10 九尾の名前は・・・
「・・・で、誰だお前」
俺は未だにもぞもぞと動き続ける布団に向かって声をかける。
服を着るのに(十中八九シャツだろうが)苦戦しているのか、時々うめき声が聞こえる。
うめき声は聞こえるのに肝心の返事は帰って来ない。
「・・・聞いてんのか?」
「え、なに・・・きゃ!」
無茶な姿勢から振り向こうとしたのか、彼女は布団に包まれながらベッドから転がり落ちる。
必死に出ようとしているのか、ばたばたと暴れだすが出て来れない。
やっとの思いで出てきたのは耳の生えた頭上だけだ。
あまりにも間抜けなその姿を見て俺はポツリと呟く。
「・・・おバカキャラ?」
「おバカって言うなー!」
喚きながら這いつくばる様に布団から出て来やがった。
しかしお尻から生えた尻尾がまだ布団と絡まっていることに気付き、尻尾を引っ張ったが布団が固定されてるわけもなく尻尾に布団を絡めたまま尻餅をつく。
激しくピクピクと動く耳は憤りの表れなのか。
とにかく言えることは、こいつは正真正銘のバカだ。
産まれてからずっとバカバカと言われた奴でもこいつには敵うまい。
取り敢えず俺は最初に問い掛けたことを再び聞く。
「だから、お前は誰だよって」
「え、私?私は『玉藻 玖美』。宜しくね」
「そうか、俺は徳野秀輝だ。宜しく・・・いやいや、名前じゃなくてだな」
「秀輝・・・秀輝、うん分かったよ秀輝。それで早速で悪いんだけどお腹が減ってきて――」
「だから話を聞け―――!!」
思わず感情の赴くままに叫んでしまった。
しかし玖尾に驚いた様子はなく、むしろ話を遮られたことについて不満を言いたそうだ。
いやいや、文句が言いてえのは俺の方だよ?
「俺が言いたいのはだな、お前が俺の連れてきた九尾なのかどうなのか。それについてはどうなんだ?」
「あ、うん。そーだよ。証拠にほら」
「・・・うん、まあ、ああ。確かに九尾で間違いなさそう」
玖尾が見せたのは自分の右足のふくらはぎ辺りだ。
そこには俺の巻いた包帯が確かにあった。
血が少し滲んで来ているあたり、そろそろ取り替えなきゃなー、なんて思っていたり。
「うん・・・それともう一つ聞きたい事があるけど、お前はマジで九尾で妖怪なのか?」
「それについても間違いなくそうだよ。この尻尾と耳を見たらすぐ分かると思うんだけど?あと玖尾って名前で呼んでよね?」
そう言いながら玖尾は自分の尻尾をゆっくりと振り廻し、大きな耳を指でなぞっている。
玖尾の言うとおり、尻尾を見ただけでもう妖怪としか思えなかったのは確かだ。
それでもやっぱちゃんと確認しなきゃ信じがたいこともある。
「それでね、私は助けてもらったことに対する感謝の気持ちとしばらくお世話になるから宜しくって気持ちを伝えにここに来たんだけど・・・もうグッスリ寝てたから起こすのも悪いかなって思って私も寝ることにしたんだけどね。朝起きたら気付かない間に人間に化けてるし秀輝が驚きのあまり石化しそうだったしで私の心境は大変だったんだよー?」
「・・・さいですか」
何で俺のベッドに来て寝てたのか聞きたかったが、玖尾があっさりと喋っていた。
しかしこの九尾、やけにお喋りだ。
おバカキャラに加えて、お喋りキャラなのか?
妖怪ってのはこんなにもお喋りなもんなのか?
それも含めて、聞きたいことは色々とあるが、
「まあ、玖尾には色々と聞きたい事が山ほどあるわけだが・・・どうやらもう時間がないようだ」
それを聞いた玖尾は首をかしげた。
「どうして?」
「・・・そろそろ行かなきゃマジで遅刻する」
俺はゆっくりと視線を時計へと移す。
今日は月曜日だ。
・・・そろそろ校門が閉まる時間になる。
キーボード復活キタ━(゜∀゜)━!!




