表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/59

31 そばのお味と引越し終了

「早いな、もうできたのか」



「うん、でも十分もかかっちゃった・・・ごめんね待たせちゃって。玖美さんの分ももちろんあるから、遠慮しないでね」



「遠慮なんてするはずないから安心して!!遠慮して食べないだなんて料理に失礼だよ!!」



「それ別に安心できねェし、料理じゃなくて作った人に失礼なんじゃねェか?」



「それ、結局どっちにも失礼じゃないかな?」



玖美の発言に俺が突っ込んだのと同時に、涼香がリビングに戻ってきた。


その手には大きなトレイがあり、白い湯気の出ている三つの丼ぶりが乗っていた。


香しい匂いがリビング一杯に広がり、空腹感がより一層に増す。


涼香がリビングの中央に置かれたテーブルに丼ぶりを置いていく。



「これがシュウちゃんので、こっちが玖美さんの。それでこれが私のね」



俺の分と涼香の分にはかき揚げが乗せてあり、玖美の分には大きな油揚げがドンと乗せてある。


・・・油揚げ?



「涼香、もしかしてさっきの会話聞こえてたのか?」



さっきの会話と言うのは、玖美がそばに油揚げを入れてほしいと俺に呟いたときのことだ。


リビングからキッチンまでは結構距離もあるし、それ以前にアパートの防音機能は中々のものな筈なのにだ。



「うん、耳はいい方だからね」



「ありがとう涼香!!やっぱり油揚げがなきゃそばって言えないね」



じゃあ俺が今まさに食おうとしている料理はそばじゃないと言うわけか。


俺は心の中でボソッと呟き、涼香は苦笑いを浮かべている。


いただきます、と手を合わせて丼ぶりのそばに添えてあった箸を持つ。


涼香と玖美も俺に合わせて、それぞれの丼ぶりに添えてある箸に手をつける。


ずるずるとそばをすする音が反響する。



(・・・美味いッ!!)



「凄い!!美味しい!!なんちゃらスペシャルに並ぶほど美味しいィ!!」



「大袈裟すぎだよ。でも・・・ありがとね」



俺は言葉には出さずそばの美味さに感動し、玖美は松坂スペシャルと並ぶほどと褒め称えている。


涼香も口では検挙を装っているが、その表情はさも当然と言わんばかりにドヤ顔をかましている。


俺は黙々とハイペースでそばを口へ運ぶ。


半分食べたころには、玖美がおかわりを求めて涼香を困らせていた。


涼香はまだほとんど手をつけていなかった自分のそばを、半分近く玖美の丼ぶりに移した。


大袈裟な感謝を述べ、なんの躊躇いもなくそばにがっつく玖美には毎度のことだが呆れてしまう。



「しかし、よくこの短時間で作れたな。しかもそばだけじゃなくてかき揚げまで作るヒマ・・・あ、無理だな。かき揚げとそば同時に十分で作れる筈がねェな。マジでどうやって作ったんだよ?」



「ふふ・・・それは秘密だよ。どんなお店だって隠し味は教えないのと同じだよ?」



「や、だから俺はどうしてこんな早く料理を作れるのか・・・いや、もういい」



どうせ何度聞いたところで答えは同じに決まっている。


涼香は魔法を使える、そういうことでいいじゃないか。


俺は自分にそう言い聞かせて、残り少ないそばを一気に食べる。


それを食べ終えると同時に、玖美も貰ったそばを食べ終えていた。



「ごちそうさん。美味かったよ、ありがとう」



「ごちそうさま、すっごい美味しかったよ涼香」



俺と玖美は合掌をし、涼香に礼と称賛をする。


相変わらずと言っていいほどに、涼香の料理は美味かった。


そこにさらに空腹感がプラスされているのだから、これ以上の至福はない。


空腹は最高のスパイスだとどこぞの偉い人が言ってたが、全くその通りだ。


涼香は照れ臭そうに目を逸らした。



「そんなに褒めてくれると凄い嬉しいよ。また近いうちに作ってあげるからね」



「・・・どうしてそこで頬を染める?」



なぜか赤く染めた頬に手を添えて、横目で俺のことをチラッチラッと見る涼香に問い掛ける。


『なんでもないよ』と相変わらずの返答が返ってくる。


『さいですか』とこちらも相変わらずの返事を返した。


再びなんとも言えない雰囲気の空気が流れ始めた。


涼香いつも変わらずのニコニコスマイル、玖美はそばでお腹も気持ちもすっきりしたのかうとうとと寝惚け眼になりつつある。


俺はただ無表情で時間が過ぎるのを待っていた。



「空野さーん?どこにいるんですかー?荷物運び終わりましたよー」



部屋の外から少しだけくぐもった男の声が聞こえた。


荷物運びがなんとかと言っている辺り、涼香の荷物を運んでいた引越し業者の方だろう。


涼香がその声を聞き慌てて立ち上がり、俺と玖美と玄関の方向を交互に見ながら右往左往している。


恐らくこのまま行ってしまってもいいのかどうか迷っているのだろうが、行った方がいいに決まっている。



「早く行って来いよ。待たせたら業者の人困らせちまうぞ?」



「うん・・・そうだよね。じゃあ私、もう行くね。また明日」



「ああ、また明日な」



「んむ・・・?涼香、もう行くの?」



「うん、もう行かなきゃ迷惑かけちゃうからね。それじゃあ、玖美さんもまたね」



涼香は名残惜しそうな表情でそう言って、早足にリビングを出て行った。


ドアを開ける音とともに、涼香と先程の男性の声がリビングまで聞こえる。



「・・・んじゃ、丼ぶり片付けっか。玖美はもう寝るか?」



「そうするよ、そば食べたら眠くなってきたし・・・」



「で、どこで寝るんだ?俺としては今日の朝みたいな展開は勘弁願いたいんだが」



「んー、じゃあ私はここで寝るね。願わくばお布団を持ってきてほしいなー?」



「あー、分かってるよ。俺だってなにも無しに寝ろって言うほど非情じゃないからな。丼ぶり洗う前に布団持ってくるから」



それを聞いて玖美は満足したのか、再びソファで横になった。


すぐに寝息が聞こえてきたと言うことは、早くも眠りに入ったということか。


やれやれ、と俺は溜息を吐いて三つの丼ぶりと箸をトレイに乗せてキッチンに向かった。



今年はこれで更新をストップさせます。

詳しくは活動報告の方を見て頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ