『創造と創造の創造で創造〜創造しちゃった〜』
神界中央創造局、第3クリエイティブ・オフィス。
そこは、数多の宇宙の命運を握るトップエリートたちが集う、張り詰めた静寂の空間である。
「よし、これで提出だ。……おはようございます!」
作業を終えた一人の青年が、ガタッと椅子を引いて立ち上がった。
太い眉、獲物を射抜くような力強い目力。仕立ての良いスーツの上からでもわかる、無駄に筋肉質な胸板。彼は額の汗を爽やかに拭い、同僚たちに眩しい笑顔を向けた。
彼の名はソウゾウ。創造陣営が誇る、若き天才クリエイターである。
「おい見ろよ、ソウゾウがまた『通常世界』を一つ完成させたぞ」
「完璧だ……。スキャンエラーは驚異のゼロ。どこにでもあり、誰もが安心して暮らせる平穏な地球型惑星だ。これなら監視グループの冷徹な査察官どもも、ケチのつけようがない」
周囲の神々がため息をもらす中、ソウゾウは「いえ、当然の職務を果たしたまでです!」と爽やかに一礼し、オフィスを後にする……風を装った。
深夜。
誰もいなくなった暗黒のオフィスに、引き締まった足音が響く。
ソウゾウだ。
彼は爽やかな笑顔を完全に消し去り、劇画調の深い陰影を顔に刻み込んでいた。机に向かい、眼鏡をクイッと指で押し上げる。その瞳には、昼間のエリート青年からは想像もつかない、ドロリとした狂気の情熱が宿っていた。
「ふん……。誰もが安心して暮らせる平穏な世界、だと? 老害どもめ、あんな退屈な世界、反吐が出る……。あれはただの『提出用』だ」
ソウゾウの太い腕が、猛烈な速度でマルチモニターのキーボードを叩き始めた。残像が残るほどの凄まじいタイピング音。筋肉が軋み、彼の肌から熱気という名の蒸気が立ち上る。
「私の真の芸術……至高の箱庭は、ここからだ! 監視グループの目を欺く『通常世界』の外皮(偽装ホログラムバリア)を展開……! ここからは、私だけの領域だ!」
画面の奥深く、パスしたばかりの通常世界の「内側データ」へと潜り込んでいく。
ソウゾウにとって、ここからのコード構築は、神聖なる『園芸』そのものであった。
「まずは概念の『種』を植える……! よし、ここに物理法則の『水』を注ぎ込め。急速に発芽しろ、私のパッション(情熱)よ……!」
キーを叩く指先から血が滲む。しかし、彼の知的中二病脳は臨界点を突破していた。
「チッ……余計な重力子が混じったな。この『世界の邪気(雑草)』め、一本残らず根絶やしにしてやる……! 空間の広がりが美しくない。この次元の『無駄な葉』は、私の論理という名のハサミで切り落とす(剪定する)……!」
彼が血と汗を流し、すべての栄養を注ぎ込んでデータ上で開花させたのは、神界の規律では100%即処刑となる、歪みに歪んだ禁忌の世界。
――植物しかいない、しかし自立歩行し、驚くほどおしゃべりな奇抜すぎる世界であった。
「よし……。開花したな、私の最高傑作が……!」
画面の中では、生まれたばかりの植物たちが「わーい!」「喋れるぞ!」とガヤガヤと騒ぎ始めている。ソウゾウは鋭い眼光で画面を睨みつけ、ボソリと呟いた。
「静かにしろ。……神界の上層部どもにバレたら、お前たちも私も終わりだぞ」
完璧な偽装の外皮をパチンと閉じ、すべての証拠を隠滅した。
ソウゾウは椅子の背もたれに深く体重を預け、肩で激しく息をする。
全身から汗が噴き出し、やり遂げた達成感と、己の犯した大罪への恐怖が混ざり合う。彼は劇画調の最高にシリアスな顔で、冷や汗を流しながら、ポツリと呟いた。
「……創造しちゃったな。創造と創造の創造で……創造しちゃった」




