表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/14

ナーナごはん

ナーナと一緒に朝ごはん。

お散歩の相談もしないとね。

そんなお話。

 我が家には、狼が住んでいる。

 名前はナーナ。


 とは言うものの。

 本来の言い回しとしては、たぶん『我が家では狼を飼っている』とかのほうが正しいんだろう。でもナーナとの暮らしはどうにも『飼っている』という表現だけでは語れないことも多いので、そのように表現することには若干の抵抗を感じている。だから自然と、こういう言い回しになってしまう。我が家には、狼が住んでいる。

 これはよく、考えごとの種になる。ナーナはペットか、それとも家族か。

 ペットのことを家族と呼ぶ人も居るけれど、ああいう感覚ともたぶん違う。あれはまず『うちの子はペットである』という大前提があって、そのうえで敢えて『家族』と呼ぶという、しっかりとした順序があるものだと思う。違ってたらごめんなさい。

 ともあれ。うちのナーナに関してはそういう感覚とは違って、単純にどっちだか分からないのだ。狼のようでもあるし人間のようでもあるから、ペットと呼ぶべきか家族と呼ぶべきかが分からない。ただちに確定的なことを判断するのは、極めて難しいと言わざるをえない。


 などと今日もぐるぐると考えつつ、まあそうは言ってもどちらかと言えばそりゃ家族だよなあ、という方向に思考を傾けながら朝ごはんの用意をしている。

 でも次の瞬間、お皿に流しこむドッグフードのジャラジャラという音を聞きつけてすっ飛んでくるナーナを見て、やっぱりペットかも知れないという方向に思考が揺らぐ。うーん、まっしぐら。今の今までテレビの教育番組の体操を真似っこするのに夢中になっていたというのに。

 結局こうやって色々と考えはするものの、ばたばたと暮らしているうちに『まあいいか』となる。そんな毎日。


「ぎゅうにゅう! ぎゅうにゅうのやつにして!」

「はいはい、牛乳のやつね」


 お皿のドッグフードに、先に冷蔵庫から出して常温にしておいた牛乳を注ぐ。ナーナは目をキラキラさせながらそれを見守る。

 牛乳を注いだことで、ドッグフードはちょうど人間が食べるシリアル食品のような見た目になった。これがいわゆる『牛乳のやつ』で、ナーナの好物のひとつ。

 この子はあくまでも狼で、犬扱いされると怒る子なのだけど、色々と調べてみたところ健康管理の目的で狼にドッグフードを食べさせることはよくあるらしい。動物園の話だけど。

 まあ、それを参考にしてうちでも食べさせてみたら、普通に気に入ってくれた。

 ただ、この食べものがドッグフードという名前であるという事実は一応伏せてある。

 スプーンを握りしめてテーブルでそわそわしているナーナの前に『牛乳のやつ』を置き、私も同じように自分用のコーンフレークに牛乳を注いでテーブルに置いた。

 これが今日の朝ごはん。


「いただきます」

「いただきまーす!!」


 器用にと言うべきか不器用にと言うべきか、スプーンをグーで握ったまま食事をするナーナ。どう見ても食べづらそうだけど、本人は満足げに一口一口頷きながら食べているのでよしとする。

 味や食感が好みなのもあるとは思うけど、それ以上に道具スプーンを使って食事をしたり、私が同じものを食べていたりすることがナーナ的に満足度が高いらしい。楽しそうで何より。


「おいしいねー」

「ふふふ、ねー」


 まあ、あまりしょっちゅう食べさせるとお腹を壊すので『牛乳のやつ』の頻度は適宜になるけれど。


「きょうはおやすみのひ?」

「そう、お休みの日」

「やったー!! おさんぽいく!?」

「行く行く」

「もうスカートはく!?」

「ご飯が終わってからでいいよ」

「はーい!!」


 興奮して立ち上がりスカートを取りに走ろうとしたナーナを座らせて、ご飯の続き。

 この子は狼だからかどうにも服を着るのが嫌いで、すっぽんぽんのほうが落ち着くという難儀な性格をしている。しかしそれでは私が目のやり場に困るので、家のなかではどうにかこうにかワイシャツ一枚を着させることで対策している。でもお散歩、すなわち外出となればワイシャツ一枚でも困る。だって下は丸出しなのだから。

 下の毛がとても濃い子なので目を逸らしていれば黒いぱんつに見えないこともないけれど、たとえ黒いぱんつだとしても、そんな格好で外出させる訳にはいかない。色々とアウトだ。だからお散歩の際は黒いロングスカートを穿かせている。

 初めてスカートを穿かせた時は、意外にもワイシャツを着させた時ほどの苦戦はなかった。ナーナとしても『お散歩に行ける』というリターンはスカートを穿いてでも享受したいものなのだろう。最近では自分から穿いてくれるようになった。締め付けの問題なのか、ぱんつはどう頑張っても無理だったけど。


 散歩と聞いてスカートを穿こうとするナーナは、まるで自分からリード(お散歩用のひも)を咥えてきて散歩に備える犬のようだと思ったりもする。尻尾もぶんぶん振ってるし。

 でもまあ、人間のようだとか犬もとい狼のようだとか、結局は考えるだけ野暮なことなのかも知れない。ナーナはナーナだ。人間のようでもあり、狼のようでもある。ペットのようでもあり、家族のようでもある。全部持っているのがナーナなのだ。

 結局こうして今日も『まあいいか』に着地する。


「お散歩はどこに行きたい?」

「えっとねー、こうえんとーおにくやさんとー」

「お肉屋さんか。それじゃ、ジャーキーも買わなきゃね」

「いいの?」

「いいよ」

「やったー!!」


 また立ち上がって小躍りを始めたナーナを座らせる。やれやれ。

 我が家は特に裕福という訳ではないし、一人暮らしをしていた頃に比べて稼ぎが増えた訳でもない。なんならナーナがうちに来てからは出費は確実に増えているはずなのに、不思議と生活には余裕が生まれた。ナーナのおやつも全然買える。

 一人扶持は食えないが二人扶持は食える、という言葉がある。今の生活はまさにそれ。

 うーん。

 私たちの場合は『二人』なのか、それとも『一人と一匹』なのか。どっちなんだろう。


 まあ、いいか。

登場人物紹介


ナーナ:

 狼。

 お散歩大好き。

 牛乳もビーフジャーキーも大好き。


飼い主:

 人間。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ