49 食欲旺盛玖美ちゃん
俺達は町をマイペースな速度で学校に向かって歩いていた。途中、朝っぱらから集まっているオバサン連中から『あらあらおやおや、お盛んねぇ。若いって羨ましいわ』とニタニタと何を考えているのか良く分からない悪寒の走る笑みとともに言われたり、同じ学校の名前も知らない男子生徒集団からデジャヴを感じる殺意のこもった視線を向けられたり、何故か俺に目をつけた様子の大山にかなりギクシャクとした笑みを浮かべながら逃げるように教室まで来たのだが、まあそれ以外は特に何もなかったので良しとしよう。
で、今は教室。
昨日と同じように玖美はかなりの人数のクラスメイトに囲まれている。普通なら三日四日も経てば転校生への興味も薄れるはずなのだが、そこは流石の玖美といったところか。
まあ、玖美のような金髪でスタイルの良い美人ならいつまで経っても注目の的なのだろうが。当の本人である玖美は朝からグダグダと言っていたように机に突っ伏してダウンしている状態なので、クラスメイトからの質問に答える余裕はないのだろうけど。そのせいもあってか玖美に集っている奴等も『大丈夫?』とか『具合悪いの?』『保健室まで案内しようか?』『保健室であんなことやこんなこと・・・フゥハァフゥハァ』(最後の奴の対処は言うまでもない)と玖美のことを心配している様子だ。
そのあとすぐにチャイムとともに先生が教室の中に入ってきたので皆席についた。朝礼が始まり、今日の日程や授業内容の変更などを先生が生徒に教えている間も玖美がダルそうに机に突っ伏して・・・寝ている。物凄いふにゃけた顔してよだれを垂らしながら幸せそうに寝ている。玖美よ、そんなにも寝たかったのか・・・。俺はそう思いながら玖美が寝ていることに気付いて少し慌てながら起こそうとしている涼香を眺める。
先生は先生で玖美が寝ていることに気付いているのだろうが、大して気にしていないようだ。先生よ、玖美の体調が悪いから仕方ないとはいえ、注意の一つもしないのは先生としてどうなのか・・・。ちなみに新一は俺の腹パンが予想以上に効いたのか、玖美とは別の意味でダウンしている。
朝礼も終わってつかの間の休み時間も終わり、メンドクサイ一時限目の授業が始まった。別に寝ても良かったのだが、流石に毎回毎回寝ているんじゃ成績に多大な被害を受けてしまうのでやめておく(今更という感じもするが、毎回寝るかときどき寝るかという差だけで印象はかなり変わってくる)。それに今回は玖美が寝ているわけだから、居眠り君はクラスに一人で十分ということで今日は真面目に授業を受けることにする。
まあ授業を真面目に受けていれば一時限目二時限目なんてあっという間に過ぎてしまい(勿論、その間も玖美はずっと寝ていた)、今は待ちに待った昼休みだ。
「ガッガッガッバグバグムシャムシャゴックン・・・ムシャムシャムシャムシャ!!」
午前中ずっと眠って体調が戻り体力が回復した玖美が目にもとまらぬ速度で通常の三倍弁当(俺が玖美に作った弁当と俺の弁当と涼香が何故か余計に持ってきていた弁当)を食していた。その様を俺は購買で買ったハムカツパンを片手に持って呆然と眺め、涼香は右手に箸を左手で弁当を持って口を小さく開いて固まった笑みを浮かべている。近くで同じ様に弁当を食べたり偶然(または玖美を見るためにわざわざ)近くを通りかかったクラスメイトも俺や涼香と同じようにどう反応すればいいのか分からないといった表情を浮かべてできるだけ玖美を直視しないようにしている。
クラスメイトの玖美に対する印象は『巨乳金髪美人玖美ちゃん』から『巨乳金髪大食い美人玖美ちゃん』に変わることだろう。
いや、現在進行形で変わっている。クラスのあちこちから『玖美さん、凄い食べるんだね・・・』とか『どんな胃袋してるんだよ・・・』『量も凄ぇけど、食うスピードがヤベェ・・・』『玖美さんに食べられたいフハァ・・・』(最後の奴はいつも通りだ)などと囁かれている。まあ、当の玖美は食べることに夢中で全く聞いていないようだったが。
「バグバグバグバグゴックン!!ゴクッゴクッゴクゴク・・・ぷはー!!美味しかったぁ!!」
そして三つあった弁当を全て平らげて、手元にあったペットボトルの緑茶を飲み干してフィニッシュ!!三つもあった弁当をほんの数分で平らげる玖美は早食いのマジ者である。それでもまだ食い足りない様子の玖美は本当に何者なのか。
弁当を三つも食べたくせに食べ足りない様子の玖美はしばらく視線をあちこちに向けたあと、遂に俺の手にあるハムカツパンにまで目をつけてきたので俺も急いで食べる。一瞬喉に詰まったが、牛乳を使って何とか飲み込む。俺の口の中で租借されるハムカツパンを名残惜しそうに見ている玖美には悪いが、俺だって昼飯は食べなきゃやってられないのだよ。
と、牛乳を急いで飲んだせいなのか何なのか、急に尿意を覚える。これはトイレに行くしかない。
「ちょっとトイレ行って来るわ」
「ん?じゃあそこに残ってるチョコクリームパン食べてもいい?」
「駄目だ、それは俺の食後のおやつだ!!それは誰にも渡さねぇぞ!!」
「むぅ・・・ケチ」
「あはは・・・玖美さん、私のお弁当分けてあげるから我慢してね」
俺の至高のチョコクリームパンの犠牲になった涼香には感謝しないといけないな。
俺は二人に断って、一人トイレを目指して教室を出た。




