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43 徳野クッキングと砂嵐

徳野秀輝のぉぉぉ!!


三分(じゃできない)クッキングゥゥゥ!!はっじまっるよー!!


テレレッテンテッテッテ♪テレレッテンテッテッテ♪テレレッテンテッテッテッテッテッテンテレレテレレ レン♪


はい、今日は唐揚げを作っていきたいと思います!!


用意するものは、鶏もも肉。


下味にはおろしニンニク・おろしショウガ・酒・醤油・ごま油を混ぜたものを使います。


色々省いて三〇分ほど置いたものがこちら、いやあこの時点で食欲をそそる良い匂いがしますねぇ。


もう色々と準備するのもメンドクサイんでこのまま油に放り込んじゃいましょう!!


丁度良く目の前に高温になった油がありますし、ほらドバーッと!!


そして完成した唐揚げがこちらっ!!


ん~、良い匂いですね。


この香ばしい匂いだけでご飯三杯はイケそうですよ。


さあ最後にこの唐揚げをお皿に盛ってレタスとレモンを添えて・・・でっきあがりぃ!!


見てください!!この光り輝く狐色の唐揚げを!!黄金色に等しいこの輝きを!!


どんな味がするのか楽しみですね、とても美味しそうですからね。


おっと玖美さん、勝手につまみ食いされては困りますよ?


最初の一口は俺が貰うんですからね?


ん~、やはり良い匂い。


匂いだけでご飯三杯と言ったが、これなら五杯はイケるかもしれない。


それでは、いただきまぁーす!!



「・・・なんて簡単に作れたら苦労しないんだけどなぁ」



俺はパチパチと鶏肉を揚げている揚げ物鍋の前で菜箸片手に呟いた。


先程のアレは全て俺の妄想である。


匂いだけでご飯三杯も五杯も食べられるような唐揚げを、俺なんかが作れるはずがない。


『完成品がこちらっ!!』とかそんなお料理番組にありがちなご都合展開は流石にありえない。


そもそも俺には悠長に唐揚げを作っているほど時間がないのだから、鶏肉に三〇分も下味をつけるヒマなんてないわけで。


一応は醤油やおろしニンニクを使って多少の下味はつけたものの、レタスをちぎって皿に盛り付け単純サラダを作った間だけなので一〇分つけていたかどうかすら危うい。


味付けもクソもない唐揚げだ。


とてもじゃないが美味しいとは思えない。


とりあえず、良い感じに唐揚げが揚がってきたので油の中から取り出す。


色だけなら妄想の唐揚げと完全に一致するが、そんな良い匂いはしない。


まあ、短時間で作ったというには良い出来だろう。


俺は黄金色の唐揚げをサラダの上に盛ろうとして、



『やぁぁぁあああああ!!なっななな何これぇぇぇえええええ!?』



「ぶふっ!?何だ今の?」



突然聞こえた声に驚いて、箸でつまんでいた唐揚げを危うく落としそうになった。


今の声はリビングから聞こえた。


・・・玖美の奴、何かやらかしたな?


俺は全ての唐揚げを皿に放り込んで、最低限の後始末を適当に済ませてキッチンを出る。


向かうはリビング。


玖美が何をやらかしたのかこの目で確かめなければ。



「こらぁ!!玖美、テメェ今度は何しやがったぁ!?」



「何もしてないよぉ!!なのに・・・なのにテレビが変なことにぃ・・・」



玖美は涙声で左手で顔を覆いながら、震える手でテレビを指差した。


俺も恐る恐るとテレビを見た。


玖美がこれだけ怯えているのだ、どんなおぞましいものが映っているのか想像もできない。


・・・貞子がテレビから出てきたとかじゃないだろうな?


流石にそれはないか、過激な番組でも映ったのか?それにしても動作が大袈裟だ。


そこに映っていたものは俺の予想を裏切るものだった。



《ザッザザ―――ザザザッザザ―――》



「・・・あの、玖美さん?これがどうかしたの?」



「ホントごめん秀輝!!わざとじゃないの!!本当にわざとじゃないのっ!!でも、私それ壊しちゃったのかも・・・でもわざとじゃないの!!ボタンを押してたらそんなことになっちゃって・・・許してとは言わない、ごめんなさいぃぃぃっ!!」



「・・・・・・」



テレビに映っているのはただの砂嵐だ。


多分、玖美はこの砂嵐を見てテレビを壊してしまったと勘違いしたのだろう。


・・・まあ、玖美はテレビを見るのが初めてのようだったから、突然テレビが砂嵐になったらそりゃ驚くだろうが。


それにしたって反応が大袈裟過ぎやしないか?


俺は今も顔を背けながら震える手でテレビを指差す玖美に声をかける。



「あのな・・・別にそれ、壊れてるわけじゃねぇぞ?」



「・・・え?」



「俺ん家のは古いやつだからたまに起こるんだよなぁ・・・。俺も専門家じゃねぇし、テレビに興味もないから詳しく知らないけど、気にするほどのことじゃねぇよ」



「・・・本当?」



「何でここで嘘を吐かなきゃなんねぇんだよ。本当だよホント」



「・・・・・・よ、良かったぁー・・・」



玖美は安堵で胸を撫で下ろし、膝から崩れ落ちて床に手をついた。


何度もいうが、大袈裟すぎる動作に俺は思わず溜息を吐く。


ただでさえ崩れかけていた妖怪のイメージが、一瞬で崩れ落ちた瞬間である。



「まあ、飯できたから待ってろ。ここまで持ってくるから」



「うん。そういえば秀輝の作ったご飯食べるの初めてだったね?ちょっと楽しみかも」



「あまり期待はすんなよ。ちゃんと作る時間なかったんだからな」



俺は最後にそう言い残して、放置している唐揚げとご飯を取りに行くためキッチンに戻る。


一応二人で食べるのだからいつもより多めに作ったのだが、今更足りるか不安になってきた。


相手はあの玖美だ。


松坂スペシャル(バケツ二杯分)を軽々と平らげるほどの強靭過ぎる胃袋(ブラックホール)を持つあの玖美だ。


いつもより多めとはいっても、玖美の胃袋(バケモノ)を相手にすればあっという間に全滅するかもしれない。


そして、俺の予想は的中してしまった。


俺の持っていった唐揚げを見た瞬間、獣が獲物を狙うように目を輝かせると唐揚げに食らいついてきたのだ。


勿論、俺も唐揚げを奪われまいと必死に対抗するが、玖美の野生の本能が目覚めたような俊敏な動きを前にしては抵抗することさえままならない。


結局唐揚げは全て奪われて、奪い返そうとしたがその前に唐揚げを全て食べられた。


最終的に俺はご飯と添え野菜のレタスしか食べられなかった。

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