47 ダルく気まずく新たな一日
「・・・・・・」
目が覚めた。目覚めは最悪だ。何で最悪なのかだって?そんなの、昨日の出来事が原因に決まっている。
せっかく風呂に入ってゆっくり休めると思っていたら、玖美が突然乱入して来て、恩を返したいとか何とかと意味深なことを言ったかと思うと大したことでもなかったし、挙句の果てには玖美に男の象徴を見られたし、何故か涼香にも見られることになった。どうしてそうなったのか俺にも分からないし、どうしてそうなったのか俺が知りたい。
・・・死にたい。起きて早々物騒なことを考えた。
いや、仕方ないだろう?女の子二人(一人は妖怪だが、女の子であることは変わらない)にアレを見られてしまったんだぞ?変態露出狂でなく精神的にもまだ青い一介の高校生には、女の子にアレを見られたというのは心に深い傷ができたということでしかない。
一度死んで人生をやり直したい気分だ。目の前に人生リセットボタンなるものがあれば、即座に押したい気分だ。しかしそんなもの目の前になければ存在もしていない。
俺は仕方なく重い体を無理矢理立たせる。いつもより特別気だるい一日の始まりだ。
「・・・んぃ」
とりあえず、玖美のようすを見てこよう。昨日あんなことがあったばかりでとても気まずいのだが、こんなところで文句を言っても仕方ないだろう。
俺は寝ぼけ眼をこすりながら、石よりも重い体を引きずってリビングに向かう。すでに玖美の寝床=リビングという形式が成り立っているのは何故なのか。俺としては女の子(妖怪だが、女の子だ)をリビングなんかで寝かせるのは後ろめたいのだが、玖美自身は特に気にしていないどころかリビングのソファを気に入ったようだ。あんな固いソファのどこを気に入ったのか気になるところだが、そんなことを尋ねるのも野暮なだけだ。
そんなことはさて置いて。
目的のリビングではいつものように(玖美がリビングで寝るようになってからまだ二日しか経ってないが)玖美がソファの上で眠っていた。ただし、いつもと違う部分が一つあった。
「駄目ぇ・・・こっちに近づかないでよぉ・・・。嫌、そんなの見せないでよ・・・。嫌、嫌、こっちに来ないでよぉ・・・」
もう、ホント気まずい。俺は青くなったり赤くなったりする玖美の(精神的な)苦痛に溢れた顔を眺めながら思った。
玖美は多分、悪夢を見ているのだろう。どんな内容の悪夢を見ているのかなんて聞くまでもない。玖美がときどき『あ・・・大きい・・・』なんて呟きながら顔を赤くしている時点で、悪夢の内容が分からないはずがない。どんな内容の悪夢を見ているのかが分かるからこそ、なお気まずい。
とはいえ、やはり起こさないわけにはいかない。俺はかなり遠慮がちにだが玖美を起こすために声をかける。
「・・・おーい?玖美、もう朝だぞ?起きろー?」
「んー、んー・・・ん?」
小さい声だったにも関わらず、玖美はすぐに起きた。いつもはこんなにすぐに起きないくせに、今日に限ってすぐに起きた。いっそのことこのままずっと眠っていてほしかったが、起きてしまったからには仕方ない。俺は物凄くギクシャクした笑みを浮かべながら、目の下に隈を作ってとても眠たそうにしている玖美に声をかける。
「や、やあ、おはよう。ほら、今日も学校だぞ?早く起きろ」
「・・・・・グー」
「あ、こら!!一回起きたのにもう一回寝ようとすんじゃねえ!!」
再び布団を頭からかぶって寝ようとする玖美を無理矢理叩き起こす。
「むぅ・・・まだ寝たい寝足りない・・・。まだ疲れてるよ起きたくないよ・・・」
「そんなの俺だって同じだよ・・・。そんな文句ばっかり言ってないで、早く着替えろよ。俺は飯作っとくから、着替え終わったらキッチンに来いよ」
「はーい・・・。うぅ、何でだろう・・・すっごい体がダルイ・・・」
そりゃ、昨日あんなことがあったらな・・・。俺は思ったが口には出さない。今は言葉にしない方が賢明だろう。
とりあえず、俺はやはり元気のない玖美を置いてキッチンで朝食作りに向かう。とはいえ、いつも通りにご飯を作るつもりはさらさらない。作る気力もすでにない。食パン二枚程度にバターを塗ればいいか。そう思ったらあとは実行するだけだ。
とりあえずは食パンを探して、四枚見つけたので二人で二枚ずつ食べることにして、四枚の食パンを全部トースター(四枚同時に焼くことができる俺のお気に入り)に詰め込んで焼く。しばらく経って良い感じに焼けてからバターを塗る作業に入る。四枚の食パンでもバターを塗るだけなら一分も必要ない。バターを塗り終えて、牛乳をコップに注いで、今日の朝食は完成だ。シンプル過ぎるとか、少な過ぎるとか言われるかもしれないが、これだって立派な朝食であって文句を言われる筋合いはない。
さてあとは玖美が来るのを待つだけだ、と思った途端。
「うぁー・・・やっぱ何かダルイよ・・・。何でだろ・・・それにやっぱ寝足りない・・・」
一足遅れて玖美がキッチンに入ってきた。やはり珍しく、かなりダルそうにしている。それでもやはり腹は減っているのか、全く違和感のない動作でテーブルに着いた。とてもとても気まずい朝食が始まった。
※四月二四日、脱字修正。




