52 史上最悪の組み合わせ
「・・・・・・はっ?」
あまりに唐突過ぎるその質問に、俺は無意識に阿呆な声を漏らした。
一瞬頭の中が真っ白になって、思考能力が元に戻るまで数秒かかった。
俺が、天月と、付き合ってる?
「ちょっと待て、何だその話。一体何がどうなったらそんな話題が出てくるのか不思議で仕方ないんだが・・・」
「え、でも、その・・・最近女子生徒の間で噂になってるですよ?」
「噂!?ふざけんな、俺にそんな野郎趣味はねぇぞ!?」
「そんなこと私に言われても・・・でも、そうですか。付き合ってませんでしたか・・・」
どうしてそこでがっかりとした表情で項垂れるのか酒呑華奈。
お前は俺と天月が付き合っていて欲しかったのか?
お前はアレか、俗に言う腐女子という奴なのか?そうなんだな?そうなんだろ?
しかし、どうしてそんな身も蓋もない噂が広まってしまっているのだろうか・・・。俺はとりあえず話題を振ってきた酒呑に尋ねてみることにした。
「で、どーうしてそんな噂が広まってるんだよ。俺はそんなフラグになるようなもんを立てた覚えはないぞ」
「ふ、ふらぐ?まあ、その、聞く話では他人と全く関わろうとしない天月さんが徳野さんにだけは特別接していると思われているらしく、そこから『あの二人、できちゃってるんじゃね?』という噂が広まって・・・」
「何だその曖昧過ぎる噂の出所は!?てかまず誰だそんなこと言い始めた奴は!!教えろ、俺が今すぐソイツのとこに行って誤解を解いてやる!!」
「そ、そこまでは流石に分からないです・・・。そもそも、この噂もすでに学校中に広まってますし、『天月さんを愛でる会』ではもうお二人のBL同人誌が早くも出版されてますし・・・あ」
そこで酒呑はやってしまったという表情を浮かべた。
しかしもう遅い。俺はもうバッチリ聞いてしまった。
「『天月さんを愛でる会』ィィィ!?何だそりゃァ!?そしてそれ以上にちょっと待て。お二人の・・・BL・・・同人、誌?俺の耳がいかれてなければ、今確かにBL同人誌って言ったよな・・・?」
俺は、改めて酒呑に問い掛けた。
できれば、俺の耳がおかしくなってしまったと信じたい。それならすぐに近くの病院にまで行って検査してもらえば良いだけだから。
そうであって欲しい。
しかし、現実は非情であった。
「はい・・・その、BL同人誌です・・・」
「・・・・・・」
聞き間違いでは、なかった。
信じたくないが、俺と天月のBL同人誌が出版されている。
よりにもよって、同人誌だ。よりにもよって、BLだ。
せめて普通のマンガ本なら俺だって許せただろう。せめてBLではないまともな同人誌(同人誌な時点でまともかどうかは怪しいところだが)なら俺だって許せただろう。
しかし。
本当によりにもよってBLの同人誌だ。
史上最悪の組み合わせが俺(と天月)に襲いかかってきたのだ。
気分はブルーだ。深海だって真っ青になるレベルのブルーだ。こんなにブルーになったのは、玖美と涼香にこの世に産まれた直後の姿・・・要するに裸を見られたとき以来か。まあ、今の気持ちがどれだけブルーなのかが伝われば例えなんてどうでも良い。
「ちなみに今例の同人誌を持ってますけど、見ます?タイトルは『THE・AMADUKI~とある男子生徒とのひと時~』です。学校で出回ってる同人誌の中ではかなり軽くて軟らかくて読みやすい方ですけど、見てみます?」
「良い、見ようとも思わないし見たくもない。これ以上俺の傷口を抉らないでくれ・・・」
そもそも何で酒呑がその同人誌を持ってるんだよ・・・。そしてその本のタイトルのセンスに俺は全力で物申したい。
やっぱお前はアレだな、そういう本に興味があるんだな?正直、俺はお前に失望したぜ・・・。
と、俺が酒呑のことを哀れむような眼差しを向けているとき、やっとこさ昼休み終了のチャイムが鳴った。
助かった、これでこの腐空間から逃げることができる。
俺が同人誌を読むのを拒んだのがそんなにも悲しかったのか、表紙に天月が変なポーズを取った姿勢の絵が描かれた同人誌を持ったまま残念そうに俯いていた。・・・いやいや、男の俺にそっち(BL)の道を進めというのはかなり酷な話だぞ?
酒呑には悪いが・・・いや、元々被害者は俺なんだ。被害者の方が悪いなんて言っていたら世界中の加害者が強気に出てしまう。
とにかく、俺は酒呑に時間を取らせて済まなかったと言い(正直すぐに帰れば良かったと思っている)、そそくさと急いで自分の教室に戻った。それで、昼休み終了のチャイムが鳴ったのだからほとんどの生徒がちゃんと自分の席について次の授業の準備をしていた。
で、俺は次の授業の準備を完璧にしてある涼香と何故か涼香に授業の準備をしてもらっている玖美の隣を通り抜ける。勿論、二人から声をかけられた。
「あ、シュウちゃんお帰り。おトイレ長かったけど、大丈夫?」
「遅いよ秀輝ー。もう授業始まっちゃうよ?それよりどうしたの?そんな知られたくない秘密を知られたような絶望的な顔して」
「・・・何でもないから、何も聞かないでくれ」
知られたくない秘密を知られたというより、知りたくもなかった秘密を知ってしまったわけだが。
俺はフラフラとおぼつかない足取りで自分の席まで来ると、ドスンと倒れるように腰を落とした。
何でだろう、酒呑と少し話しただけなのに凄く疲れた。まあ、話の内容が内容なだけあったけれど、それでもこんなに疲れるとは思いもしなかった。
・・・そうだ、寝よう。ということでおやすみなさい。俺は先生が教室に入ってきて授業を始めたにも関わらず、ゆっくりと目を閉じて浅めの眠りに就いた。




