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17 バカとゴリラと救いの手

瞬間、反射的に後ろに振り返り逃げる体勢に入った。


しかし時すでに遅し。



「―――徳野」



「・・・はい」



「ちょっとこっち来い」



「・・・・・・・・・・・・はい」



大山直々の指名が下ったため、俺は逃げることができず今にも倒れそうな顔でフラフラと前に出た。


目の前にできていた人混みはズザァ!!と横にずれ、少し狭いが十分に通れる道ができる。


道の真ん中をトボトボと歩きながら周りから聞こえる会話に耳を傾ける。



「おい、誰だアイツ・・・」



「さあ・・・?けど、終わったな・・・」



「アイツ・・・死ぬのか・・・?」



「誰だか知らないけど君のことは忘れないわ・・・」



ざわざわひそひそ。


聞かなければ良かったと後悔するがもう遅い。


一層絶望に満ちた表情を浮かべる俺は逃げ出したという気持ちを必死に抑えて大山の目の前に立つ。


しかし顔を合わせられない、めっちゃ気まずい。


隣にはアパートに居たときと全く同じ格好の(即ち男物のTシャツと男物の新品のパンツ)の玖美が立っている。


一体全体どうやったのか、大きな耳とモフモフした9本のしっぽは綺麗に無くなっている。


何も知らない人が見れば、ただの可愛い人間の女の子に見えるだろう。


しかしその格好はただの変態である。


めちゃくちゃ可愛い金髪巨乳の女の子という情報は正確に伝わっていたようだが変態じみた格好というのはしっかりと伝わらなかったようだ。


キラキラと目を輝かせる玖美はあまりにも場違いだ。


どんよりとした空気の中、大山が尋ねた。



「徳野、こいつはお前の知り合いか?」



「いいえ全く赤の他人で・・・すみません、そうです知り合いです」



知りませんと答えかけたが言葉を呑みこんで、正直に答える。


ここで嘘をついても何の得もない。


しかし、こんな変態じみた格好をした知り合いがいるなんて思われたくない。


少しの間をおいて大山は再び尋ねる。



「なんでお前の知り合いが学校に居るんだ?正直に答えろ」



「え、えーと・・・あの・・・」



分かるわけがない。


分かるわけがないことを言えるわけがない。


言葉に詰まってまともに返答できない。


ただ興味本位で来ただけなのだろうが、そんなこと正直に言っても納得してもらえないのは目に見えている。


俺は助けを求めて玖美をチラッと見る。



「ほー、ここが学校ってやつなのかー・・・。結構広そうだけどなんか落ちつかないかも・・・」



こんなやつに期待した俺が馬鹿だったよ。


なんだその感想は、落ちつかないのはお前のテンションの所為だ。


色々と突っ込みたいのはやまやまだったが、今はそんな状況じゃないしそんな元気もとうに尽きた。


反対に玖美はきょろきょろと玄関の隅々まで眺めている。


今にも学校の中に飛んでいきそうなテンション、その元気はどこから湧いているのか。



「・・・早く言え。俺にも時間というものがあって忙しいんだ」



流石に大山も苛立ってきたのか、催促し始める。


しかしやはり俺は生返事しかできない。


大山の怒りのボルテージは少しずつ、しかし確実に溜まって行く。


どうすればいい、考えるんだ俺。


ふと、玖美が口を開いた。



「ねえ、秀輝。このゴリラみたいなおっさんはほっといて学校の案内してよ」



・・・バギィィッ!!


何かが砕ける音がして、俺は瞬間的に青ざめる。


大山の方から謎の鬼のオーラを感じる。


これは、命が危ない・・・!!


すぐ玖美を連れて逃げ出したいが足が震えて全く動かない。


玖美は俺の突然の反応が理解できず、ただ首をかしげるだけだ。


これが、怪物と呼ばれる所以か・・・!!


さようなら皆、短い人生だったけど楽しかったよ・・・あれ、デジャブ?



「待ってください」



緊迫した空気に突然割り込んだ声。


大山は鼻息を荒くして、俺は恐る恐る振り返る。


そこには一人の男が立っていた。



「・・・何の真似だ天月ィ」



マンガかゲームに出てくる悪党のボスみたいなセリフを吐く大山。


そしてゲームかマンガの主人公みたいに堂々と歩きだす天月。


なぜこのタイミングでこいつが出てきたのか分からないが、とにかくありがたい。


おかげで大山のターゲットは俺と玖美から天月へと移り変わった。



「はい、そこで突っ立っている徳野さんと彼女のことですが・・・」



天月は俺をチラッと見る。


その目はどこか敵意が混じっているような気がした。


そして次は玖美を見た。


どことなく疑問と尊敬の気持ちのこもった目に見えた。


最後に大山を見た。


何の感情もない冷たい目だった。



「先生は忙しいことでしょうし、僕が彼女たちの話を聞いておきます。どうでしょうか?」



「・・・はあ?・・・ふむ」



突然の申し出に大山は驚いただろう。


人と関わろうともしない天月が自ら面倒事に首を突っ込もうとしているんだ。


普段の彼を知ってる者なら誰だって驚くだろう。


大山は少し考えるそぶりを見せて答えた。



「まあ・・・お前なら良いだろう。後は任せるぞ」



流石優等生、先生からの信頼も厚いようだ。


天月はどこかに去っていく大山の背にお辞儀をして再びこちらを見据える。



「・・・ついてきてください」



天月はこちらから視線を外して、音も立てずに歩きだす。


どこか腹の立つ野郎だが、今回は助かった。


俺は渋々と、しかし意気揚々と後に続く。


玖美も俺の後に続く形でついて行く。


その時見せた玖美の困惑した、そして警戒した表情には俺は気付かなかった。

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