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スキー場でクラスメイトの男の子に声をかけられた  作者: ユタニ


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2.津山くんからのお誘い


三学期が始まって一週間たった頃の選択授業の時間。二週に一度ある選択の授業は三クラス合同の授業だ。

美術、書道、パソコンの三つからの選択制で、学年の最初に希望を取る。授業中ずっとゲームができるパソコンが圧倒的に人気で、美術と書道は選択する生徒が少ない。


奈津はゲームに興味はなかったし、書道よりは美術だと消去法で美術をとっている。

そして奈津のクラスで美術を選択しているのは四人だけで、奈津と津山はその四人の中の二人だった。

 

その日の課題は写生か模写で、季節外れの暖かな陽気の日だったので、ほとんどの子は外へ写生へ出かけて行った。

授業中の校内を大手を振ってウロウロするのは結構楽しいから、その気持ちはよく分かる。

奈津は選択美術には友人もいなかったので、写生には行かずに模写を選んだ。


模写を選んだのは数人で、奈津と津山と隣のクラスの仲良し女子達。先生が写生組を見に出て行ってしばらくすると仲良し女子達も、ねえねえ、ちょっと外行こうよ、と言い合って出て行ったので、美術室で奈津は津山と二人きりになった。


げっ、どうしよう、と思う間もなく津山は当然のことのように奈津の席の隣に移動してきた。

ひえっと及び腰になるけれど逃げるわけにもいかない。

 

「ねえ、渡辺さんってスキー好きなの? 年明けにスキー場で会ったよね」

「……うん。親が好きで小さい時から毎年連れられて行ってたから自然に」

津山はとても普通に話しかけてきて、奈津はドキドキしながらも何とか声を上ずらせずに答えることができた。

 

(あ、ちゃんと返せた)

意外に自然に話せた自分に驚く。津山の話しやすい雰囲気のせいだろうか。スキー場でばったり会って親近感も湧いていたのかもしれない。

 

「よく行くの?」

「前は両親とよく行ってたんだけど、三年前に父が膝を痛めてからは全然行けてない。兄がたまに行く時に連れて行ってもらうくらい」

「へー、お兄さん、優しいね」

「彼女が優しい人なの。もうずっと付き合ってる人で、スキー行く時も彼女が誘ってくれるんだ」


「いいね、そういうの。あ、渡辺さんが滑ってるの、リフトから見えたよ。スキーがすごく上手だよね、びっくりしたんだ。何かやってたの?」

「えっ、ありがとう。何もやってないよ。でも、滑るのは楽しいし、上手くなりたかったから親と行ってた時はスクールに沢山入って教わったりした……津山くんもボードが上手だったね」

最後の一言は心臓が爆発しそうになりながら付け足す。


「いやいや、俺のは普通のレベル。渡辺さんはインストラクターみたいじゃん、ウェアも昔のロボットみたいでかっこいいしね。スキー! って感じだった」

「あのウェアはお父さんのですごく古いの。昔のスキーヤーみたいでしょう」

ロボットと言われて奈津は顔が熱くなっていくのを感じた。


ウェアが時代遅れだという事は百も承知なのだ。白が基調で胸元や肘と膝にはロボット風の赤と青のラインが入っている。肩はかっちりした形で全体的に細身である。

新調するのは高いし、まさかスキー場で知り合いに会うとは思っていなかったから、まあいいかとそのままだった。


(からかってるのかな)

奈津の顔にどんどんと熱が集まる。

 

「あはは、確かに。でも昔な感じですごく上手だから逆にかっこ良かったよ」

津山はからりと笑ってから奈津の様子に気付いた。


「あれ? ごめん、ウェアのことを言われるのはちょっと嫌なんだね」

「嫌っていうか…………」

奈津がもごもごすると、津山はさらりと話題を変えた。

 

「滑るのは楽しい?」

「えっ」

「滑るの、楽しい? 見てたらすごく楽しそうだったから」

「うん。滑ってる時の疾走感とか、世界に一人っきりな感じになるのが好きなの」

答えてからすぐに、変に深そうなことを言ってしまったと後悔した。ウェアをからかわれていたわけではないとほっとして、気が緩んだのだ。

 

(どうしよう、なんか暗くて痛い女だと思われちゃう)

上手く誤魔化さなくてはと焦る奈津。

でも津山は「それ、ちょっと分かるなあ」と相槌を打った。

 

「わ、分かる?」

「うん、自分の滑る音しか聞こえない瞬間あるよね」

その共感に嬉しくなってしまう。

自然と頰が緩んだ。奈津がへらっと笑うと津山も笑った。


そして津山は笑顔の後で奈津を見つめてきた。

二人の目があって、共感しあった後の親密で温かな空気が漂う。


(あれ?)

何だこれは、青春漫画の一コマみたいだ。

奈津の心臓がトクトクと音を立てだす。

こんな事が自分の身の上に起こっていいのだろうか。

 

「俺さ、三学期始まってからずーっと渡辺さんに話しかける機会狙ってたんだよ。今日、模写で残ったのもわざと」

奈津を見つめながら津山は言った。


「えっ」

びっくりして心臓が跳ね上がる。

まるで告白シーンだ。


(うそうそ、何これ)

もし告白なんてされたら一体どうすればいいのか、と一瞬だけ考えてから、すぐにその考えを打ち消した。

落ち着かなければ、告白なわけはないのだ。

 

「変な意味じゃないからね。スキーの話をしたかったんだけど、渡辺さん、クラスでは仲良し女子で固まってるからさあ。流石にあそこに分け入ってまで話しかけれないし、選択美術があって良かったよ」

「そ、そっか」

何だスキーの話か、と奈津はほっとした。


「うん、誘いたかったんだ。今度、一緒に行かない? 良ければスキー教えてよ」

「ええっ」

奈津は声ひっくりかえってしまった。また顔が熱くなっていくのを感じる。

津山は別に奈津を好きとかではないだろうし、これはデートの誘いとかではない。それは分かっている。

分かっているが、異性からのお出かけの誘いを経験したことが無い奈津の体温は一気に上がった。

そしてこの誘いは軽く受けるものなのか、断るものなのかが全然分からない。


「え、えーと、」 

「ダメ? 格好も本気っぽかったし、板も自前だったからよく行くのかと思ってて、なら一緒にどうかなあ、と思ってたんだけど」

少し身を屈めて上目遣いで聞いてくる爽やか男子。

 

(ぐっ、可愛いな。わざとやっているのかな)

胸がキュンキュンするから止めてほしい。

 

「で、でも、狙っている女はどうするの?」

とっさにそう返した自分に奈津は喝采を送った。

我ながら素晴らしい返しだ。これで自然に断ろう。

津山とのスキーなんて奈津にはハードルが高すぎる。ここは断るべきだ。


でも奈津の素晴らしい返しに津山は笑った。

「あはは、あれは妹なんだ。狙っている女は嘘だよ」

「そうなの?」

「うん、俺も家族で行ってたんだもん。親と妹と四人だよ」

「そうなの?」

「車ないとスキー場まで行けないでしょ。でもクラスの女の子に家族で来たって言うの恥ずかしいじゃん」

「そうなの?」

ああ、さっきから、そうなのばっかりだ。

自身の語彙力のなさに打ちひしがれながらも、奈津は津山も家族で来ていたと聞いて何だか安心した。

ということはスキーには津山の家族と一緒に行くのだろうか。それなら随分とハードルは低い。

 

「妹もスキーしてみたいから教わりたいって。うちの親はボードばっかりでスキーしないんだよ。この歳で妹とスクール入るのも嫌だしさあ。シーズン中は大体家族で毎週どっかのスキー場には行くから渡辺さんの都合のいい日は一緒に行こうよ」

ぐんぐん下がるハードル。


「車に乗れるかな?」

「うちの車はファミリーカーで大きいから余裕。両親は俺らがいなくてもどうせ毎週行くから、それにくっついて行くだけで、父さんも母さんも乗れる人数なら友達誘ってもいいよって言ってるし、平気だよ」

津山がにっこりする。

それを聞いて奈津はまず、上手くいけば今シーズンは何度もスキーに行けるな、と思った。


奈津はスキーが好きだ。 

初めてゲレンデに連れて行ってもらったのは三歳の時。自分では憶えていないが、小さかったせいもあって、板を履いてすぐにキッズ用ゲレンデで全然怖がらずに直滑降で滑って楽しんでいたらしい。


それからは毎年、シーズンになると家族で日帰り圏内のスキー場に5、6回行き、二泊三日のスキー旅行に一回行くようになった。

詳しく聞いたことはないが、父と母はゲレンデで出会って恋に落ちたらしく、両親にとってスキーは特別なものだったようだ。


幼稚園のころはただただ直滑降で降りる時の疾走感が大好きだった。冷たい風が頬に当たって、耳元で逆巻く音がするのがたまらなくて、その感じは今でも好きだ。


小学校四年生の時、吹雪の中を滑っていると世界に居るのは自分一人だけのような感じがした。

奇妙な浮遊感があり、ゲレンデで流れる音楽が膜を隔ててぼんやりと聞こえているように感じた。まるで白い繭の中に一人でいるようだった。それはとても心地よい瞬間で、これだ! と奈津は思った。この感じが好きだと。

 

そこから奈津はスキーが上手くなりたくて、猛然とスクールに入って腕を磨いた。

中学生になる頃には板を揃えてターンしながら降りてこれるようになり、こぶの多い斜面も問題なく滑れるようになった。上級者向けのコースは人が少なく自分の世界に浸れるので喜々として向かった。

 

毎年、楽しみにしていたスキーシーズンだったのだが、中学二年の時に父が膝を痛めて家族でのスキーは激減してしまう。

父は手術もして日常生活は問題なくなったのだが、今後、膝に負担のかかるようなことは極力しないようにと医師から言われてしまった。両親は泣く泣く毎年の家族のスキー旅行もやめることにした。

「みんなで行って、父さんだけレストハウスに置いて行くなんてできないわよ」と母は言い、その意見は尤もだった。

 

残念がる奈津を兄がたまに連れて行ってはくれたけれど、年に一回か多くて二回で奈津はもっとスキーに行きたかったのだ。


クラスの男子の家族と一緒に遠出する、というイベントは普段の奈津であれば尻込みしただろうが、スキーならば話は別だ。

奈津は即答した。

 

「行く。教えたことないけど大丈夫かな、あと教えるのは午前中だけとかでいいかな」

「いいよ。俺も午後からはボードしたいしね」

奈津は津山と連絡先を交換して、早速その週末には津山家の日帰りスキーに同乗させてもらうことになる。


津山を友達と言っていいのか分からないが、友達の家族と出掛けるなんてことも小学生以来だった。



 

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