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スキー場でクラスメイトの男の子に声をかけられた  作者: ユタニ


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3/12

3.津山家とのスキー(1)


奈津が津山家の日帰りスキーにお邪魔させてもらうことになったのは翌週の土曜日だった。

朝5時、自宅の前に黒のファミリーカーが停まる。津山家の車である。


(本当に来た)

約束したのだから来るのが当たり前なのだけれど、聞いていた通りの車種とナンバーの車が現れたことに現実味がない。


(私がクラスの男の子の家族と出掛ける日が来るなんて……)

緊張して変なことをしないかと不安になるが、行き先はスキー場なのだ。

大丈夫、スキーだし何とかなるだろう、と奈津は不安を追いやった。


友人、しかも異性の家族とスキーに行く、と聞いて心配して一緒に待っていてくれた母が運転席に挨拶に行く。

その間に津山が降りてきて、奈津のスキーブーツと板を車の後ろに積んでくれた。


母が「行ってらっしゃい」と見送ってくれて、奈津も車に乗り込む。


「おはようございます。お世話になります」

津山の両親に挨拶をすると「こちらこそ」と笑顔を返された。


津山の父親は彫りの深い物凄い美形だった。日本人離れしたその顔立ちは異国の血が混じっているようにも思える。

自分の父親とのあまりの違いに奈津はちょっとだけ息を呑んだ。

その隣の津山の母親は父親に比べるとあっさりはしているが整った顔立ちで、美男美女である。

そして津山は母親似のようだ。


津山父と母への挨拶が終わると津山は、狙っている女改め妹を紹介してくれた。

「こっちは妹の(あきら)


晶は津山とは年子で高校1年生らしい。父親にそっくりのすごい美人で、長い睫毛はまるで濡れているようにしっとりと大きな瞳に影を落としていて、肌は白く眉はきりっと上がっている。顔の彫りが深くて鼻と口の造作が彫刻のようだ。


「渡辺奈津です」

奈津が名乗ると、晶は用心深そうにぺこりと頭を下げた。


奈津はファミリーカーの三列シートの二列目に晶と並んで座った。津山は三列目に一人で座る。


「じゃあ、出発ね」

津山母の号令で車が動き出す。

奈津は自分の母に小さく手を振った。


奈津の隣に座る晶は最初、ほとんどしゃべらなかったけれど車が高速に乗ったあたりで奈津に慣れてきたらしい。ぎこちなくはあるが「どうぞ」と微笑みながら小袋のお菓子をくれた。


車内では主に津山と津山母が喋った。

津山母は奈津を“奈津ちゃん”と呼び、津山がなぜスキーを教わりたがっているかを教えてくれた。


「隼人はさ、二月の修学旅行に間に合わせたいのよ。北海道でスキーなんでしょう。初心者のくせに調査票にはボーゲンは可能って書いちゃったから焦ってるの」

「ちょっと、かっこ悪いからそれは渡辺さんに言ってないんだよ」

三列目シートから津山が抗議して、どうせすぐばれることじゃん、と妹の晶が言う。

 

「何だよ、晶だって似たようなものだろ」

晶は晶で来年の修学旅行に備えて今から滑れるようになっておくらしい。


「私の高校の修学旅行は、沖縄カヌーか北海道スキーで、たぶん北海道なんだ」

晶が奈津に説明してくれた後、兄と妹で「ボードかスキーか選ばせてくれたらいいのにね」と声を合わせる。

声が揃ったのが可愛くて奈津は口角をあげた。


津山の家族と車に乗るなんて、もっと気の張るのを想像していたのだが、結構気楽だ。奈津はほっとして肩の力を抜いた。

二時間弱のドライブの後にスキー場に着く。着いて早々に津山の両親はボードを履いて行ってしまった。これはいつものことで集合は帰る時だけらしい。


残された三人でスキーにとかかる。津山と晶はスキーセットをレンタルする所からだ。


「「おもっ」」

板を受け取った二人の声がまたもや揃った。

そしてまずスキーブーツを履いてみる。


「固い……」

津山が足を入れようとして驚いている。

「履いたこともないの?」

「ないよー。え、無理。何これ、足折れたりしない?」

そう言いながら津山は何とかブーツを履いて「こんな固いのにどうやって歩くんだ」と言いながらも何とか歩き出す。

晶も言葉は少ないが似たような反応だった。


その後、板とストックを担いでゲレンデまでたどり着いた津山と晶は、既に額にうっすらと汗をかいていた。


「とりあえず、板もつけようか」

そうして板をつけると、今度は板が簡単に滑り出してしまうことに戸惑う津山と晶。

体制を立て直そうとして尻もちをつき、起き上がろうとしては滑り出してしまうので再度尻もちをつく。


「えーっとね、板を斜面に対して垂直にして……」

指示をだしながら、これはしばらくリフトに乗れないな、と奈津は思い、まずは平地で少し歩いてもらうことにした。



「うん、うん、上手。上手だよー!」

よたよたと板を動かす二人に奈津は声をかける。

人に何かを教えるのなんて初めての奈津は、とにかく褒めた方がいいだろう、とたくさん褒めることにしたのだ。

津山と晶が「えへへ」と嬉しそうに笑う。


(よかった、褒めるので間違ってないんだ)

二人の笑顔に奈津は胸を撫でおろした。


その後も「すごい!」とか「二人とも元々の運動神経がいいんだね!」と頑張って褒めた。

褒めることに集中してしまうと、津山に対して感じていた気恥ずかしさはいつの間にかどこかへ行っていた。


歩くのに慣れた後は、リフト前の緩やかな斜面を横歩きで少し登って滑ってみる。

スキー板に慣れない津山と晶は斜面を登るだけで汗だくになった。


「渡辺さんは、なんで汗かかないの?」

心底不思議そうに津山が聞いてくる。

「かいてるよ」

「嘘だあ、あー、めっちゃ暑い」

「頑張って。さ、滑ってみよう。こうして板で八の字を作って、エッジをこう、たてるの。これでほら、ゆっくり滑っていけるでしょ」

ずずず、と奈津はゆっくり滑ってみせた。


「はい、津山くんと晶さんもどうぞ」

促すと二人が見様見真似で滑り出す。

だが奈津のように、ずずず、とはならずにあっという間にスピードが出て、あっという間にこけた。


「うおっ」

「ひゃあっ」

「何とか立ち上がって、また滑ってみよう。大丈夫、出来るよ」

こうなるのは想定内だ。体で覚えてもらうしかない。


「どうやって立つの、ひゃああぁー」

立ち上がりながら後ろに滑ってしまって晶が悲鳴をあげた。

「落ち着いて、止まれないならお尻ついてこけてー」

助けようと追いかける奈津。体を入れて何とか晶を止めると、その横をすごい勢いで津山がやはり後ろ向きで滑って通り過ぎ、斜面の下で大きくこけていた。


「「後ろにも滑るなんて聞いてない」」

斜面の下で再び声を揃える二人。


「そういうものだから」

奈津は苦笑いしながらそう返すしかなかった。

 

そこからも二人を励まして、三度斜面を横歩きで登り滑る、というか転げ落ちる、を繰り返した。

四度目の挑戦をしようかという時、晶が「まずもうちょっと板の感覚に慣れてみる」と言って自主トレを選ぶ。

晶は平地で歩いて、傾斜と言えないような傾斜で八の字でじんわりと進んで感覚を確かめだした。


「津山くんはどうする?」

「俺はもう一回登る」

津山はそう言うと、黙々と斜面を登りだした。

 

「渡辺さんはすごく簡単そうにやってるのになあ。コツとかないの?」

斜面を登りきってから津山は奈津に聞いてきた。目がちょっと恨めしげだ。

  

「板をハの字にするの」

「それはもうやってるよ」

「……うーん、内股にするというか、体重を親指側にかける感じかな。膝を近づけるようにするといいのかな?」

そう言いながら、体重のかけ方を一切説明していなかったなと奈津は気付いた。


このアドバイスが効いたのかは分からないが、その後、津山は登った斜面をなんとかこけずに滑り降りた。

 

「やった! 渡辺さん、できた! 晶! 見た? 見てた?」

ガッツポーズではしゃぐ津山。

その姿は大分可愛いし、教えた奈津としても達成感がある。

「できてた! すごかったよ!」

奈津も大声でそう返した。

 

小一時間もすると、津山も晶も八の字で直滑降で滑れるようになって、晶は右になら曲がれるようになった。

そこで一度リフトに乗って初級コースへ上がる。


二人は、リフト降車時にリフトを止めたり、同じように練習中の子供にぶつかりそうになって大慌てになりながらも、30分かけて初級コースを滑り降りた。


「手袋に雪が入ってきたのなんか、何年ぶりかなあ」

津山は手袋を外して感慨深げだ。

「小さい時はたくさんこけて、よく手袋がびしょびしょになってたけど、それなりに滑れるようになってからはそんなにこけてなかったからさ」

「大丈夫、私なんかブーツの中に雪入ってきてるよ」

晶がそう言ってなぐさめる。


そういえば、小学生くらいまでは昼食時にレストハウスのストーブで手袋を乾かしていたなあと奈津は思った。

手袋が濡れなくなったのはいつからだろう。



その後、曲がり方のおさらいをしてもう一度初級コースへ行き、コース終盤には津山も晶も、何とかボーゲンができるようになった。




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― 新着の感想 ―
中学生の頃に一回だけしたスキーを思い出しながら想像してます!笑
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