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第七話

 夜の川沿い。

 月明かりが水面を銀色に染める。

 ルシアは、胸元の光を手のひらで抱え、川のほとりに立っていた。

 風が髪を揺らし、草の香りを運ぶ。

 でも、空気のどこかに、不自然な静けさが混じっている。

 「……なんで、こんなに落ち着かないんだろう」

 ミカの声。

 肩までの茶色い髪が月光に少し光る。

 瞳は好奇心で輝きつつも、どこか緊張している。

 ルシアは小さく息を吐く。

 胸元の光が、手の中でわずかに震える。

 まるで、警告するかのように。

 川向こうで、ヴァルが立っている。

 いつものように動かず、視線だけがルシアを追う。

 言葉はない。

 でも、存在が空気を引き締める。

 その瞬間、胸の奥で熱い圧力が広がった。

 光が、手のひらで強く震える。

 ――神界からの干渉だ。

 冷たく、理屈のない力が降りてくる。

 ルシアは手を閉じ、光を守る。

 逃げず、押し込まず、ただ胸に抱く。

 光の揺れが収まるまで、動かない。

 ミカは、その光景を見て目を丸くする。

 手を少し後ろに下げ、息を呑む。

 恐れているわけではない。

 ただ、何か大きな力を目の前にしているという認識。

 「……強いんだね」

 小さくつぶやくミカの声。

 感情がそのまま言葉になった瞬間だった。

 ルシアは、言葉を返さない。

 胸の奥で痛みが広がる。

 でも、手は離さない。

 光を守ること、それだけが今できること。

 ヴァルは、静かに歩み寄る。

 距離は保ったまま。

 低くつぶやく。

「……やっぱり、動き出したか」

 その声に、ルシアは肩を少し震わせる。

 動くべきか、止まるべきか。

 答えはまだ見えない。

 光が、手のひらでゆっくり輝きを増す。

 微かに温かく、しかし重い。

 世界の重みを手の中で感じる。

 ミカは小さく手を伸ばす。

 でも触れない。

 距離を置きながら、光の揺れを見守るだけ。

 ルシアは、胸元で光を抱え、少しずつ歩き始める。

 川沿いをゆっくりと進む。

 足音は軽く、でも世界の端で何かが変わったことを感じる。

 ――今日、何かが動き出す。

 ルシアの胸の奥で、痛みと決意が混ざり合う。

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