ちっと待ってな、すぐ持ってくんでェ!!」
いや、仕事早ぇよ。何でもうバイト服が準備してあるんだよ。
玖美も玖美でどうしてそんなにバイト服なんか着てみたいんだよ。アレ、めっちゃ地味だぞ?
てか何で玖美とおっちゃんはそんなにも意気投合した様子なんだ。
俺は一瞬のうちに色々なことを思ったが、それを口には出さなかった。それにしても何だか仲間外れにされた気がして悲しい。俺は小走りにどこかへと去っていったおっちゃんの背中を見つめながらそう思った。
ちなみにおっちゃんは玖美のバイト服を取りに行ったのだろう。そんなことをしてるヒマがあったら客にうどんを作ってやれと。多分今頃天月はおっちゃんが来るのを待っているのだろうな。
とりあえず俺はおっちゃん(の持ってくるバイト服)をワクワクしながら目を輝かせて待っている玖美に声をかける。
「なあ玖美。最後に聞くけど、本当に良かったのか?」
「ん?何が?」
「何がって・・・バイトだよ。多分お前は楽だと思ってるんだろうけどよ、結構大変なんだぞ?」
「大丈夫だよ。私としては秀輝といれればそれで良いし」
「そ、そうか。なら俺は良いんだけど」
今に始まったことではないが、真正面からバカ正直にそう言われると正直照れる。
玖美はもっとオブラートな言い方を学ぶべきだ。ホントもう、色んな意味で。
「おうおう、何でェ。俺がちっと離れた隙に良い雰囲気になってんじゃねェか」
と、いつの間に帰ってきていたのか松坂のおっちゃんが壁によりかかってこちらをニヤニヤと見ていやがった。
ちなみにその手には安心と安定の地味地味茶色バイト服が握られている。
そして今のおっちゃんの反応からして今のやり取りはバッチリ見られていたのだろう。そうだと分かった途端に俺は恥ずかしくなってきて顔を隠すように俯いてしまった。
玖美はそんな俺の動作を不思議そうに眺めて首を傾げている。今のやり取りを恥ずかしいとは思わなかったのか。天然とは恐ろしい。
「そ、それよりおっちゃん。それが玖美専用のやつか?」
「ああ、そうでェ。可愛いだろ?」
「いや、可愛いっちゃ可愛いけど、さ・・・」
それはあまりにも際ど過ぎないだろうか。
まず一番に目に付いたのは、スカートだ。
とにかく、短い。今時そんな短いスカートを穿く女子高生なんているのか疑問に思うレベルでだ。あんなものをスパッツも何も下につけずに着ればパンチラなんて当たり前だろうし、何より太ももがあられもなく晒されるだろう。いつしかこの店で性犯罪が起こりそうだ・・・そもそもこんな服を着せようとしている時点でセクハラか。
次に目に入ったのは胸元だ。
異常に広い。ブラジャーをつけても意味がなさそうなぐらい、胸元は広い。サラシをキッツキツになるまで巻いてやっと胸元を隠せるぐらいか。どうしてそんなエロティックな服をチョイスしたのか。
「おっちゃん・・・アンタ本当に良いセンスしてんよ」
俺は皮肉をたっぷり込めておっちゃんに言ってやった。
「うるせェ、照れるじゃねェか」
ただしおっちゃんは俺の言葉の本当の意味を理解してくれなかったようだ。
おっちゃんは顔を不気味に歪めて顔をそらして照れている。別に褒めたわけじゃないのだが。
「ってか、玖美もそんな際どい服なんて着たいわけ・・・」
「着たいっ!!」
「着たいのかよ!!それで良いのか玖美!?」
「別に良いもん!!確かにそんな服着るのは恥ずかしいけど・・・別に良いもん!!」
「大事なことなので二回言ったのか?まあ、玖美が良いのなら別に俺は構わねぇけど・・・」
何でこんな服を着たいのかが俺には理解できない。当の玖美はおっちゃんから受け取ったバイト服を握り締めて何故か喜びはしゃいでいる。
玖美はおっちゃんから一言か二言何か言われると、小走りにどこかに去っていった。多分、着替えにいったのだろう。
しかし玖美のようなスタイルの良い美人があんな際どい服を着たらどうなるのか・・・男としては少々気になる。
と、玖美の背中を暖かく(?)見守っていた松坂のおっちゃんが突然俺に声をかけた。
「さて、秀輝。今からやること、分かってんだろォな?」
「やること?」
俺の疑問詞の答えを聞いたおっちゃんは、何故か目をかっ開いて激怒した。
「バッキャロー!!やることっつったら覗きに決まってんだろォが!!玖美ちゃんの秘蔵着替えを見たかねェのか!?」
「見たかねぇよそんなもん!!いや、ちょっと見たいけどさ・・・いやいや、駄目に決まってんだろ犯罪だぞ!?」
「だからこそスリルがあって良いんじゃねェか!!分かってねェな秀輝はよォ・・・」
「分かって堪るかこの変態野郎!!」
「けっ、まあ別に俺ァ良いんだがな。まっ、俺ァそろそろうどん作らねェといけねェからな。玖美ちゃんが戻ってきたら玖美ちゃん連れて下まで来てくれ。やってもらいてェことは俺が教えっからな」
「あー、うん。分かった。玖美が帰ってきたらすぐ向かうよ」
おっちゃんは俺の返事に小さく頷いて、颯爽と階段を下りていった。まあ、そろそろうどん作りに専念しなければ店として成り立たないだろうし、お客を長い時間待たせるのも店主として失格だろう。
俺も玖美が帰ってきたら、すぐおっちゃんの手伝いをするか。
更新が遅れてしまい本当にすいませんでした。
※七月二三日、誤字修正。




