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55 松坂屋に向けて出発

「ごちそうさん」


「ごちそうさまでしたー」


 俺は割れたタヌキの置物を慎重に処理してから(ガラス片なので手を切ってしまうからだ)、置き忘れていった玖美の着替えを脱衣所まで持っていってやった。不幸なことに(いや、幸いなことに?)俺が丁度脱衣所に入ったとき、服を脱ぎかけの状態の半裸の玖美を目撃してしまった。

 勿論、全力で怒られた。ボディシャンプーだのタワシだの風呂桶だの、挙げ句の果てには例の玉藻呪術技(たまものじゅじゅつぎ)旋泡球(せんほうきゅう)』まで投げつけてきた。タワシなどを投げつけられている間は頭を抱えて我慢していたが、あんな殺傷力の塊みたいなトンデモ奥義まで使われたからには全力で逃げるしかない。そもそも家の中でそんなもんを使うなと。

 まあ、目的だった玖美の服はちゃんと置いてこれたし、何より玖美の魅惑のボディを拝むことができたので良しとすることにした。

 その後はすぐにキッチンに向かい、とっとと夕食を作ることにした。玖美が風呂を上がる前には作っておかないといけない。まあ、工夫も何もないシンプル野菜炒めなんて一五分もあれば十分だ。キャベツにモヤシにニンジンに少量の豚肉にと、塩胡椒だけで味を調えた典型的な野菜炒めである。

 野菜炒めが出来上がって底の深い皿にドバーッと盛り付けた丁度そのとき、まるでタイミングを計ったかのように風呂をあがって小さなタオルで長い髪をガシガシと拭きながら玖美がキッチンに入ってきた。

 玖美は盛り付けられた野菜炒めを見て目をキラキラと輝かせていた。先程俺が玖美の着替えを覗いて(故意ではないのだが、見てしまったことには変わりない)かなり怒っていたことはすっかり忘れているようだった。

 玖美はすぐにテーブルに座って、俺も使ったフライパンやらをシンクに置いてすぐに席について夕食を食べ始めた。

 で、今に至る。


「あー、美味しかった!!前から思ってたけど、秀輝(しゅうき)って料理上手だね。お店とか開いたら繁盛するんじゃないかな?」


「この程度で店なんか開いたらすぐに潰れるわ。松坂(まつざか)のおっちゃんか涼香(すずか)並みには上手くねぇと絶対無理」


「あー、確かにあのおじさんのきつねうどんには到底敵わないけど・・・。涼香の作ったあのお蕎麦にもやっぱり敵わないかな・・・」


 そりゃそうだ。

 松坂のおっちゃんは店を経営している本物のプロだし、実は何度か『噂のうどん屋さん』というテレビ番組にも出演したことがあるらしい。松坂屋がテレビに出たことがあるということも驚きだが、そんな番組があるということも驚きであった。日本はうどんに飢えているのか。

 涼香にしたって、今はまだ高校生だが家庭的スキルはかなり高い。料理に限らず洗濯に裁縫に子守りまでと、家事なら何でもできるという万能ちゃんだ。中学のときなんか、家庭の調理実習のときは涼香と一緒の班になれば必ず上手く料理ができると言われていたほどだ。そのときの先生からも涼香は料理人になっても必ず成功するというお墨付きである。まあ、どうしてか彼女は俺のいる班にしか絶対に入ろうとしなかったのだが。


「とにかく、俺は店なんか開くつもりはないからな。っと、もう食べ終わったんなら皿とってくれるか?さっさと洗っときたいしな」


「あ、うん。はいこれ」


「サンキュ。しかしなぁ、松坂のおっちゃん驚くだろうな・・・」


 俺は玖美から皿を受け取りながらボソッと呟いた。

 何に驚くかといえば、今からバイトに行くのが俺だけじゃないことにだ。今日は、いや今日からは玖美も一緒に松坂屋で働くのだ。

 それに実は、まだ俺は松坂のおっちゃんにそのことを報告していない。

 別に通信手段がないわけではない。松坂のおっちゃんはスマートフォン(以前は折りたたみ式の携帯を使っていたのだがスマフォに買い換えたようだ。俺なんてまだ親父のお古の旧式の携帯を使ってるっていうのに・・・)を持っているし、メアドも電話番号も知っている。

 ついさっき決めたばかりだということと、色々とやることがあったということで報告できなかっただけだ。それにどうせすぐに松坂屋に向かうのだから、わざわざメールでも電話でもしないで直接報告すれば良い。

 俺としてはおっちゃんの驚いた顔も見たいしな。俺は頭の中で思いながら、意地の悪い笑みをうっすら浮かべる。

 そんなこんなと考えていたらあっという間に皿洗いも終わった。ギットギトの油物なんてなかったので本当にすぐに終わった。

 洗い終えた皿やフライパンを食器洗浄機に放り込んでからチラッと時計を見る。

 バイトに行くのに丁度良い時間になっていた。

 今度は今もテーブルに座って俺の皿洗いが終わるのを待っていた玖美の方を向いて言う。


「玖美。そろそろ松坂屋に行くぞ。良いか?」


「おお、やっと行くんだね。ちょっと待ちくたびれちゃったけど、それじゃ、行こっ」


 財布良し。携帯良し。準備万端。良し、行こう。

 俺達は松坂屋に向かうため、玄関から外に出た。

PC変えたおかげで今までできていた一発変換(『玖美』などの名前)ができなくなって困っています。

結構マジで。


※六月二四日、誤字修正。

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