29 幼馴染のお引越し
その光景には驚いたが、俺は何故こんなにもトラックがあるのかなんとなく予感で分かる。
ここにあるトラックは全て、引越しのときに家具などを運ぶためのものであってクロ○コヤマト宅急便ではない。
そしてそのトラックがあると言うことは誰かがこのアパートに引越してくるということだ。
そして俺には誰が引越してくるのか、こちらは確実に分かる。
・・・流石に、なぜこんな多くのトラックが必要なのかは分からなかったが。
近所の住人や俺と同じくアパート住まいの人達がなんの騒ぎだと顔を出している。
「・・・・・・」
「ねえ秀輝。これってなにかのお祭り?」
俺は無言でトラックを眺め、玖美は改めておバカだと確認させられるなにかがずれた質問をする。
俺は無言のまま溜息を吐き、トラックとトラックの隙間を通り抜けながらアパートの階段に向かう。
玖美も突然歩き出した俺を慌てて追いかけて、ビクビクとトラックを見つめながら俺と同じように隙間を通り抜けついてくる。
業者の人と思われるムキムキの男性が慌ただしく階段を上り下りするのを邪魔しない様に、俺はできるだけ階段の端を歩く。
わざわざ律儀に挨拶をする玖美に頬を赤くしてナンパをする業者のクソ野郎には正義の鉄拳を喰らわせておく。
なんやかんやで俺の住む部屋のある三階に着いた。
同時に業者の人達が行き来を繰り返しているのもこの階だと分かり、俺の予想が九割九分九厘的中したことを裏付けた。
玖美を口説き落とそうとする業者のクソナンパ野郎二号に鉄則の跳び蹴りをかましつつ、俺は早足に自分の部屋に入ろうとする、が。
「あ、シュウちゃん。お帰りなさい」
背後から聞こえたその声に、俺はドアノブに手をかけようとした状態でピタリと止まる。
ギギギギィと錆びついた人形の首を無理矢理動かすように、俺はゆっくりと振り向いた。
俺達が丁度今上ってきた階段の踊り場に、案の定と言うべきか涼香がいた。
涼香はこちらに近づき、玖美のことをチラッと見てから俺に話しかける。
「今日はずいぶんと早いんだね。いつもは松坂さんのお店が閉じるまで働いてるって言ってたのに」
松坂さんのお店と言うのは、勿論松坂屋のことだ。
「ああ、今日はおっちゃんが働かなくてもいいって言ったからな。店にずっと居座るのも邪魔になるだろうに帰って来たんだ」
へえ~、と涼香は納得したように頷いたが、それっきりニコニコと笑みを浮かべるだけで喋らなくなった。
しかも笑っているのになぜか怖い。
重たい空気が場を支配する。
「・・で、なんでお前がまだここにいるんだ?あのトラックと関係あるよな?」
俺はその空気からいち早く脱出するべく、涼香に話を振る。
突っぱねたような口調ではなく、友好的な口調なのには特に意味はない。
あえて言うなら機嫌を損ねないように、だ。
そして今のは、質問ではなく有無の確かめだ。
涼香はニコニコした笑みを崩さず、どこか楽しそうに答えた。
「うん、そうだよ。学校から帰るときにここに引越すって言ったでしょ?もしかしてもう忘れちゃった?」
「いや、忘れちゃいないんだがな・・・いくらなんでも行動が早過ぎだろ。俺はてっきり一週間後とかそこらだと思ってた訳でだな・・・」
「ふふ・・・一週間も待ってたらシュウちゃんが玖美さんとどんな関係になっちゃうか目に見えて分かるんだから、悠長なことはしてられないの」
だからなんの心配をしてるんだよ。
そう突っ込んでやりたかったが、無意味なことはそれこそ目に見えて分かる。
さいですか、と俺は適当に返事を返して今度こそ部屋に入ろうとする。
「あ、シュウちゃん。まだ引越しが終わってないからシュウちゃんのお部屋にお邪魔してもいい?」
修羅場の予感がする。
平穏な生活とは今日でお別れな気がした。




