お前なんか聖女じゃないってのはまあ許すとして、災厄の化身とかゆーな
すべからく運命には従うべし。
とはゆーものの、あたしの場合はどうなんだ?
お前なんか聖女じゃないってのはまあ許すとして、災厄の化身とかゆーな。
どういうことか?
説明するね。
神様の恩恵ってやつがあるんだよ。
神様に気に入られると特殊能力を授かるってやつ。
その恩恵の中に『聖女』っていう結構すごいやつがあって。
回復・浄化・結界・破魔みたいな、いわゆる一般的な聖女のイメージに合うような魔法を、神様の力を借りて使い放題だという。
もっともあたしは他の魔法の勉強もさせてもらったから、魔法何でも来いだよ。
色々教えてくれた宮廷魔道士の皆さんありがとう。
おかげで今のあたしは災厄の化身です。
災厄の化身って言っても何のことだかわからんね。
今ではあたしの異名みたいになってるんだけどね。
理解できるよう、あたしの生い立ちから話そうか。
◇
あたしは故郷の山では評判の美少女だったわけだよ。
小さい頃からナチュラルに回復魔法を使えたから、おそらく恩恵持ちなんだろうって言われてて。
王都の宮廷魔道士が調査に来て、『聖女』の恩恵持ちだって判明して。
一〇〇年ぶりに発見された聖女だ、君の力は万民のために使うべきだって諭されて。
故郷を離れるのは寂しかったけど、王都のスイーツはメチャクチャ美味いぞって言葉には勝てなかったな。
はるばる来たぜ王都へ。
一〇〇年ぶりの聖女ってのは結構なストロングポイントらしくてさ。
あたしはフリソアール王国第一王子スカール殿下の婚約者になった。
『お前が聖女ニーナか』
『スカール王子かな? よろしくね。にこっ!』
一発で落ちた。
スカール殿下は照れ屋さん。
まあ最初は婚約者らしく仲良くやってたよ。
殿下が王立学校に通い始めてから関係がおかしくなった。
聖女とはいえ平民のあたしが、将来王になるルートが見えてるスカール殿下の婚約者なんて、面白く思わない有力貴族が大勢いるわけさ。
いや、その頃はあたしも猫被ってたし、今思えば人脈も偏ってたから、なす術がなかったな。
あたしも王立学校に通ってりゃどうにかできたかもしれんけど、貴族じゃないあたしには入学資格がなかった。
入学資格は王家のコネでどうにでもなっただろうって?
まあね。
でも聖女ってあちこちに駆りだされるんよ。
聖女を働かせて庶民人気を得、王権を強めたい思惑があったらしくて。
また宮廷魔道士は『聖女』をより深く研究したいらしくてさ。
そっちにも顔出さなきゃいけなかったから忙しかった。
えっ? スイーツを食べさせてもらえたから釣られたんだろうって?
否定はしないけれども。
スカール殿下もなあ。
可愛げのある人ではあったけど、あんまり賢くはなかったな。
当然だけど、貴族にとってあたしは邪魔者。
王立学校で殿下は四六時中あたしの悪口を吹き込まれたらしくて。
段々あたしへの視線が、胡散臭そうなものを見るような感じになってきた。
あたしも最初は王子様の婚約者だって浮かれてたけどさ。
現実が見えてくると難しいわ。
スカール殿下もあたしじゃなくて、高位貴族の令嬢を婚約者にもらうべきなんじゃないの?
だってお相手が平民じゃ反対が多いもん。
一〇〇年ぶりに現れた聖女ってのがまた状況をややこしくする。
古の聖女の立派な業績は伝えられてるけど、イコールあたしの手柄ではないし。
あたしの立ち位置とか権威とかが確立されてないんよ。
スカール殿下の婚約者であるのも、期待料込みだしな。
『僕は聖女ニーナとの婚約を破棄する! 聖女ニーナは王都から追放する! いや、お前なんかが聖女とはおこがましいからクビだ!』
スカール殿下ったら、とあるパーティーでこれだよ。
あたしに咎があるわけじゃないのにおかしいだろって?
いや、そもそも王子と平民だからね。
聖女であっても貴族の支持を得られないんじゃ、ストロングポイントは雲散霧消しちゃう。
ま、婚約破棄は仕方ない。
『聖女』は神様の恩恵で役職じゃないからクビってのはよくわからんけど、あたしにできることはやった。
王都にいる間に知り合いも増えたし魔力も伸びた。
物事前向きに考えようじゃないか。
自由の身になったのはいいことだ。
追放のせいで王都の洗練されたスイーツを食べられなくなったのは残念だけど。
ばいばーい、あたしは王都を後にした。
◇
――――――――――スカール第一王子視点。
父上にこっぴどく叱られた。
何故聖女ニーナを去らせたのだと。
評判が悪いからだよ。
誰も彼もがニーナの悪口を言う。
顔だけ聖女だの下品だの所詮平民だの毎日言われれば、僕だって嫌になるわ。
『百歩譲って婚約破棄まではまだわかる。王都から追放したのは何故だ?』
『顔も見たくないと申す者が多いですから』
『市井の声に耳を傾けたか?』
平民の世論ってこと?
そんなの聞く機会がないじゃん。
えっ? ニーナの市民人気は高い?
王家の支持率アップに聖女を利用していたのに、何てことしてくれた?
前もって言っといてよ、そういうことは。
婚約破棄までは仕方ない。
聖女に相応しいポストを用意しておくから、とにかくニーナを連れ戻せと命じられた。
王都追放処分にしたのに連れ戻すんじゃ、僕の言葉が軽くなっちゃうんだが。
「三日前に王都近隣の村セゾで目撃報告が」
「同じく三日前、ポルテラで食べ放題イベントに参加したとのこと」
セゾとポルテラじゃまるで逆方向じゃないか。
あれか、ニーナは飛行魔法で飛び回るから。
捕らえるのは意外と大変に思えてきた。
父上は僕に直接出向けと言ってたけど、案外難しい任務なのかな。
「よし、捜索隊を全方向に出せ。聖女ニーナに接触したら、理由を話して連れてこい」
「スカール殿下、それは不可能かと思われます」
む? こいつは僕につけられた宮廷魔道士か。
名は確か……。
「何故だ、ヨーキ」
「聖女ニーナは殿下から直々に追放処分を言い渡されたのですよ? 伝令兵ごときに王都に帰れと告げられても、言う通りにするはずがありません」
「僕の言葉の方が重いからか」
「さようです」
この宮廷魔道士はわかってるじゃないか。
僕の言葉は軽くない。
ニーナを聖女扱いするところだけは気に食わんが。
「何かの陰謀ないし罠と思われると、逃げられてしまう可能性が高いです。聖女ニーナほどの魔法の使い手が本気で逃げたら、絶対に捕まりません」
「む、もっともだな。ではどうすればいい?」
「宮廷魔道士の自分は聖女ニーナと面識がありますので、説得することは可能だと思います。単独で彼女を追うことをお許しください」
「よし、許す」
「殿下は確実に殿下の命令、王家の命令とわかる令状を御用意ください。それを捜索に当たっている各伝令兵に持たせればいいと思います」
うむ、時間はかかるかもしれないが確実だな。
なかなかこのヨーキという魔道士、頭が回るではないか。
「よし、そなたの言う通りにしよう」
「ありがとうございます。聖女ニーナは怪しい者に追われているなどと感付かなければ、最終的に故郷のメヘレス山麓を目指すと思われます。ぜひ御記憶ください」
「おお、参考になる意見だな」
「では自分はこれより聖女ニーナを追います」
◇
――――――――――一〇日後、名産の桃で知られるユータオの町にて。聖女ニーナ視点。
「よっ、ニーナちゃん、久しぶり」
「あれえ? ヨーキさんじゃん。こんなところでどしたん?」
宮廷魔道士のヨーキさんだ。
ヨーキさんは甘いものをよく知っている、できる男なのだ。
あたしを餌付けしたとも言う。
「ニーナちゃんは王都を追放されたから、各地の美味いものを食べて故郷に帰るつもりだったんだろ?」
「うん」
「とすると今の時期ならユータオの桃を見逃すわけはないから、先回りして待ってたんだ」
「ヨーキさんはやるなー。完全に読まれてたわ」
アハハと笑い合う。
しかし?
「つまりあたしに会いたかったってこと? 何で」
「スカール殿下が君を追ってるんだよ」
えーと何々?
婚約破棄はともかく、聖女みたいな稀有かつ重要な存在を王都から追い出すなんてやり過ぎだと、スカール殿下が陛下に怒られた?
聖女に相応しい役職を用意するから、戻ってこい?
「ははーん? でもあたし聖女クビになったんじゃなかったっけ?」
「恩恵持ちをクビになんかできるわけないだろ。全てスカール殿下の独断だよ」
「つまりヨーキさんはあたしを連れ戻しに来たん?」
「正確には、ニーナちゃんが追われていることを知らせに来た、だね」
「どゆこと?」
どこが違うん?
ヨーキさんは命令を受けてるわけじゃないのかな?
「連れ戻せという命令を受けてることは受けてるよ。でもそんなのしらばっくれてもいいわけだから」
「ははあ?」
「ニーナちゃんがどう考えているかわからなかったからさ」
「あたしの追放処分自体はどうなってるのかな? 王都のスイーツはおいしいんだよね。戻れるなら考えるけど」
「どうだろう? 簡単に取り消せるほど王族の言葉は軽くないと思う。王都近郊か、あるいは王家直轄地のどこかで役職に就くってことになるんじゃないかな」
「だよね」
ってことは戻っても多分、王都内には入れない。
だったらスイーツ食べ歩きはできない。
働かされるだけ。
実につまらん。
「じゃあ知らんぷりして逃げちゃう」
「そう考えると思ったんだ。自分も一緒に行っていいかい?」
「えっ?」
「ニーナちゃんの飛行魔法なら、自分が同行しても大丈夫だろう?」
「そりゃまあ。ヨーキさんがいれば楽しいと思うけども何で? 宮廷魔道士としてのお仕事は?」
「辞める。ニーナちゃんのいない王都なんて味気ない」
随分と思い切るなあ。
えーと、それはつまり?
「ニーナちゃんのことが好きなんだ」
うおお、ヨーキさんいきなりぶっ込んできたわ。
意表突かれ過ぎてあたしも顔が赤くなったの自覚できるわ。
ヨーキさんは頼れるいい人だしな。
「ずっとニーナちゃんはスカール殿下の婚約者だったから、今まで言えなかったけどさ」
ヨーキさんってこういう時でも目を逸らさない人なんだな。
誠実で一生懸命な性格で。
甘いもの好きとゆー、共通の趣味もあるし。
思えば宮廷魔道士の中で一番構ってくれた人だった。
いい人だってことは知ってる。
お買い得じゃね?
「……よく考えてみると、あたしもヨーキさんのこと好きだな」
「ニーナちゃんって感覚派みたいに思えるけど、恋愛関係は考える人?」
「いや、考える余地がなかったんだよ。だってあたしずっと、スカール殿下の婚約者だったじゃん?」
「そうだった」
王都に連れていかれて当たり前みたいにスカール殿下の婚約者にされて。
初めは気に入られたけど後に疎まれて。
殿下が根っから悪い人だとは思わんけど、信念がないよなあ。
スカール殿下の婚約者だったことが諸悪の根源に思えてきたわ。
「殿下には、ニーナちゃんは最終的に故郷のメヘレス山麓を目指すだろうって言ってあるんだ」
「おおう、まさにそのつもりだったわ」
「簡単に裏をかける。薬草をたくさん摘んでいって、港湾都市国家トモノーラで薬屋やらないか? 外国まで殿下の手が伸びるとは思えないし、トモノーラなら情報も得やすい」
「いいねえ」
「トモノーラは食い物が美味いよ。きっとスイーツも」
ヨーキさんは色々考えてくれてたのか。
嬉しいなあ。
「じゃあ、桃を堪能したら行こうか」
◇
――――――――――一年後、トモノーラにて。聖女ニーナ視点。
「納得いかないんだけど」
納得いかないことばかりとゆーわけではない。
トモノーラの下町に住みついて開業した薬屋は大繁盛。
あたしが時々飛んで薬草を摘んできてヨーキが薬にして売ってるから、材料費タダなんだよね。
安く販売することができるんで、繁盛するのは当たり前。
手に入った薬草で作れる薬しか売らないから、他の薬屋にそう恨まれることもないし。
うまいこと住み分けてる。
あたしの回復魔法?
あまり見せないことにしている。
聖女ってバレると面白くないことになりそうだから。
一応使えるよ、緊急時には力になるよ、ってくらいの一般認識だと思う。
ヨーキとは結婚したの。
トモノーラの成人年齢は一六歳だから、ピッタリだったわ。
元いたフリソアール王国の成人年齢は一八歳だったので、二年お預け食うところだった。
ヨーキはトモノーラの成人年齢が一六歳って知ってたのかなあ?
えっちなやつめ。
うまくやってるじゃん。
何が納得いかないんだって?
フリソアール王国の事情だよ。
最初の話に戻るけれども、あたしが何故か災厄の化身って呼ばれてることがわかった。
情報が簡単に入るのも良し悪しだな。
御苦労さんなことに、あたしの元婚約者スカール殿下はまだあたしを追ってるらしいんだよね。
それであたしが故郷のメヘレス山にいると思いこんでるっぽいの。
多分あたしは故郷に帰るって、ヨーキが殿下に言ったから。
メヘレス山に行っちゃ山火事に遭ったり大規模落石に遭ったり雪崩に遭ったりしてるんだって。
だからってあたしを災厄の化身呼ばわりすんな。
ひっじょーに不愉快。
「あたしは何もしてないのに」
「ニーナは神の恩恵持ちだろう? なのに追いかけ回すから、スカール殿下は神の不興を買ってるのかもしれないね」
「やってることが見当違いだから、追いかけ回されてる気はしないけれども。でもそーゆーヤバげな可能性って、誰かが進言しないの?」
「当然してるだろうけど……試練なんじゃないかな?」
「試練?」
どゆこと?
「このままだとスカール殿下は、ニーナを連れ戻せっていう命令一つこなせないってことになる」
「うん」
「それどころか居場所すら掴めてないだろう? せっかく自国に誕生した聖女をフリソアール王国の発展に繋げたかった陛下の思惑と、全く逆を行っている」
「あれ、じゃあスカール殿下は陛下に見限られちゃう?」
「多分ね」
つまり陛下がスカール殿下に課した試練っていう見解か。
スカール殿下には悪いけど、フリソアール王国にとってはいいことなんじゃないの?
殿下のいいとこって顔と可愛げくらいだし。
大体周りの意見に振り回されちゃうのがよろしくないわ。
正妃様の子で第一王子だったから何となく次の王様ってポジションにいただけでしょ。
次代の王失格となれば、第二王子第三王子のやる気も出るんじゃないの?
「それでもニーナがスカール殿下の婚約者のままだったら、特に問題はなかったと思うんだ。ニーナの庶民人気は圧倒的だったから」
「んー、あれ? 殿下の今の婚約者って誰なんだっけ?」
「決まっていないようだね。陛下がスカール殿下を見切る姿勢を見せているから、年頃の令嬢を持つ高位貴族は様子見なんじゃないかな」
「哀れだなー」
スカール殿下も可哀そうっちゃ可哀そう。
でもあたしも婚約破棄された側だし、同情するのもおかしなものだ。
殿下は自業自得。
「もっとも自分はスカール殿下にありがとうって言いたいね。殿下がしっかりした王子だったら、こうしてニーナと結婚することなんかできなかったろうし」
「言うなあ」
「こうして賢く可愛く明るく行動力のあるニーナと結婚することなんかできなかったろうし」
「盛るなあ。恥ずかしいわ」
「ニーナこそよかったのかな? お偉いさんの妻になる道も聖女として君臨する道もあったと思うんだけど。ただの薬屋の嫁なんかで」
「控えめに言って最高だね」
あたしはヨーキと暮らしている今がとっても居心地がいい。
あたしは聖女になりたかったのでも王子の婚約者になりたかったのでもなくて、幸せになりたかったんだと思った。
「じゃあ災厄の化身呼ばわりも我慢できる?」
「……できない」
「ニーナの恨みの根は深い、と。神の不興を買ってる説が本当なら、こりゃ当分スカール殿下の不遇は続きそうだなあ」
「あたし達の幸せの犠牲になってくれい」
「ひどい」
アハハ。
でも殿下も適当に許されて欲しいわ。
あたしは恨んでないからね。
災厄の化身と言いふらしたりしないなら。
「あっ、ちょっと動いた」
「えっ、どれどれ」
あたしのお腹の中には今、新しい命が宿っている。
駆け落ち同然のあたし達二人だった。
今でも満足しているよ?
けど三人になると一層充実する気がするんだ。
「ニーナ」
「ん……」
キスを落としてくれるヨーキは優しい。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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