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ムームぐらし

ムームって普段はどんな暮らしをしてるんでしょう。

公園のハトを捕まえて食べたりするだけで足ります?

 うちの近所には、野良の狼が居る。

 名前はムーム。


 野良の狼。

 よく考えたら物騒な話だな、と思う。

 いや、よく考えなくても普通に物騒だ。


 我が家に狼が住んでいる話や、ソファの下に不審者が潜んでいる話なんかの比ではない。家のなかで完結する話とは事情が違う。

 まあ言うて、うちの狼は身体が大きくて力が強いだけで子供みたいなもの。不審者も不審なだけで特に害があるわけでもなく、不審であるという点さえ気にしなければただの『者』だと言える。うーん、慣れって怖い。

 対して、ムームは『本当に食べものに困ったら人間を食べればいい』と明言しているうえ基本的には屋外で活動していて、その行動範囲がどれくらいのものなのかはよくわかっていない。

 こんな事実が知れ渡ったら、町中がパニックになるだろう。正義感のつよい方々による駆除隊が結成されてもおかしくない。

 とは言え。

 これでも地域のニュースにはアンテナを張っているほうだけど、そういった事態に繋がるような情報は入ってきていない。ムームが人間を食べたという話はもちろん、正体不明の野生動物による被害の話も、それに対抗する駆除隊が結成されたというような話も今のところは聞こえてこない。

 まあムームは普段から人間に紛れて行動したりしているようなので、それがうまくいっているということなのかもしれない。人間を食べる覚悟があるとはいっても、それはムームが言うように本当に切羽詰まった場合の話。そうでもなければ可能な限り目立つ行動はしないのが得策だ。どうにも『野良』と聞くとワイルドで攻撃的なイメージが先行するけれど、余程のことがない限りムームが人間に危害を加えることはほぼないと考えてもいいんじゃないだろうか。

 まあ、私はムームに指を一本噛みちぎられてるんだけど。あれに関しては『余程のこと』があったとカウントすべきだろう。


 ちなみに、我が家に住んでいるほうの狼さんに人間を食べたことがあるかどうか聞いてみたところ『なーい』とのご回答を頂いた。まあそうだろうなとは思ったけど、なんとなくホッとした。

 そんなことより、狼さんは手持ちのボーロちゃんを数えるのに夢中だったようで、私が話しかけたことで数が分からなくなったといってぷんすこと怒られてしまった。

 お忙しいところ失礼しました。

 以後、気をつけます。


 ところで。


 最近、この近辺には『ムーちゃん』と呼ばれている謎の女性が出没する。

 色白で、赤い瞳をしていて、コートのフードを目深に被っている長身の女性なのだそうだ。

 本名は不明でどこに住んでいるのかもよくわかっておらず、昼夜を問わず広範囲に渡って色々な場所に現れては近所の人たちに目撃されている。

 一人暮らしの高齢者の家を覗いては話し相手になってあげたり、お遣いを代行したり、公園で喧嘩している子供の仲裁をしたり、重たい荷物を運ぶのを手伝ってくれたり、不審者をぶん殴って撃退したりしている姿が目撃されている。最後のやつは撃退された不審者本人から聞いた。なぜか嬉しそうだった。

 さておき。

 近所のおばちゃんが『ムーちゃん、これ食べな』といってお菓子を渡したりしても、お礼は言うものの自分では食べずにそのへんの子供に配ったりしているという。

 とりあえず、そのおばちゃんにはイチゴやリンゴなどの『ムーちゃんが好きそうな果物』を教えておいた。少しでも、ムーちゃんが食べものに困らない環境を整えてあげることが大切な気がしたので。


 ああ、居るよねぇ。

 近隣住民みんなで飼ってるみたいになってる野良犬。狼だけど。

登場人物紹介


ムーム:

 狼。

 怖そうだけど優しい子。

 意外と、地域のみなさんには可愛がられているのかも知れない。


おばちゃん:

 人間。

 近所に住んでいる噂話が好きなおばちゃん。


飼い主:

 人間。

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