14 嫉妬と敵意と憧れの的
「・・・ちゃん。・・・シュウちゃん!起きてもうお昼だよ!」
俺を呼ぶ声が聞こえ、誰かが肩をゆすっているのに気付いた。
どうやら俺の安息の時間は終わってしまったようだ。
重い瞼をゆっくりと開く。
ちょっとした日差しでさえ、寝起きの俺には眩しい。
「・・・あー、もう昼か」
俺は呟きながら肩をゆすっていた誰かをチラッと見る。
案の定、涼香だった。
「涼香か・・・なんか用でもあんのか?」
「あ、その・・・シュウちゃん、今日すっごい急いで教室に入ってきたから・・・もしかしたらお弁当つくってないんじゃないかなーって・・・?」
「・・・何故分かった」
涼香の洞察力は凄まじい、いつも驚かされる。
こいつは案外、探偵に向いてるかもしれないな。
とにかく、涼香の言うとおり今日は弁当をつくっていない。
というかつくれなかった。
全てはあの九尾が原因である。
「そ、そうだよね!私、シュウちゃんの分のお弁当も持ってきてるから食べ・・・あれ?」
涼香が自分のバックから二つの弁当を出してるうちにダダダダッ!!と教室から逃げ出す。
涼香のつくる弁当は確かに美味い、おかずのレパートリーもかなり広い。
だが欠点が一つだけあるんだ・・・ご飯の上に必ずデカデカとハートマークが書かれている、はたから見れば愛妻弁当に見えなくもない。
おかげで弁当の中身を見た奴らはウザったい口笛を吹いてバカにして来るし、今にも呪い殺して来そうなぐらいの殺気をこめた目でにらんでくる奴まで居やがる。
「ああ・・・今日はパンか」
教室から十分離れた俺は誰にも聞こえないように呟いて、購買に向かう。
しかしパンはもうほとんど残ってないだろう。
どこの学校でも購買でのパン争奪戦は激しいもんだと思う。
「あるとしてもせいぜいコッペパンだろうな、らららコッペパンらららコッペパン・・・っと」
ぼやきながら歩いていたら廊下で誰かにぶつかった。
顔は見えなかったが制服からして男子生徒だ。
「悪い、前見てなかった・・・」
俺は謝りながら相手を見て、ゲッと声がもれる。
男子にしては長い黒髪とシミ一つない黒の制服。
そして獲物を狙う鷹のように鋭い視線に思わず顔をしかめてしまう。
こいつの名前は『天月 鴉鷹』・・・だったと思う。
1年生にして校内トップの学力を持ち、スポーツにおいても天月の右に出る者は居ない。
さらにかなりの美貌の持ち主で、学年を問わず女子にモテモテ、女子にとって憧れの的であり男子にとっては嫉妬と敵意の的である。
さらにさらに嫌な奴でもある、一部の女子はそれがクールでかっこいいというらしいがどこがクールなのか全く分からない。
そんな奴が目の前に居て、さらにぶつかってしまったと来たわけだ。
女なら歓声をあげているかもだが、男なら誰だって顔をしかめるだろ。
しかし、
「・・・この匂いは」
天月は俺に文句を言うことはなく、あろうことか俺の首元に鼻を当てて匂いを嗅ぎ始めた。
あまりにもいきなりのことで俺は全く動けなかった。
俺だけではなく、回りを歩いていた生徒は皆足を止めて俺と天月を交互に見ている。
そしてある考えが頭をよぎる。
天月の今の体勢・・・周りから見たら俺の首に"キス"をしているように見えるのかも。
「なな・・・何しやがるッ!!」
俺は天月を突き飛ばそうと腕を振りまわしたが音も立てずに後ろに下がりあっさりとかわされる。
顔を真っ赤にして天月をにらみつけたが、全く動じることはなく何かを考える仕草を見せる。
何度か一人で呟いた後に顔をあげて言った。
「すまない。失礼する」
それだけ言うと天月は歩く向きを変えて早足で去っていった。
姿が見えなくなっても俺はしばらく動かなかったが、二十秒程経ってから俺は呟いた。
「何だったんだよ・・・いきなり・・・」
その後もしばらくブツブツ文句を言ってから再び購買へと向かった。
俺が去ったあと、廊下から女子の悲鳴と悲鳴に交じって歓声が聞こえたが何も聞かなかったことにした。
タイトルって考えるの難しいね(´・ω・`)




