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23 女と女のぶつかり合い

「秀輝~、早くご飯作ってよ~。もうお腹ぺこぺこ・・・」



玖美はアパートの鉄柵から身を乗り出して、道のド真ん中に突っ立っている俺に声をかける。


しかし、俺は動けなかった。


背後から放たれる殺気とも狂気ともとれる負のオーラに当てられ、体中の筋肉が恐縮してしまっているからだ。


喉元に刃物を押しつけられ、心臓を鷲掴みにされ、今にも握りつぶされそうな感覚さえ覚える。


以前にも一度、一度だけ似たような体験をした。


思い出したくもない、小学生のときだ。


特別仲の良かった女子と遊んでいるとき、ふざけて背中から抱きついた直後、気が狂いそうになるほどのオーラを感じて一瞬で意識が飛んだからだ。


その時は、防衛本能が働いた・・・のだと思う。


しかし、今回はそうは行かなかった。


あのときより一層強くなったオーラは、気絶することさえ許さない。



「シュウちゃんシュウちゃんシュウちゃんシュウちゃんシュウちゃんシュウちゃんシュウちゃんシュウちゃん」



怖ェェェええええええッ!!


助けて!!俺をここから連れ出してくれー!!


真っ青になり、汗をダラダラ流して必死に声を出そうとするが、口元がひくつくだけでやはり声は出ない。


しかし、声はなくとも玖美には俺の様子がおかしいことに気付いたようだ。


玖美は首をかしげながらさらに身を乗り出し、そのまま、飛び降りた。



「ばッ・・・!?」



いきなりの出来事に、俺はかすれた声を漏らしただけで、動くことができなかった。


俺の体を縛っていたオーラも、いつの間にか消えていた。


視界の端に見えた涼香の表情は、驚愕に染まっていた。


俺の部屋はアパートの三階に存在する。


そして、玖美はそこから、三階の高さから躊躇なく飛び降りたのだ。


ヘタをすれば骨折、しなくても足首を強く痛めるだろう・・・最悪、死ぬかもしれない。


だが。


ふわりと。


玖美は、まるで羽毛が舞い落ちるように、静かに着地した。


スーパースローカメラで撮られた映像を見ているようだった。


天使が舞い降りる瞬間、とも錯覚しそうだった。


トンッ、と。


玖美の鳴らした足音が、俺を現実へと引き戻した。



「どうしたの、秀輝?ポカンとしちゃって。そんなことより早くご飯作ってよ~」



「あ、ああ、そうだな。ちょっと待ってろ、すぐ作ってくるから・・・って、そうじゃねェェえええ!!お前なんで三階から飛び降りてんだよ!!自殺希望者かお前はッ!?」



「え~、だって階段降りるのメンドクサかったんだもん」



「メンドクサかったってお前・・・。くそっ、心配かけやがって・・・」



「しゅしゅしゅシュウちゃん、そその子だだ誰?ななっなんで三階から飛び降りて平気なの!?」



「・・・・・・あー・・・」



今度こそ、マズイ。


先程のようにヒステリーは起こしていないものの、この流れでは誤魔化しようがない。


それに、先程の玖美の行動についてもどう説明すればいいものか。


この状況、どうやって切り抜けるんだ、俺・・・。


不意に、俺はさわやかな笑顔を浮かべ、涼香を見つめる。


戸惑いながらも、なぜか顔を赤める涼香に向かって俺はこう嘘を吐いた。



「従妹ですぅぐぼぉ」


直後、急接近した涼香に殴られた。


殴り飛ばされながら、俺は思った。


やっぱばれたか、いや当たり前だ。


ドゴッ!!と音を立てて、俺は地面に倒れる。



「シュウちゃんの家系にそんな金髪の子がいる筈ない。本当のこと言って、なんで嘘ついたの?」



「痛つ・・・。ったく、ただの居候みたいなもんだよ。訳あって匿ってるんだ。・・・でも、幾らなんでも殴るこたあねえだろ」



「ごめんね、やっぱ痛かったよね・・・。でも私、隠し事されるのが大っ嫌いだから・・・」



シュウちゃんのことに限ってだけどね、と聞こえたが気の所為にしておく。


しかし、まあ。


涼香の言うとおり、隠し事をされて快く思う人なんていないだろう。


だが、今は事情が違う。


玖美は妖怪で、『奴ら』という謎の人物、または組織に追われている。


そんなこと、バカ正直に言える筈がない。


それ以前に、信じてくれる筈がないだろう。


だから誰かに言うことはできなかったし、言いたくなかった。


決して嘘は吐かず、かと言ってはっきりとしない曖昧な答え方で俺は答える。


恐らく、涼香はもっと詳しいことを知りたがると俺は思った。


しかし、涼香は俺の予想とは全く違うところに突っ込んだ。



「で、でもそれじゃあ、シュウちゃんはその人とその、ふふふ二人暮らしってことになるんじゃ・・・」



「え?まあ・・・そうなるな」



「いいいけないよシュウちゃん!!シュウちゃんは男の子なんだから!!誘惑に負けてシュウちゃんがその人と一夜を共に過ごすことになりでもしたら・・・!!」



「いや、なんの心配してんだお前は・・・。そんな展開流石にありえねえから」



俺は言うが、涼香は聞く耳を持たない。


自分だけの世界に入って独りでボソボソと呟いている。


なにを言ってるのか聞こえないが、なんて言ってるのか聞きたくもない。


時々顔を真っ赤にして鼻息を荒くしている時点で、ろくなことを考えていないのは明白だ。


涼香はしばらくプルプルと肩を震わせてから、バッ!!と顔をあげて突然叫んだ。



「決めた!!私、ここに住む!!そうすればシュウちゃんがその人と特別な関係になることを阻止できる!!」



「・・・は?え、このアパートに住むつもりなの?」



「うん!確かシュウちゃんのお隣の部屋空いてたよね?そこならシュウちゃんにいつでも会えるし、監視もできる!!」



「ちょっと涼香さ~ん?いきなり過ぎて話について行けないし、なにやら不穏な言葉が聞こえた気がするんですが?」



俺は言ったが、やはり涼香は聞く耳を持たないようだ。


涼香は無意味なほどにテンションを上げて、玖美に指をさして尋ねた。



「そこの貴女!!お名前は?」



それまでポカーンとしていた玖美は、突然のご指名で慌てふためいた。


あわわあわわ、としばらく騒いだ後、呼吸を整えてから答える。



「私の名前は玉藻玖美だよ。貴女の名前は?他人に名前を聞いたのなら、自分も名乗るのが礼儀でしょ?」



「玖美さん、ね。私は空野涼香です。以後、宜しくお願いしますね」



その瞬間、二人の視線の間から火花が散った・・・ように見えた。


俺は、再びオーラが発せられるのを感じた。


しかしそれは、先程の涼香の負のオーラではなく、もっと、なんと言うか、熱いものだった。


青春物のマンガで、主人公とそのライバルがぶつかり合う瞬間のような。


バチバチィ!!と視線が互いにぶつかりあう幻聴さえ聞こえそうだ。


そんなある意味緊迫した空気の中、涼香がなにかを思い出したかのように顔を上げた。



「そうだ、シュウちゃん。バイト、行かなくても大丈夫なの?」



それを聞いて、俺はあることを思った。


・・・間に合うかな。

やっぱいいタイトルが思いつきません。

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