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40 善意の残酷な嘘

「・・・ちゃん!!シュウちゃん起きて!!学校終わったよ!!」



「むぐっ・・・あと五分・・・」



「寝ぼけたこと言ってないで早く起きてよこのバカ秀輝ぃ!!」



「―――げぼォッ!?げほっ、なん、なんだ!?」



むにゃむにゃと居心地よく寝ていた俺の背中になんか物凄い衝撃が走り一瞬で目が覚めた。


なんだよオイ!!と勢いよく立ちあがろうとしたが、背中になにか重たいものが乗っていて上手く動けない。


生温かい空気が撫でるように首筋にぶつかってくすぐったい。


多分、玖美が俺の背中にのしかかっているのだと思う。


心なしか、二つの柔らかいなにかが背中をプニプニと圧迫してくるが、これはなんだろう?



「・・・・・・あー」



「シュウちゃん?なんだかすっごい幸せそうな顔してないかな?」



「いえ、それは大きなゴカイデスオジョウサマ」



「あれ?起きてたの秀輝?もう、さっきからずっと起こそうとしてたのに全く起きないもん」



「それは分かったからマズハソコヲドイテクレマセンカ?」



途中途中が片言になっているのはやはり背中に感じるやけに柔らかいなにかが原因だろう。


『一刻も早く玖美をどかすべき!!』とわめく理性と『もう少しこの柔らかさを堪能しようぜ?』と甘く囁く本能とが俺の頭の中でぶつかり合っていたが、誘惑に負けることなくなんとか理性にしたがって玖美をどかす。


少し渋々とした様子で俺の背中から降りた玖美は、今度は涼香の背中に寄りかかるように手を回す。


やっと席から立つことができた俺は玖美と涼香の顔を見たあと、教室を見回す。


クラスメイトはもうほとんどいない。


残っているのは例のがり勉君と少数のお喋り組だけで、他のクラスメイトはもう部活に行ったか自宅に帰ったか。


再び玖美と涼香に目を向ける。


朝は手ぶらだったはずの玖美がなぜかスクールバックを持っていることに疑問を抱いたが、それが俺の使っているスクールバックだということに気付いた。


涼香は俺のことをとても心配そうな目で見て、



「ねえシュウちゃん。ひょっとして、具合悪いの?お昼過ぎたあたりからちょっと様子がおかしいけど・・・」



「うんうん、私達が声をかけても生返事ばっかりで全然相手にしてくれないし。ホント、今日なんだか変だよ?」



「そうか?自分で言うのもなんだけど、俺っていつもこんな感じじゃねぇの?」



しかし、言われてみれば昼過ぎに新一と会話して授業中に寝てからあとの記憶がイマイチ残っていない。


流石にその間ずっと寝ていたわけではないだろうし、玖美も生返事ばかりだったと言っているので一応は起きていただろう。


それでも記憶がないところめちゃくちゃボンヤリしていたとしか言いようがない。


病院に行くことも考えるべきだろうが、今はとりあえず気にしない。


俺は玖美の手にあるバックに視線を向けて、



「それで、もう学校終わったのか?」



「うん。もうほとんど皆行っちゃったよ。私も部活があるしもう行かなきゃ」



「うん?そういやなんでお前まだいるんだ?何事も遅れることを嫌ってんのに部活には行ってないんだな」



「その、玖美さん一人だけじゃ少し寂しいかなって思って。それにね、天月君から伝言があって」



「天月が?」



うん、と涼香が小さく頷いて、



「大切な話があるから玖美さんと一緒に屋上に来いだって。大切な話ってなんのこと?」



「だから涼香は知らなくていいのっ。それにアイツが話に関係のない人間に話すわけないからね」



「・・・うん。そう、だよね。聞かれたらマズイ話なのかもしれないし、ごめんね無理言って。それじゃ、私は部活に行かなきゃいけないから、またあとでね」



涼香は一瞬少し悲しそうな表情で目を伏せて、いつも通りのニコニコ笑顔でそういって教室から早足に出ていった。


一瞬だけ見せたその表情が、俺の頭の中にハッキリと焼きついた。


何故そんな表情を見せたのか、少し考えるだけですぐに分かった。


―――仲間外れにされてる、そう思ったんだろう。


自分だけ本当のことを教えてもらえないことに涼香は心のどこかにぽっかり穴が空いたような気持ちを味わっていたのかもしれない。


現に俺は涼香に何度も嘘を吐いた、本当のことを教えなかった。


それは涼香を現実離れした事件から遠ざけるための、涼香を危険なことに巻き込ませないために、涼香のためを思ってやったことだった。


でも。


俺がそう思っていたとしても、涼香はそれをどう捉える?


相手のことを思って嘘を吐いたとしても、事情を知らない嘘を吐かれた人は嘘を吐いた人の意図を汲み取ることなどできるはずがない。


良かれと思って吐いた嘘がマイナスに働く事なんていくらでもある。


今がそうだ。


俺の付いた善意の嘘を、涼香は悪意の嘘と受け取った。


嘘というのは残酷だ。


嘘の内容の善悪に関わらず、嘘を吐いたという事実だけで人の心を傷つける。


ただでさえボロボロになっていたかもしれない涼香の心に、玖美はさらに『関係のない』と言ってしまった。


そこに悪意がなかったとはいえ、ボロボロになった心にはその言葉だけで深く突き刺さる。


涙を浮かべなかっただけ、涼香の心の強さが伝わってくる。


ごめん、と謝りたかった。


嘘を吐いてごめん、と頭を下げて謝りたかった。


しかし、まだ謝るには早い。


まずは玖美達の抱える問題を片付けなければ、嘘を吐いた意味がなくなってしまう。


それは、嘘を吐いてしまった涼香に対して悪い。



「どうしたの秀輝?なんか悟ったような顔して」



「・・・いや、ちょっと考えてた」



「??」



全部片付いたらちゃんと謝ろう。


本当のことは言えないけれど、玖美と一緒に頭を下げて心の底から謝ろう。


玖美の持っていたスクールバックを受け取り、いつの間にか誰もいなくなっていた教室を出た。


ひょこひょこと後ろをついてくる玖美とともに屋上に向かう。


俺の通っているこの学校は、屋上が生徒の出入りが自由になっていて、昼休みなどの休憩時には息抜きや友達との会話のために結構多くの生徒が行き来する。


しかも部活などで生徒はほとんど来ないのに完全下校時間まで開いてたりする。


学校によっては放課後どころか生徒の危険を考慮して屋上は立ち入り禁止になっていたりするのに、この高校に至ってはそういった対策は皆無だ。


まあ、この高校には危険な行動に出たり、飛び降り自殺を考えるほど切羽詰まった奴もいないしそもそも放課後は誰も来ないしそんな対策は必要ないのだが。


だからこそ天月も屋上を待ち合い場所に選んだのだろう。


いつも使っている階段は使わず、校舎の一番端にある屋上に唯一繋がっている階段を上る。


一段飛ばし且つ早いペースで上っているので一段ずつ上っている玖美は自然と早足になっている。


屋上に出るためのドアは開きっぱなしになっていた。


そこからでも誰かがいることに気付いた。


二人の男女だ。


一人は天月だと雰囲気だけですぐ分かった。


天月は屋上のドアがある方とは反対の一番端っこにこちらに背を向けて立っていた。


その隣に天月よりも頭二つ分ほど背の低い小柄な少女が天月と同じようにこちらに背を向け立っている。


誰かは分からないが、制服からしてこの学校の生徒なのは確かだ。


ピンクっぽいが少し赤寄りの明るい癖のない真っ直ぐな赤毛のショートヘアーが特徴的だ。


俺は玖美の手を引っ張って屋上に足を踏み入れる。


足がドアの内側からドアの外側を踏みしめた踏み締めた瞬間、一秒も待たず天月が振り返り、隣の少女も釣られたように振り返る。


少女の顔にはほんの少しの戸惑いが、天月は小さく笑みの表情を浮かべた。


天月はこちらに視線を固定したまま、とても小さく、それでも俺の耳に届く声で呟いた。



「やっと、来ましたか」

おかげさまで四〇話行きました、読者の皆様ありがとうございます。


この調子でいけば軽く三〇〇話は超えそうですが、最後まで見てくださるととても嬉しいです。

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