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19 恐怖と怒り、奴らと故郷

「妖怪・・・?」



天月の言葉に俺は耳を疑った。


あいつが、天月が・・・妖怪だって?


正直なところ、信じられない話だった。


俺の通っている学校に妖怪の生徒がいただなんて信じたくもない。



「いや、でもお前・・・まんま人間じゃねーか」



少しだけ震える指で天月を指して俺は言う。


その姿には妖怪らしいところは見当たらない、人間そのものだ。


天狗っていうのなら翼の一つや二つ生えていたっておかしくないだろうし、鼻だって普通の人間よりも長いと思う。


しかし天月はバカを見るかのような目で、トゲを含んだ言い方で答えた。



「姿形については隣の玉藻さんを見れば良く分かると思いますが?」



俺は横目でチラッと玖美を見た。


元々生えていた9本のしっぽは綺麗に消えて、金色の耳は髪の毛となって跡形もなくなっている。


その姿は(金髪のせいで日本人のようとは言い難いが)人間そのものだ。


ちょっとメンドウだが妖怪が人間になるのも不可能ではないと玖美が言っていたのを思い出した。


天月が人間と全く同じ姿なのにも納得がいった。


しかし、なんで妖怪である天月がここにいるのか、その理由について何か引っかかる。



「奴らってのは・・・何なんだよ?またお前らとは別の妖怪で、揉め事でもあったのか?」



俺は天月、そして玖美の二人に聞いた。


返ってくる答えは、うっすらとだが何となく分かった。


事態はそんな軽いものじゃないと、直感が告げる。


二人はそれぞれ別の表情を浮かべた。


玖美は、顔を青くしながら伏せて、足を震わせて始めた。


必死に隠そうとしているが、自然と浮かび上がってきたそれは『恐怖』だった。


天月は、目を吊り上げて口をゆがめ、拳を固く強く握っていた。


隠そうともせず、剥き出しにされた『怒り』は、周りにいる者までも震えあがらせるほど、大きなものだった。


現に、俺は天月の『怒り』を感じて怖いと思っていた。


二人の傷口をえぐってしまったことに気付いた俺は謝ろうとしたが、その前に天月が声を震わせながら答えた。



「奴らが何者なのかは、本当に分かりませんが・・・妖怪ではなかった。妖気を感じませんでしたから。しかし、恐ろしい程の力を感じた。考えられるのは、人間でしょう・・・それも化け物じみた人間・・・!!」



「奴らは・・・突然私の故郷にやってきたの。そして全てを壊していった・・・。抵抗する者は全て殺されて、逃げる者は生け捕りにされた・・・。私は、お父さんとお母さんが囮になってくれたおかげで逃げることができたけど・・・他の皆は、もう・・・!!」



玖美は、声を殺して泣き崩れた。


それは、どれだけ辛いことだろうか。


平和だった故郷に、突然人間が現れて全てを壊していく。


家族も、友達も、親戚も、家も、故郷も、全てを・・・。


それは、俺のような平和の中で生きるただの高校生では想像できない痛み、苦しみ、恐怖、怒りだろう。



「僕は、ここで奴らについて調べている。そして、復讐するチャンスをうかがっているんです。それに高校生として学校に通っていれば、奴らも早々手を出せないでしょうから。流石に奴らも事を公にはしたくないんでしょう」



俺は、言葉を失っていた。


そんな酷い事が起きているなんて、知らなかった。


玖美は、そんなにも辛い目に遭っていただなんて。


初めて玖美に会ったとき、玖美は必死に逃げてきたところだったのだろう。


その途中で傷を負い、走れなくなって助けを求めていたのか。



「・・・俺に、なにか手伝えることはないか?」



思わず、口走ってしまった。


しかし、ここまで聞いて何もしないのは心残りだった。


なにか手伝いたい、なんでも良いから力になりたい。


すると、自然と二人の極端な感情が落ちついていくのが分かった。



「・・・そう、ですね。なら彼女を守ってあげてください」



天月はそういうと玖美を見た。


当の玖美はいつの間にか復帰して、首をかしげている。



「彼女は、まだ未熟です。戦えるほどの力をまだ持っていません。かといって貴方もただの人間、未熟な妖怪よりもずっと弱い。この件に深く関わろうとはしないでください。玉藻さんを、匿ってあげるだけで良い」



「ちょ、ちょっと!私は戦えるよ!?私だって故郷の皆の為に戦うのに、なに勝手に決めてるの!!」



「・・・そうか。分かった玖美は俺が守る。そっちもとっととケリつけろよ」



「だから!なに勝手に決めてるのよ!私はちゃんと戦えるし、秀輝なんかに守られるほど弱くないよ!?むしろ私が秀輝を守るよ!!」



玖美のそのバカ元気さに、俺と天月は共に笑っていた。


こんな毎日がずっと続けばな、と俺はひっそりと思った。

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